3. 解析結果
3.1 基本的な変形挙動
まず、圧縮座屈モデルについて腐食ピットが存在しない場合の各板厚における変形挙動を平均応力と平均ひずみの関係でFig. 5(a)に示す。この図から分かるように、板厚が13あるいは16mmの場合は、塑性変形が進んでから最終強度に達し荷重低下を生じるのに対して、板厚が10mmの場合は、平均応力がほぼ降伏応力に達した時点で最終強度に達し荷重低下が生じ始める。
次に、せん断座屈モデルについて腐食ピットが存在しない場合の変形挙動を平均応力と平均ひずみの関係でFig. 5(b)に示す。この図から分かるように、塑性変形が進んでから最終強度に達し荷重低下を生じる。
Fig. 5 |
Average stress-average strain relationships
(no pit) |
(a) Compression
(b) Shear
3.2 予備解析結果
ここでは、解析精度に及ぼすピットの形状モデリング方法の影響を調査するため、圧縮座屈モデルの場合について、下記の3種類のモデリング方法について検討した。
Type SH-1:
一辺の長さが6mmの正方形のシェル要素を用いた形状モデル
Type SH-2:
Type SH-1同様にシェル要素を用いるが、ピットが存在する部分の要素をさらに細かくした形状モデル
Type SO:
ピットが存在する部分の要素をType SH-2同様に細かくし、ソリッド要素を用いた形状モデル
解析対象モデルはCA8-30-10であり、a/bは1とした。ここでは、対称性を考慮して矩形板の4分の1をモデリングした。なお、Type SH-2及びType SOは、文献[16]、[17]におけるモデリング方法を参考にしたものである。上記のそれぞれの形状モデルをFig. 6に示す。また、ソリッド要素を用いたType SOにおける1つの腐食ピットとその周辺のモデリング状況及びその断面図をFig. 7(a)及びFig. 7(b)に示す。Fig. 8にそれぞれの形状モデルを用いた場合の荷重変位曲線を示す。この図から分かるように、上記の3つの形状モデルを用いた解析結果はほぼ一致する。このことから、これら3つの形状モデルの中で最も簡易なモデルであるType SH-1を次節以降の解析において用いることにした。
Fig. 6 Geometrical modeling of CA8-30-10
Fig. 7 Geometrical modeling of corrosion pit
Fig. 8 |
Effect of modeling method on average stress-average strain relationships |
3.3 最終強度に及ぼす腐食ピットの影響
まず、圧縮座屈モデルについて、Fig. 9(a)、(b)及び(c)にそれぞれの板厚(t=10、13及び16mm)における腐食ピットが存在する場合の最終強度σu/σu0(最終強度σuを腐食ピットがない場合の最終強度σu0で無次元化したもの)と平均衰耗率の関係を示す。図中の実線は、一様衰耗の場合すなわち板厚一定で衰耗が進むと仮定した場合の最終強度を示す。これらの図から分かるように、いずれの板厚の場合も腐食ピットが存在する場合、一様衰耗の場合よりも最終強度の低下量が大きい。また、その低下量は、板厚が小さく腐食ピットが大きくなるほど大きくなる傾向が見られる。
次に、せん断座屈モデルについて、腐食ピットが存在する場合の最終強度τu/τu0(腐食ピットがない場合の最終強度τu0で無次元化したもの)と平均衰耗率の関係をFig. 10に示す。この図から分かるように、せん断座屈モデルの場合、腐食ピットが存在する場合、最終強度の低下量は一様衰耗の場合とほぼ同等かそれよりも大きい。また、その低下量は、腐食ピットが大きくなるほど大きくなる傾向が見られる。
Fig. 9 |
Relationship between ultimate strength and average thickness loss in compressive buckling analysis |
(a) t0 = 10mm
(b) t0 = 13mm
(c) t0 = 16mm
Fig. 10 |
Relationship between ultimate strength and average thickness loss in shear buckling analysis |
以上の結果から、平均衰耗量により最終強度を予測した場合、危険側の予測結果を与えることが分かる。
3.4 最小断面における平均板厚による評価
衰耗量を用いた解析結果の整理方法のひとつとして、前節では、全体の平均衰耗量で整理した結果について述べた。ここでは、荷重軸に対して垂直な断面で最も断面積が小さくなる断面における平均衰耗量により解析結果を整理した結果について述べる。まず、圧縮座屈モデルについて、最終強度σu/σu0と最小断面における平均衰耗率の関係をFig. 11(a)〜(c)に示す。これらの図には、一様衰耗すなわち板厚一定で衰耗が進む場合の解析結果についても実線で示した。Fig. 11(a)〜(c)から分かるように、最小断面における平均衰耗量で整理した場合、いずれの板厚においても腐食ピットが存在する場合の解析結果は、一様衰耗の場合よりも最終強度が高く、その傾向は、元厚が小さいほど大きい。また、最終強度の大小は、ピット分布形態にも依存し、ピット分布B(Fig. 4(b)、(d))よりもピット分布A(Fig. 4(a)、(c))の方が最終強度が大きくなる傾向が明確であり、ピット分布Aの場合、腐食ピットの個数が多くなると一様衰耗の場合からのずれが著しくなる傾向が見られる。
次に、せん断座屈モデルについて、腐食ピットが存在する場合の最終強度τu/τu0(腐食ピットがない場合の最終強度τu0で無次元化したもの)と最小断面における平均衰耗率の関係をFig. 12に示す。せん断座屈モデルの場合、圧縮座屈モデルと異なり、荷重軸は定義できないが、最小断面は圧縮座屈モデルの場合と同じ断面とした。この図には、一様衰耗すなわち板厚一定で衰耗が進む場合の解析結果についても実線で示した。圧縮座屈モデルと同様に、腐食ピットが存在する場合、一様衰耗の場合よりも最終強度が高く、最終強度の大小は、ピット分布形態にも依存しピット分布B(Fig. 4(b)、(d))よりもピット分布A(Fig. 4(a)、(c))の方が最終強度が大きくなる傾向が明確であり、ピット分布Aの場合、腐食ピットの個数が多くなると一様衰耗の場合からのずれが著しくなる傾向が見られる。
以上の結果から、最小断面における平均衰耗量により最終強度を予測した場合、安全側の予測結果を与えるが、過度に安全側となる場合があることが分かる。
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