II 英国の海上捜索における陸上と海上の連携について
第4学年第I群 黒原 雅央
第4学年第I群 塩見 慶史
指導担当教官 海上安全学講座 高橋 勝 教授
1. 調査研究概要
(1)はじめに
我々は現在、海難捜索救助について研究している。そこで、英国の海難捜索救助機関はどのような捜索方法を用いているのか、また実際海上ではどのような手段を用いて海難救助に当、たっているのかを調査しようと思う。
具体的には、本調査研究において、海難報告の受信から遭難位置の決定、捜索海域の決定、指揮系統、現場との連携及び英国における海難救助機関の組織体系についての調査を行う。これらを調査し、海上保安庁と英国コースト・ガードの捜索方法のあり方を比較・検討することで、よりよい捜索方法を摸索する。
(2)目的
今日、我が国における海上保安機関及び運用方法は米国の沿岸警備隊を範として成り立っているところであり、相互協力関係も深く、また互いに理解されているところが多い。しかし、豪州や英国におけるこれらについては良く知られていないのが実状である。それは、これらの国では海難等が発生した際、国ではなく民間主体で対応しているという特色があるためでもあろう。そのため、我が国とは大きく異なった考えや手法が取り入れられている可能性があり、それらを研究することによって、より高度且つ、有効的な海上保安機関としての海上保安庁の発展性が見えてくるのではと考える。
(1)概要
英国における海難捜索救助機関は、政府機関、緊急対応機関及びその他の機関の集合体である。いくつかのボランティア機関もまた捜索救助活動に参加している。
王立救命艇協会(RNLI: Royal National Lifeboat Institution)は人命の救助及び安全の促進を目的として、王立憲章(Royal Charter)によって組織化されたボランティア機関である。その活動範囲は沿岸50マイルであり、将来的には内陸部水域、チャネル諸島、マン島及びアイルランド共和国におよぶ。それ以遠の外洋にあってはその役割を英国海軍が担っている。
有事の際には英国海上保安庁(MCA: Maritime Coastguard Agency)、海軍、空軍等関係当局と連携、調整し救助活動にあたる。また、国内各地に救助基地(Lifeboat Station)を設置し、海岸対応型及び全天候型救助艇を配備、維持及び運用している。その運営費用はすべて寄付金によるもので、寄付金の多くを占めるのは遺産であり、国からの援助は一切受け取っていない。また、街角での講演やインターネットを利用し、広く寄付を募っている。RNLIの年間運営費用は1億1900万ポンド(約240億円)で、その内の約8割が海難捜索救助に当てられる。
(2)歴史
RNLIの歴史は古く、昨年(2004年)には開設180周年を迎えた。RNLIは、1824年、ウィリアム卿(Sir William Hillary)が、遭難船舶からの人命救助を目的とする国立の団体を作るべきであると主張し、最初の救助艇を手配したことから始まる。その後、聖ジョージア号の救出を代表として、6700人以上の命を救い、コルク製のライフジャケット等の発明など、海難救助の第一線にあり、1854年に現在の団体名となった。
その後順調に、基地局を増やしてゆき、1900年代には数多くの勇敢なLifeboat Manを輩出し、数多くの勲章を受章している。1950年代以降からはヘリコプターや高速救助艇などを導入し、勢力を拡大した。近年では、ビーチでの監視業務や、民間人への海難対策指導など幅広い活動を行っている。
(3)RNLIの海難捜索救助体制
イ 規模
・船艇の種類及び隻数
船艇
active fleet 332隻
relief fleet 112隻
hovercraft 4隻
Hovercraft
tyne型
(下記の表は主力船艇の様式)
All weather |
|
Severn型 |
Tyne型 |
Trent |
Tamar |
|
船長 |
|
17m |
14m |
14m |
16m |
速力 |
25knots |
17knots |
25knots |
25knots |
航続距離 |
250miles |
240miles |
250miles |
250miles |
艇員 |
6名 |
6名 |
6名 |
6名 |
船体重量 |
41ton |
25ton |
27.5ton |
30ton |
|
Inshore |
|
E class型 |
B class型 |
D class型 |
Hovercraft |
|
船長 |
|
9m |
8.5m |
5m |
8m |
速力 |
40knots |
35knots |
25knots |
30knots |
航続距離 |
160miles |
105miles |
75miles |
90miles |
艇員 |
3名 |
3〜4名 |
2〜3名 |
2〜4名 |
船体重量 |
3500kg |
1800kg |
436kg |
2400kg |
|
ロ 活動
アイルランドを含む英国国内を9つの管区(Northern Ireland, Republic of Ireland, Scotland, Greater London, North, Eastern, South East, South West, Wales and West Mercia)に分け、国内の海岸線、河川及び湖での捜索救助活動を行っている。また、国内の233箇所に救命艇ステーションを配置し、その中の133箇所を沖合救命艇部署に指定している。また、133箇所の沖合救命艇部署内の55部署が沿岸区域の捜索救助に当っている。さらに、季節に応じて沿岸救助を目的とした67の部署がある。
活動区域は、沿岸区域、中間区域及び沖合区域に分けられる。主に沿岸50マイルを活動範囲としているが、海岸線から100マイル離れた沖合でも、捜索救助活動を行うことができる。また、133箇所の沖合救命艇部署は、沿岸30マイルの地点まで4時間以内に到着できるように配置されている。一回の哨戒活動は約6時間におよぶ。
各救命艇ステーションでは、一般に人員はCoxswain(艇長)、Mechanic(整備士)、Launcher(ランチャー)、Honorary officials(名誉役員)、Secretary(秘書官)、Medical adviser(医療専門官)から構成され、クルーと名誉役員はボランティアである。
(4)最近の政策
近年、より効果的で錬度が高く、信頼のできる海難救助が求められており、2004年から2008年にかけて主な活動範囲、優先順位の改善が実施されている。具体的な改善としては、
○ Rescue
・新規に救命艇部署を設置、現存の部署の改良及びフォバークラフトの配備
・ボランティア救助員の活動政策の発展
・緊急出動に対応できるよう3チームを待機させる
○ Prevention
・浜辺や学校、メディア、地方巡業等で安全指導講習を実施する
・CPRS(Confidential Position Reporting System)の設置
・他の協力機関との協力体制の促進
○ Fundraising and Communication
・募金活動及びコミューケーション
○ Operational Construction, Maintenance, and Support
・新しい救助艇及び装備機器の増設
・職員の育成、訓練
・Beachでの活動
英国での夏は日本に比べ短いが、浜辺で海水浴、その他レジャーを楽しむ人々は多い。そこで、海水浴シーズンにはRNLI職員やボランティアによってLifeguard serviceが行われ、海上での監視、安全を呼びかけ、救助活動等を行っている。昨年度のRNLI Lifeguardの出動件数は8,010件で、53人を救助した。下の図はBeach Lifeguard serviceの組織図である。
図のように各地域に地区救助指揮官、地域救助指揮官、地域救助指導官及び救助員を配置することで、地域ごとの救助体制を確立している。
(5)THE LIFEBOAT COLLEGE
イ 目的
Lifeboat Collegeは2004年7月から運営が開始された新しい施設である。RNLIでの仕事では、教育と訓練が必要である。そこで、Lifeboat Collegeにおいて約1年間、クルー、ボランティアと職員に対して教育訓練を行い、より高い技術をもって、海上での救助を成功させることを目的としている。現在、学内には68名の研修生がいて、その内の約10%がボランティアである。全寮制で、ベッドルームが60部屋あり、150人の収容力がある。
ロ カリキュラム
・SAR任務の確認及び分類
・救急救命法及び活動に必要な資器材の確認
・沿岸付近における救助法及び訓練
・クルー熟達に必要な技術力、特別能力向上トレーニング
・予見不可危険状況での最大安全化方策
・指導力、管理能力、判断能力、指揮統率能力の向上 etc
ハ Full Mission Bridge Simulator
このシミュレーターは救助艇の船橋を模した部屋で、スクリーンに現場海域を映し出すことにより、実際に海に行かなくても訓練ができるというものである。シミュレーターは、全天候、昼夜に対応しており、要救助者の捜索から発見、救助活動まで行うことができる。また、訓練全体を通して再検討することで、客観的に自分のとった行動を評価することができる。
ニ Survival Centre
施設内にはプールでの全天候対応サバイバルセンターがあり、荒天時での救助活動を想定した訓練を行うことができる。シミュレーションと異なり、実際に荒天下での救助活動訓練を体験することで、より現実に近い訓練を行うことができる。
(6)質疑応答
Q1 How many stations and staffs do you have?
(RNLIにはいくつの管区があり、何名の職員が働いていますか。)
A1 There are 9 RNLI divisions, and the RNLI operates 133 lifeboat stations. The RNLI has about six thousand staffs, including volunteer staffs.
(RNLIは9管区に分けられ、133箇所の救命艇部署があります。職員はボランティアを含め、約6000名います。)
Q2 How many volunteers does the RNLI have?
(RNLIではどれくらいのボランティアが働いていますか。)
A2 About 600 (10%) people, and they are a dentist, teacher, carpenter etc.
(全体の10%がボランティアで、彼らは歯医者、教師、大工等様々です。)
Q3 Is there the age limit to join in the RNLI?
(RNLIに入会するのに年齢制限はありますか。)
A3 Yes. For example, the E-class lifeboat is limited to 45 years old. L-class is limited to 55 years old.
(はいあります。Eクラスの救助艇は45歳、Lクラスの救助艇は55歳までです。)
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