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I 研究概要
1. 実施目的
 スペシャルパイプによる船舶バラスト水等処理装置の開発は、バラスト水管理条約の審議内容に沿った形で進めてきた。現在の装置(仮称:スペシャルパイプシステム)は、他の装置と比較して有効性、経済性及び簡便性等に優れ、かつ、環境にやさしい原理を利用していることから、その実用化が大いに期待されているところである。
 本年度事業は、スペシャルパイプシステムの利点をそのまま活かしつつ、オゾン発生装置等を加えたハイブリッド式第2世代試作システムを製作して、性能のさらなる向上を含め、実用化に向けた調査研究を継続実施することとした。本事業の最終目的は、国際的な船上実用承認を取得し、世界の船舶への普及を図り、ひいては地球海洋環境の保全に資することである。
 
2. 研究の内容及び経過
2.1 研究内容
 昨年度の調査研究の成果を基にして、実船搭載を想定したハイブリッド式第2世代高性能システムを設計・製作し、実船の運航を模擬した陸上試験を実施した。また、実船で運用するための承認取得のための研究調査を実施すると共に、本システムの国内外への周知活動も引き続き行った。
 実施項目は、以下の通りである。
 
(1)船舶構造・安全性、乗組員の安全性等を考慮した試作システムの企画・検討
(2)試作システムの設計
(3)試作システムの製作
(4)試作システムによる実船運用を模擬した陸上効果試験
(5)国内外における周知・情報交換・運用承認活動及び関係資料調査・作成
 
2.2 研究経過
平成17年
 
6月2日〜6月18日
 スペシャルパイプとオゾンの組み合わせによる、スペシャルパイプ・ハイブリットシステム第1世代処理効果再検討試験を実施し(伊万里)、生物数の多い時期においても十分な効果のあることを確認した。
 
6月2日
 海洋理工学会、平成17年度春季大会のシンポジウムにおいて、「流体力等を用いたバラスト水処理」及び「諸外国のバラスト水問題と対策」として本事業を紹介する講演を行った。
 
6月2日
 特定非営利法人日本オゾン協会、第23回オゾン技術に関する講習会にて、「船舶バラスト水管理への取り組み」として本事業を紹介する講演を行った。
 
6月7〜8日
 平成17年度第5回海上技術安全研究所研究発表会にて、「スペシャルパイプを用いたバラスト水処理技術」のポスターを展示した。
 
7月11日〜15日
 国際海事機関(IMO)海洋環境保護委員会(MEPC)第3回中間期バラスト水作業部会に出席し、他国の装置開発及び型式承認に関する情報収集を行った。
 
7月18日〜22日
 第53回海洋環境保護委員会(MEPC)に出席し、装置開発及び型式承認に関する情報収集を行った。
 
8月24日〜9月3日
 スペシャルパイプ・ハイブリッドシステム第1世代の改良試験を行い(伊万里)、型式承認取得のための船上試験が実施可能な試作システム(処理量は型式承認取得に必要な200m3/h以上)の設計に必要なデータを取得した。
 
9月1〜3日
 スペシャルパイプ・ハイブリッドシステム第1世代の改良試験の評価及び改善策について検討した(伊万里)。
 
12月30日
 処理能力300m3/時間の試作システム(スペシャルパイプ・ハイブリッドシステム第2世代)の設計を完了した。
 
平成18年
 
1月31日
 処理能力300m3/時間の試作システム(スペシャルパイプ・ハイブリッドシステム第2世代)の製作を完了した。
 
2月20日〜3月4日
 処理能力300m3/時間の試作システム(スペシャルパイプ・ハイブリッドシステム第2世代)を用いて、実船運用及びバラスト水管理条約に付随するバラスト水管理システムの承認のためのガイドライン(G8)の陸上試験を模擬した実験を実施した。実験結果は、十分な処理効果があり、実船運用及び陸上試験にも対応できることを示した。
 なお、この実験期間中の2月27日には、国交省、メーカー関係者及びマスコミを招き本システムの説明会及びプレス発表を行った。
 
3月1日
 日本マリンエンジニアリング学会誌「Marine Engineering Vol.41 No.2」に、本事業でのバラスト水処理システムの開発状況を紹介した。
 
3月30日
 2006年度日本プランクトン学会シンポジウムにおいて、本事業におけるバラスト水処理システムの開発状況について講演した。
 
4月12日
 2005年7月のMEPC53で採択された“活性物質を利用するバラスト水管理システムの承認のための手順(G9)”をもとに、MEPC55で基本承認を受けるための申請書を作成し、提出した。
 
3. 本事業の成果
 2004年2月にロンドンのIMO本部で開催された外交会議においてバラスト水管理条約が採択された。現在IMOでは、本条約の実施に必要なガイドラインの作成が進められている。そのうち、バラスト水処理システムの認証に係わる「バラスト水管理システム承認のためのガイドライン(G8)」は、2005年7月のMEPC53で採択された。
 昨年度事業では、バクテリア類の処理の必要性が加わった条約のバラスト水排出基準を満足するため、一昨年度に実船に搭載したプロトタイプ実機の改良を行った。その成果は、機械的殺滅法にオゾンを組み合わせたスペシャルパイプ・ハイブリッドシステムを開発し、IMO排出基準に適合させることに成功したことである。
 本年度事業では、このシステムを、実船で運用可能なG8ガイドラインで要求されている処理容量以上に大型化し、第2世代に発展させた。その試作機を用いてG8ガイドラインに準じた陸上試験を実施し、IMO排出基準の達成並びに実船への搭載及び運用に関する有効性を確認した。
 これらの成果については、多くのシンポジウムや各種会議で発表した。また、昨年度に引き続きテレビ、新聞等のマスメディアによって広く一般に紹介され、バラスト水管理に関する日本独自の新技術として大きな社会的反響を得た。さらに、バラスト水管理システムで化学薬品等の活性物質を利用する場合に必要な国際的な承認を取得すべく、「活性物質を利用するバラスト水管理システム承認の手順(G9)」に従ったオゾン利用に関する基本承認の申請をIMOに対して行った。
 以上のように、本新技術の開発は、今後のバラスト水問題の解決、地球環境保全に資するものであり、事業の目的を満たすものである。


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