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吟剣詩舞の若人に聞く[第72回]
伊藤武さん
 
伊藤 武さん(二十二歳)愛知県幡豆郡在住
(平成十六年度全国剣詩舞コンクール決勝大会剣舞青年の部優勝)
兄:伊藤 明さん
母:伊藤眞由美さん
師:清水昭麟さん
宗家:入倉昭山さん(日本壮心流昭武館総本部)
さらなる向上を求め、兄と歩む剣舞の道
 準優勝から優勝へ。兄をライバルとして、晴れの栄冠を手にした伊藤武さん。兄である明さん、そして母、師、宗家を交え、優勝までの道のりを振り返りながら、剣舞についていろいろお聞きしました。
 
――まず、優勝された感想からおうかがいします。
「もちろん嬉しかったです。すでに兄が昨年の剣舞青年の部で先に優勝していましたから。追い越せなかったのが悔しいですけど・・・」(笑)
――昨年、お兄さんが優勝のインタビューを受けているとき隣にいましたが、どんな気分でしたか?
「次は自分が必ず優勝するぞと思いました」(爆笑)
――その時、お兄さんは弟さんがいなかったら、優勝できなかったかもしれないといいましたが、今回ご自分も優勝されてどうですか?
「私も兄をライバルと思ってやってきましたし、何とか追いつきたいという気持ちがあったから、ここまで頑張れたと思います」
――明さんの優勝が、武さんをやる気にさせましたか?
「心の中ではやる気になっていたのかもしれませんが、表に出すタイプの子ではないものですから、とくに感じませんでした。兄はお稽古もやる気が見えますが、弟のほうは瓢々とした感じでやっています」(笑)
――お兄さんを見て、勉強になる点は何ですか?
「自分にはない物を持っているので、勉強になります。例えば、すさまじい迫力などです」
――清水先生は、この優勝をどのように思われますか?
清水「兄に続いて、二年連続で優勝できるとは思ってもいませんでした。本当に嬉しく思います。また、お兄さんから優勝したのは順当で(笑)、逆だったら私は嫌だと思っていましたから、これでよかったです」(笑)
――ご宗家はいかがですか?
宗家「武の場合は、準優勝した年の演舞のほうが表現もできていたし、私としては好きなのですが、優勝ですからもちろん嬉しいです」
――お母様はどうでしょう?
「明に続いて優勝できればいいなと思いましたけど、それが現実になったので驚いています。会場で名前が呼ばれたとき、身内ばかりでしたら嬉しさのあまり、大きな声で叫んだでしょうね」(笑)
――演題の「凱旋」は、何を主眼に振付けましたか?
宗家「兄に負けないよう、激しい剣舞を彼にも振り付け、詩心表現もうるさく言い聞かせ、それらがうまく融合するように気をつけました」
――ご本人は激しい剣舞はどうですか?
「自分としては好きですし、楽しくやらせていただきました」
――振り付けで、難しかったことは何ですか?
「芝居の部分、三行目にあるのですが、見えない人を想像する難しさですか・・・、うまく言えませんが、乃木希典の人柄を出そうとするところです」
宗家「三節目では、乃木希典が自分の部下の遺骨を持って、父母のところへ行く振り付けをしたのですが、その部分で彼は苦しんだと思います。そのため、いろいろ言いましたが、遺骨を持ってただすみませんと謝るのではなく、自分はこれから先も戦をするだろうし、戦をすれば死ぬ者も出てくる、だが日本のため天皇のためにという、心の葛藤をしっかりとらえるようにはいいました」
――武さんの特長的な点は何でしょう?
宗家「彼はいろいろできる、器用貧乏的なところがあり、まだ自分のスタイルというのができていない。これからの課題でしょうね」
 
インタビューを終えて前列左より入倉昭山宗家、伊藤武さん、母の伊藤眞由美さん、後列(左)から師の清水昭麟さん、兄の伊藤明さん
 
――ご宗家にそう言われていかがですか?
「思い当たるところはあります」(笑)
――お兄さんとは逆なのだ?
「そうですね」(爆笑)
――小さな頃から剣舞を習っていると思いますが、何歳くらいから始めましたか?」
「五歳くらいからだと思います」
「長男が剣舞を習っておりましたから、下の二人も自然と一緒に連れて行くようになり、やってみないと誘ったところ、始めてくれました。長男は現在はやっておりません」
――初めて見られたときの印象はどうでしたか?
清水「三人三様の育ち方をしていますが、どの家庭でも同じように、三人目が良いことも悪いことも、いろいろな要素をもっていましたね」(笑)
――小さな頃からやっていて、辞めようと思ったことはないの?
「・・・あります(笑)。小学校の年長になると、周りは遊んでいるのに、僕は何しているのだろうと思いましたね(爆笑)。中学に入ったらどうしようという時がありました」
――お兄さんにもありましたか?
「ありましたが、弟よりひどくはなかったです」(笑)
――それでも剣舞を続けた理由は何ですか?
「小さな頃から日本壮心流のコンクールに入賞したいと思っていまして、大きくなるに従って、だんだん賞に擦る(かする)ようになりました。それで面白くなってきて、続けてもいいかなと思うようになりました。また、剣舞仲間ができて、みんなでやる楽しさを知ったのも、理由のひとつだと思います」
「中学一年の頃は、揺れていたよね。部活の関係から、本当に辞めようかなという時がありました。まして、コンクールなどの成績が上がらなければ、辞めやすくなりますよね。たまたまコンクールの申し込みがしてありまして、今から辞めたら周りに迷惑がかかるので、もう少しやったらと言って続けさせました。私としては途中で挫折感を味あわせたくなかったですし、すぐ諦めてしまうというのも嫌でしたから、とにかく続けさせましたところ、いい具合に結果が出て、やる気になったのだと思います。少年の部で優勝した年の、前年度の二位までは低迷期でしたね」(笑)
 
入倉昭山宗家と師の清水昭麟さんから指導を受ける伊藤武さん
 
――何が原因で低迷していたと思いますか?
「兄との差でしょう」(笑)
「お前は、やらされている感が強かった」(爆笑)
―「子供特有の、誰かがやっているからやる、といった感じでしていたように思います」
――でも、結果が出てやる気になった。やはり賞を取ることはいいことなのですか?
「賞を取れれば嬉しいですが、最近は賞だけを気にすることはありません」
――では何が気になるの?
「自分がいかに充実して演じられるか。また、見ている人に満足してもらえるか、満足はしてもらえないでしょうが(笑)、そんなことを心がけています」
――このように言っていますが、ご宗家から見てどうですか?
宗家「本人が言っているのだから、そういうことにしておきましょう」(爆笑)
――これからの豊富などはありますか?
「これから詩舞を始めますが、詩舞も剣舞も上達したいですし、兄と競い合いながら、がんばっていきたいと思います」
――お兄さんも何か豊富はありますか?
「弟は競い合う相手だと思うけど、これから何年か先に、指導できるくらいまでになったとき、自分は厳しく教えてしまうだろうから、弟が優しさでフォローするような、みんなが楽しめる教室をやってみたいです」
――武さんへ、アドバイスなどがありましたら、お願いします。
「怪我に気をつけて、本人にとっては楽しみの多い世界のようですから、頑張ってください」
「稽古はまじめにやろう」(笑)
清水「アドバイスは特にないので、好きにやってください」(爆笑)
宗家「自分のスタイルを確立すること。名横綱と呼ばれる人は、この形になったら負けないというものがあります。武も負けないものを、早く身に付けてほしいと思います」
――皆さんの言葉を聞いて、最後に何か一言お願いします。
「一生懸命、頑張ります」(笑)
――本日はインタビューにお答えいただきありがとうございます。今後のご活躍を期待しております。


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