3. 溶接線方向のせん断強度
(1)傾斜角度の影響
溶接線方向と平行に負荷された時のせん断強度は、基本的に隅肉溶接部の傾斜角(θ)に無関係である。また、前報1)で示したように、両側の溶接ビードののど厚が同じ場合、溶接線方向のせん断強度は両側のど厚の全断面積で決まる。このことから、傾斜継手の場合も、両側ののど厚が極端に違わなければ、溶接線方向のせん断強度は、同じく両側のど厚の全断面積で決まると言える。
ここでは、傾斜継手の両側ののど厚を直角継手ののど厚(N0)と同じにするための脚長の計算式を検討した。
(1)傾斜角が+側(溶接ビードA)の場合には、溶接ビードAののど厚は、その溶接脚長を直角継手の脚長(L0)と同じにした場合、直角継手ののど厚よりも小さくなる。そこで、この傾斜継手ののど厚を直角継手ののど厚と同じにするためには、幾何学的に、Fig. 7に示すように、脚長(L)を式(1)で修正する。
ここに、L0は直角継手の脚長、φはπ/2-θ。
式(1)から、L/L0は、θが+10°で1.10、+20°で1.23と計算される。尚、式(1)の溶接脚長Lを用いた場合、L0の場合よりものど厚が増加する分、溶接ビードAの溶接線直角方向のせん断強度も若干増加することになる。
(2)傾斜角が一側(溶接ビードB)の脚長をL0とした場合には、逆にのど厚は若干増加するが、直角継手ののど厚と同じなる脚長を求めるには、傾斜角が+側と同様に、式(1)を用いて計算することが出来る。式(1)から、L/L0は、θが-10°で0.92、-20°で0.86と計算される。
Fig. 7 |
Idea of same length of throat thickness at Large angle bead of Inclined Welded Joint as that of Perpendicular Welded Joint |
(2)部分溶込みの影響
溶接線方向のせん断強度に及ぼす部分溶込みの効果を調べるために、Table 3に示すような溶込み深さを持つ直角継手を溶接し剪断試験を行った。試験片の全形は、Fig. 1(b)に示した傾斜継手試験片と同形としたが、試験部の溶接ビードは荷重方向と同じ方向とした。この試験溶接継手は、同じく、KA32鋼を用いて手溶接(溶接材料B17)で溶接した。部分溶込み溶接継手(AP1、AP2試験片)及び隅肉溶接継手(AA0試験片)とも、合計のど厚がウェブ板厚よりも小さい(n1+n2<13mm)。ここに、n1、n2は各のど厚。これらの試験片は、溶接ビードで破断し、Table 3に示すように、溶接線方向せん断強度は、ほぼ同程度であった。即ち、合計のど厚が同じならば隅肉溶接も部分溶込み溶接も同じ強度であることが分かる。
Table 3 |
Parallel Shear Strength of Welded Joints of Fillet Weld and Partial Joint Penetration Weld |
TP No. |
Throat (mm) |
Pmax
(kN) |
σmax
(MPa) |
n1 |
n2 |
n3 |
AP1 |
5.5 |
5.0 |
10.5 |
154 |
293 |
AP2 |
8.5 |
3.0 |
11.5 |
165 |
287 |
AA0 |
4.5 |
4.5 |
9.0 |
133 |
296 |
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(3)ギャップの影響
溶接線方向のせん断強度に及ぼすギャップの影響を調べるために、Table 5に示すようなギャップを持つ直角継手を溶接し剪断試験を行った。試験片の全形は、Fig. 1(b)に示した傾斜継手試験片と同形としたが、試験部の溶接ビードは荷重方向と同じ方向にした。この試験溶接継手は、同じく、KA32鋼を用いて手溶接(溶接材料B17)で溶接した。Table 4に各溶接部のど厚を、また、Photo 4に溶接継手の断面マクロ写真をそれぞれ示す。各試験片は、両溶接ビードのほぼ最小のど厚(MIN)部付近で破断した。Table 5に示すように、最小のど厚での溶接線方向せん断強度σmax(MIN)は、ギャップ量に拘わらずギャップの無い場合と同程度であったが、隅肉溶接部の見かけ上ののど厚での強度σmax(ST)は、ギャップ量の増加とともに低下した。ここに、σmax(ST)で考えた場合、日本鋼船工作法精度基準JSQS-19997)の“仕上げ:取付精度、取付時の隙間仕上げの標準は2mm以下、許容限界は3mm”は、隅肉溶接部のギャップが無い継手の強度よりも1〜2割程度小さい継手強度になっていることが想定される。
Table 4 |
Measurements of throat of Welded Joints of Fillet Weld |
TP No. |
Throat (mm) |
n1 |
n2 |
n1+n2 |
MIN |
ST |
MIN |
ST |
MIN |
ST |
AA0 |
4.5 |
4.0 |
4.5 |
3.7 |
9.0 |
7.8 |
AA1G |
4.4 |
4.4 |
5.8 |
4.0 |
10.2 |
8.3 |
AA3G |
2.7 |
3.6 |
5.6 |
4.8 |
8.3 |
8.4 |
AA5G |
4.2 |
6.4 |
4.0 |
6.7 |
8.2 |
13.2 |
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Web thickness: 13mm, Web width: 50mm
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Table 5 |
Gap Effect on Parallel Shear Strength of Welded Joint of Fillet Weld |
TP No. |
Gap (mm) |
Pmax (kN) |
σmax (MPa) |
MIN (/AA0) |
ST (/AA0) |
AA0 |
- |
133 |
296 (1.00) |
343 (1.00) |
AA1G |
1.0 |
143 |
280 (0.95) |
343 (1.00) |
AA3G |
2.6 |
122 |
294 (0.99) |
290 (0.85) |
AA5G |
5.2 |
126 |
307 (1.04) |
192 (0.56) |
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Photo 4 |
Sectional Views of Welded Joints of Fillet Weld with Gap |
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