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表紙説明◎名詩の周辺
容奇――新井白石作
東京・千代田区旧江戸城
 今年は各地で大雪が降り、特に新潟や北陸地方ではその対策に大変のようですが、一月二十一日(土)〜二十二日(日)と東京でも珍しく辺り一面積雪を見るほどの雪が降りました。ここ一〜二年雪は降ってもそれほど積もることはなかったので、この雪を見たとたん新井白石の『容奇』を思い出し、すぐ撮影に飛び出しました。
 
 
 新井白石は江戸中期の学者・政治家・詩人で、通称は与五郎・伝蔵。号は白石のほか、紫陽、天爵堂があります。父の正済は上総(千葉県)久留里上屋家の家臣で、白石は明暦大火の直後、江戸柳原の土屋邸仮宅に生まれました。幼児から聡明で、八歳の時、一日四千字の習字をしたという話が残っています。初め、父とともに土屋家に仕えましたが、二十一歳の時、父が主家を去ったため白石も去り、寺子屋を開きました。天和二年、二十六歳の時、堀田正俊に仕えた後、木下順庵の門に入り朱子学を学びました。元禄六年、三十七歳の時、順庵の推挙で、甲府の徳川綱豊(後の将軍家宣)に仕えましたが、この綱豊が綱吉のあとを継ぎ宝永六年六代将軍となるや、御用人間部詮房の信任を得て寄合衆となり、旗本に列せられ、禄千石を与えられました。そしてこの時手掛けたのが、文治政治である幕政の改革(正徳の治)です。しかし、家宣の後継である家継が死去すると、間部詮房も失脚し、白石も引退。その後は余生を著述と学問の研究に打ち込みました。
 著書は数多くありますが、特に有名なのが、自叙伝を随筆としてまとめた『折たく柴の記』です。
 白石は詩人としてもすぐれ、頼山陽や江村北海も高く評価しています。標題の詩『容奇』は字音を借用して「雪」を表し、白石が某宅の主人にこの文字を示され、即興で作ったものといわれています。白石はもともと歴史の造詣が深く、この詩でも、歴史上の故事を数多く引用し、雪の日の感慨を詠じています。
 白石の墓は一族の墓とともに、東京都中野区上高田にある新井家の菩提寺・高徳寺にあり、本堂の横には真っ白の壁が印象的な「新井白石記念ホール」も建てられています。墓石は思ったより小さく、夫人のものと二つ並んで立っています。向かって左、墓標に「新井源公」と刻まれているのが白石の墓です。撮影に行った日は雪が降った翌日で墓にもかなり雪が積もり、墓標が読めないほどでしたが、標題の詩のことを考え、敢えて雪を除けないで、詩心に浸りながら撮影しました。(表紙写真参照
 
雪に覆われた新井白石一族の墓。左手奥突き当たりが白石夫妻の墓
 
高徳寺「新井白石記念ホール」の正面。白石の名に因み真っ白の建物である。いろいろな会合や研修に役立てられている
 
【旧江戸城】(現・皇居)JR「東京駅」丸の内側降りて徒歩約5分。都営地下鉄千代田線「二重橋前駅」下車、徒歩約3分。
【高徳寺】JR中央線「東中野駅」から北西へ徒歩約7分、地下鉄東西線「落合駅」下車徒歩約5分。
 
吟剣詩舞
こんなこと知ってる?(18)
 一昨年の四月号から始まった新企画「吟剣詩舞こんなこと知ってる?」の十八回目です。読者の皆さまと双方向で意見が交換できるコーナーとして設けております。
 吟剣詩舞の歴史、人物、身近な出来事など、読者の皆さまが驚くようなこと、是非、知らせたいことがありましたら財団事務局月刊誌係まで、ご寄稿をお願いいたします。(形式は問いません。写真等も歓迎です)。
 今回は、東京都総連盟役員の方からのご質問で、「財団吟詠コンクール審査規定」発音項目の『わたりの定義』についてお尋ねをいただきましたのでお答えします。
 
【質問】お電話によるいくつかの質問の中の一つでしたので、質問項目のみをご紹介します。
 「財団吟詠コンクール審査規定」発音項目の『わたりの定義』について教えてください。
 
「財団吟詠コンクール審査規定」の『わたりの定義』について
 ご質問は財団の吟詠コンクール審査規定(日吟振内規)「平成十四年度改訂版」における発音項目のポイントに『わたり』が加わったことに関連してのご質問で、『わたり』についての定義はあるかどうかとのことでした。
 これまで財団として「わたり」についての構えた定義の発表はしていません。平成十四年の審査規定改定に至る経過として、平成十一年七月開催の夏季吟道大学大学院(財団役員対象の夏季吟道大学)の討議の中で、「熟語の一拍目と二拍目の音の高低が異なることが、アクセントの大原則である。よって、この高低差を明確化するため『わたり』をアクセントの重点項目(ポイント)とする。」が確認されたことから、平成十四年度の審査規定改定につながったのであります。
 『わたり』、すなわち、熟語の一拍目と二拍目の音の高低が異なっているかどうかの判断は、二拍目の語に移行する際の高低差が、語の頭の部分(『わたり』の二拍目の語「た・TA」を仮に父音部分「T」と母音部分「A」に分解したときの父音部分「T」)から高低差がついているかどうかがチェックされます。『わたり』の多くは父音部分は一拍目と同じ高さで、母音部分から高低差をつけるというのが大半と考えられます。
 また、一拍目と二拍目の音の高低差が無い「無アクセント」についても、『わたり』に準じてチェックされます。
(財団事務局長 矢萩保三)
 
3月12日(日)、本年度「第34回全国少壮吟詠家審査コンクール決選大会」が東京・三田の笹川記念会館で開催されます。(写真は昨年度コンクール舞台風景)


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