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資料編
<添付資料>
便宜置籍船における処理と問題点調査研究報告書付録目次
 
1、船内殺人・傷害事件に関連する法律のまとめ
2、船内犯罪発生時における初期対応の流れ
3、第1回委員会議事録
4、第2回委員会議事録
5、平成17年度便宜置籍船における海事保安事件の処理と問題点調査研究業務工程表
以上
 
船内殺人・傷害事件に関連する法律のまとめ
1 犯罪についての基礎的な法律知識等について
 刑法における犯罪の成立理論の概要と刑法適用範囲等について、一般的に言われていることを以下にまとめる。
 
1.1 犯罪構成理論
 序説として、犯罪を考える上で根本理念である罪刑法定主義をもとに、刑罰法規に規定がなければ、罰しないという原則を貫いており、派生的な原則として、刑罰不朔及の原則、類推解釈の禁止、慣習刑法の否定及び絶対的不定期刑の排斥がある。
 本資料は、犯罪という法的意味合いを大略的に理解することを目的とし、「犯罪成立の法理論的考察」を主体に以下に概説的に説明することとする。
 「犯罪」とは、犯罪構成要件に該当する有責違法な行為であるとし、刑罰規定の文言にある特定の犯罪の定型に当てはまる必要な要件を充足し、かつ、行為が違法であり及び責任を有することによって、犯罪が成立し、言い換えるならば、明確な犯罪成立要件は、構成要件該当性、違法性及び有責性ということになる。
 また、成立可否を吟味する上で、3大要素は独立独歩の要素で構成されているとはいい難く、吟味過程において、それぞれを順不同あるいは同時に吟味するのではなく、最初に構成要件該当性を吟味し、該当性ありと判断したら、違法性の吟味、そして最後に有責性の吟味へと順序良く行うことが合理的である。
 
1.1.1 構成要件該当性
 包括的意味合いとしては、刑罰法規一字一句の文言で構成されている要件と事実と合致度の程度のことであるが、大きく分けて、故意又は過失による行為の存在、結果の発生及び因果関係の三つに分けることができ、それぞれについて下記に説明する。
 
I 故意又は過失の存在
 刑法38条第1項に「罪を犯す意思がない行為は罰しない」とあり、第3項には、「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」と定めてある。
 したがって、犯罪規定にかかわる行為により規定どおりの結果を生じさせる故意の存在が必要であり、故意には、確定的故意は当然として、未必の故意も含まれる。
 過失に関しては、第1項のただし書に「過失による犯罪を処罰するためにはそのための特別の規定が必要」とあり、過失を処罰する規定がなければ過失は処罰されず、刑罰法規の文言に過失処罰がかかれていない場合はすべて故意による行為だけを処罰の対象にしている。
 過失は、「一定の注意を払わなくてはならない」注意義務が存在し、それは結果予見義務と、「結果が生じないように回避する」回避義務に分けて考えられるが、この連続する義務を果たさないことによって、結果が発生したことにより証明される。
 ただし、注意義務を尽くしたとしても予想できない場合や予想できたとしても回避することが不可能な場合は、過失を認めることはできない。
 
II 結果の発生
 原則としては、結果の発生が刑法で守ろうとしている法益の侵害にあたるので、犯罪成立には結果発生が必然である。
 しかし、「未遂処罰規定」がある刑罰には結果発生を要求していなく、結果が発生していなくても刑法が守ろうとする法益侵害がある場合は、未遂を処罰する規定を設けて、処罰されることなる。(たとえば、殺人未遂、強盗未遂等)
 また、ある種の犯罪には結果発生という条件を要求しないものもあり、ある行為をすること自体がすでに刑法で守ろうとする法益侵害であるとされるものもある。
 未遂については、構成要件に一部でも該当する行為があった時点を「実行の着手」と呼び、未遂罪成立となる。
 
III 因果関係
 単なる行為の存在と結果発生だけでなく、行為によって結果が発生したという因果関係が犯罪成立の要件となる。
 一般的に行為と結果発生の予測が行為において予見されうる場合に、結果発生を与えた行為との間に因果関係があるとする相当因果関係説が有力であり、行為者の主観を重んじ行為者が行為時に予見していたかどうかを基準にする主観的相当因果関係説、行為当時に客観的に存在していた事実と一般人の予見能力の事情を基準にする客観的相当因果関係説、行為者の予見していた事情と通常人が予見しうる可能性との事情による折衷的事情を基準にする折衷的相当因果関係説がある。
 結局は責任の限度の論議となるため、折衷的相当因果関係説で解釈することが望ましい。
 
1.1.2 違法性
 包括的意味合いとしては、構成要件に該当している行為において、法秩序に照らし合わせ、法的に許されないものの有無の程度であるが、価値観が多様化している現在は、一定の倫理観のみで判断することには問題があり、言い方を改めれば、実質的法益侵害及びその危険を生ぜしめるものの有無の程度ということができる。
 しかし、実際の吟味においては、積極的な演繹思考による違法性の認定は難しいため、逆の論理として、刑法明文上の違法性阻却事由がない場合に違法性があると判断する手法をとる。
 
 違法性阻却事由は、以下のとおりである。
 
a. 法令行為・正当業務行為(刑法35条)
 法令の定めのとおりに行った行為や法令で定められた権利の行使や義務の履行としての行為
 
b. 正当防衛(刑法36条)
 急迫した不正な侵害に対し、自己又は他人の権利を守るため、やむを得ず行った相当なる侵害排除行為
 
c. 緊急避難(刑法37条)
 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、唯一の方法としてやむを得ずした行為であって、かつ、その行為による害が危難による害を超えない程度の行為
 
 以上、3大違法性阻却事由の有無について検討し、それらが存在しないと吟味した結果、違法性があると判断する。
 
1.1.3 有責性
 包括的な意味合いとしては、構成要件に該当しており、かつ、違法でもある行為の行為者に対しての、その行為の責任所在の有無程度である。
 刑法学では幅広く詳細に論じられているが、簡単に言えば、「期待可能性」の有無の問題としてまとめることができる。
 期待可能性とは、「犯罪になることを避けることが期待でき、かつ、避けることが可能であった」ことであり、その期待可能性ある行為の対象者は、社会通念上一般人を標準とすることにしている。
 したがって、期待可能性が存在しない状態であれば、責任がないと判断して処罰しないこととなり、これは、責任条件の問題であるが、更に、責任能力の有無が問題とされる。
 尚、典型的に期待可能性がない場合であると刑法で規定し、「心神喪失者」(39条)、「14歳未満」(41条)に該当するものは最初から除外され、これはそもそも責任能力がないということであり、有責性を認定できない。


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