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吟剣詩舞の若人に聞く [第71回]
奥村由美さん
奥村由美さん(二十八歳)東京都大田区在住
(平成十六年度全国吟詠コンクール決勝大会青年の部優勝)
師(母):奥村龍愛さん(岳精流日本吟院六郷岳精会)
宗家:横山岳精さん(岳精流日本吟院)
 
彼岸花
親のあと継ぐ 日本一
 詩吟一家に生まれ、吟詠と共に育った奥村由美さん。しかし、優勝までの道のりは簡単ではなかったようです。優勝のことを振り返りながら、これからの目標などをお母様、ご宗家と一緒にお聞きしました。
 
――もう昨年のことになりますが、優勝おめでとうございます。
由美「ありがとうございます」
――由美さんはいくつから吟詠をなさっていますか?
由美「生まれてすぐに始めたようです。気が付いたらやらされていましたね」(笑)
――お母様はすぐにさせようと思っていたのですか?
龍愛「やらせようという感じではなく、私が教室へ行くとき、子供を置いていかれませんので、子供と一緒にお稽古に参加していました。教室で由美が遊んでいるうちに、自然に吟詠をはじめるようになりました。その教室は私の母が教えている教室で、母はここにいらっしゃる横山岳精宗家の弟子にあたります」
横山「由美さんの祖父母は私のところの幹部で立派な人ですし、その娘さんの龍愛さんも少壮吟士、まさに詩吟一家ですよ。だから、由美さんは皆の良いところをもってきているのではないでしょうか」
――小さな頃から吟詠を習っていて、抵抗感はなかったですか?
由美「けっこうありましたよ(爆笑)。やらされているという感覚が強く、自分が好きで始めた感じではないので、いろいろ我慢するところもあり、抵抗感はありましたね。これオフレコにしたほうがいいですかね」(爆笑)
――抵抗感もありながら、それでも吟詠を意識するようになったのはいつ頃からですか?
由美「コンクールに落ちて、すごく悔しさを感じるようになったとき、吟詠を意識するようになったと思います。それまでは、訳がわからずコンクールを受けていましたが、一生懸命やったのにどうして落ちたのかを考えるようになり、吟詠というものを真摯に捉えるようになりました」
――青年の部は何回ぐらい受けましたか?
由美「たくさん受けました(笑)。ただ、途中、イギリスで暮らしていましたから、その間は受けていませんが、それ以外はほとんど挑戦しました」
――優勝までには、かなり時間がかかりましたね?
由美「そうですね、七、八年ですか。私としては、そうした状態から早く抜け出したかったのですが・・・」
――お母様としては、優勝までの道のりを振り返ってどうですか?
龍愛「参加させてもらえるだけで喜びでした。優勝などは望めるものではないので、いただけて驚いています。サプライズですね」(笑)
 
優勝の喜びを語る奥村由美さん(中)と、温かく見守る横山岳精宗家(右)、
師であり、母の奥村龍愛さん(左)
 
横山「両親はもちろんですが、一番喜んだのは祖父母ではないでしょうか。ある大会でおばあちゃんが『彼岸花 親のあと継ぐ 日本一』と俳句を読まれ、由美さんがおじいちゃん、おばあちゃん孝行してくれたことに涙が出ました。日本一になることはなかなかできませんし、会の名誉でもあります」
――昨年の決勝大会では、出吟順位が一番とお聞きしましたが?
由美「はい、そうです。しかも東日本もトップバッターでした。皆さん一番は嫌だといいますが、私は前の人が吟じていないので、前の人の音につられることがなく、自分のぺースで出来るので一番は苦になりません」
 
(写真右より)横山岳精宗家、
奥村由美さん、奥村龍愛さん(師・母)
 
――ところで、平成十五年度は七位でしたが、そこから優勝できた理由は何でしょう?
由美「特に、これという理由もなく、私も不思議に思っています」(笑)
龍愛「優勝などは授かりものと思っていますので、無欲で出来たことが良かったのではないでしょうか。優勝のときに、横山宗家が来てくださり、青年の部を聞き終わると、体調が思わしくないので一足先に帰られたのですが、帰り際に『優勝するよ』といってくださいました」
横山「私も珍しくそんなことを言いましたね(笑)。でも、最高のできでしたよ、素晴らしかった」(笑)
――優勝して環境が変わりましたか?
由美「変わることはありませんが、日本武道館で吟じさせていただけるなど、今まで経験できなかったことを体験できたことはよかったと思っています」
龍愛「話がそれますが、優勝したあとに、東京都の同じコンクールを受けている青年の部の人たちがお祝いをしてくれまして、それは珍しいことですし、大変嬉しく思いました」
由美「昨年の青年吟剣詩舞道大学で一緒になり、仲良くなった人たちで、優勝のお祝いは再会するきっかけでした」(笑)
――青年大学のようにあれだけ若い人たちが集まるのは珍しいでしょ?
由美「珍しいですし、同じ趣向の人たちですからいろいろなことを共有できる素晴らしい機会でした。楽しかったです」
――由美さんを教えられていて、いかがですか?
龍愛「初めは子供らしい吟じ方をしていましたが、私が教える訳でもないのに、少年の部のときだったと思いますが、急に大人のような吟じ方になったときがありました。それまでの積み重ねが、あるとき良い形で出た結果ではないかと思っています。無理に吟をいじったということではなく、自然に大人の吟じ方になってきましたね」
――積み重ねといいましたが、練習は積極的にするほうですか?
龍愛「あまり積極的ではないかもしれません(爆笑)。ただ、集中型ではあるようで、時間をかければよいというタイプではありません。目標があれば、その目標に向かって短期間に練習するやり方をしています」
由美「集中型かどうかはわかりませんが、テレビを見ているとき、テレビにのめり込むと、話しかけられてもわからないときはあります」(笑)
――お母様は少壮吟士ですが、由美さんも目指しますか?
由美「はい、目指します」
龍愛「はじめて聞いたわ(笑)。でも先が長いから、心変わりをするのではないでしょうか(爆笑)。ただ、岳精流は、宗家が挑戦する人を応援してくれますし、会員さんへも頑張っているのだから応援してくれといってくれます。温かみがあるので頑張りがいがあります。その応援を背景に挑戦してくれると嬉しいですね」
――最後に、何か言い残したことはありますか?
由美「少壮コンクールは回数が多いですけど、あるラインを達成した人は全員に合格のチャンスがあると思いますので、またみんなと頑張れるという感じがして、そういう仲問意識といいますか連帯感のようなものが、順位をつけるコンクールよりは私に向いているような気がします。だから、三十五歳になったら受けようと思っています」
――ぜひ少壮吟士に挑戦して、素晴らしい吟詠を聞かせてください。本日はありがとうございました。


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