5.1.4 塗装効率
(1)塗料ロス要因決定のための前提条件
5.1.2項にて示した全塗料量を下記の要領で塗料ロス要因毎に分けて考えるが、その前提条件として、実績や参考データなどから廃塗量率(残塗量として廃棄処分された塗料重量と総取扱塗料重量の比率)を5%、エアレススプレイの被塗面への塗着率を70%と設定する。廃塗料率、塗着率等については各塗料種によって差異があるが、ここでは全体的な物量把握のため上記比率を用いることにする。
(2)塗料ロス算出手順と推算値
取扱量(A):塗料の全取扱量
廃棄物(B):全取扱量(A)に廃塗料率(5%)を乗じたもので、これが廃棄物となる。 B=A×0.05
缶内付着ロス(C):塗装施工において、塗料缶内に付着する残塗料分は、塗料の性状にもよるが500g〜1kg/1缶程度である。これは1缶当り重量比3〜5%となるため、ここでは4%を塗料缶内付着ロスとする。 C=A×0.04
製品塗着(D):全取扱量から廃棄物及び缶内付着ロスを減じたものに塗着率(70%)を乗じる。これが製品に塗着した塗料となる。 D=(A-B-C)×0.7
塗料飛散ロス(E):全取扱量から廃棄物、缶内付着ロス及び製品塗着量を減じたものが塗料飛散ロス分となる。 E=A-(B+C+D)
これらをもとにVLCC一隻分の全取扱量(430.0ton)から各々の要因を推算すると表5.1.4-1のようになる。
表5.1.4-1 塗料ロス要因
記号 |
項目 |
重量(ton) |
比率(%) |
A |
取扱量 |
430.0 |
100.0 |
B |
廃棄量 |
21.5 |
5.0 |
C |
塗料缶内付着ロス |
17.2 |
4.0 |
D |
製品塗着 |
273.9 |
63.7 |
E |
塗料飛散ロス |
117.4 |
27.3 |
|
5.1.2項には全塗料に対する理論値217.9tonを示したが、この値と上記D: 製品塗着量273.9tonとの比率を求めると273.9/217.9=1.26となる。この値は全塗料に対するものであるが、5.1.3項に示した外板塗料、バラストタンク塗料の膜厚計測結果は1.15〜1.36であったため、本項(1)前提条件で設定した塗着率70%は、ほぼ妥当な値であると考えられる。
(1)取扱塗料のVOC量
塗料内に含まれる揮発分(VOC)はそれぞれ異なるため、使用塗料種及びその使用量によってVOC量は銘柄毎に集計する必要がある。上述のVLCCで使用した各塗料に含まれるVOC量の合計は122tonであり、これを上記算出手順にあてはめると表5.1.5-1に示した値が得られる。
表5.1.5-1 VOC使用量と比率
項目 |
重量(ton) |
比率(%) |
取扱VOC量 |
122.0 |
100.0 |
廃棄VOC量 |
6.1 |
5.0 |
缶内付着VOC量 |
4.9 |
4.0 |
製品塗着VOC量 |
77.7 |
63.7 |
飛散塗料VOC量 |
33.3 |
27.3 |
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(2)希釈用/洗浄用VOC量(シンナ)の推定
塗装施工において、塗料の希釈及びスプレイ内の洗浄用としてそれぞれの適用シンナを用いる。通常、実施工において新規シンナは洗浄用として使用し、その後希釈用として再利用する。洗浄を繰り返し、希釈用としても使用できないと判断された場合、これは廃棄処理される。シンナ希釈率を5.0%と仮定し、上述のVLCC一隻分の使用塗料量430(ton)に対し希釈用として用いられたシンナ量を求めると
430×0.05=21.5(ton) となる。
また、各種シンナの実績納入量は、一隻分で27(ton)であり、これより洗浄用としてのみ使用されたシンナ量は
27-21.5=5.5(ton) と推定できる。
永く造船塗装の現場においては「エアレススプレイ塗装」が採用されてきた。これは、
(1)塗装処理面積が広く、高い作業性が要求されている。
(2)厚膜が要求され、使用される塗料が高粘度である。
(3)屋外塗装作業のため、飛散を出来る限り少なくしなければならない。
などの理由によるものである。しかし、塗装方法を見直すこと、すなわち塗着効率(TE: Transfer Efficiency)を向上させることがVOCの削減を図ることの出来る手段として造船塗装用を対象に各種噴霧塗装手段を検討した。
(a)エアスプレイ塗装
φ1mm前後の小孔から塗料(0.1MPa〜0.5MPa)を噴出させ、その周りよりコンプレッサエアを噴出する事で、塗装を微粒化させる機構で、一般的な塗装手段である。
(b)エア静電塗装
エアスプレイガンにDC-60kV程度の高電圧を印加し、塗着効率の向上が可能な塗装手段(写真5.2.1-1)。
写真5.2.1-1
(c)エアレススプレイ塗装(造船の一般的な塗装手段)
微細なオリフィスから高圧で(10MPa〜25MPa)噴出し塗料を微粒化させる機構で、大吐出、高粘度に対応可能な塗装手段である(写真5.2.1-2)。
写真5.2.1-2
(d)エアラップ塗装
エアレスのノズル周りにコンプレッサエアを噴出させることで塗着効率がエアレス比5〜10%程度高くなることが解っている塗装手段(写真5.2.1-3)。
写真5.2.1-3
(e)エアラップ静電
基本的にはエアラップ塗装と同じ機能で、これに高電圧を印加し塗着効率の向上を図った塗装手段(写真5.2.1-4)。
写真5.2.1-4
(f)回転霧化静電ガン
先端部にカップを取付け高速回転(最大60,000rpm)させ、カップ中心より塗料を供給し、遠心力にてカップ縁より塗料を放出する。静電高電圧を印加する事で、高い塗着効率が得られ、工業自動塗装ラインでは代表的な塗装手段の一つである。
以上6項目の噴霧手段の性能及び機能を造船塗装より要求される視点から、噴霧塗装手段の比較を別紙の表5.2.1-1に示す。
表5.2.1-1 各種噴霧塗装手段の比較
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