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はしがき
 台風は日本近海で大きな災害をもたらす自然現象の一つです。台風による高波や高潮を把握するため、台風の風を再現する取組みがこれまでも行なわれてきましたが、八代海や周防灘を襲った1999年の台風18号などでは、海上風の推算が難しく、船舶の避難や退避の資料とするには必ずしも充分とは言えませんでした。
 これまで台風時の海上風の推算は、2次元台風モデルが主に用いられてきました。しかし、その方法には限界があり、非対称な台風の風の構造を再現することはできません。一方、近年の数値モデルの進歩と計算機性能の著しい向上により、数値予報モデルを用いた高度な台風推算も可能になってきました。
 平成16年度助成事業「台風時の内湾海上風推算の研究(その1)」では、数値予報モデルを用いた手法により、台風時の内湾風をこれまでの手法より高い精度で推算できる可能性が示されました。
 本年度は、更に日本近海を通過した台風20事例を対象に海上風を推算し、数値予報モデルを用いた推算手法の改善を図りました。この事業の成果をとりまとめた本報告書が、船舶の安全航行や海難防止及び海岸や港湾の安全管理に活かされるものと期待しています。
 おわりに、この研究は日本財団の平成17年度助成事業により実施したものであることを申し添えるとともに、研究開発を推進するにあたり、ご指導を頂きました委員の方々に厚く御礼申し上げます。
 
平成18年3月
財団法人 日本気象協会
会長 松尾 道彦
 
1. 総論
1.1 目的
 台風は日本近海で大きな災害をもたらす自然現象の一つである。八代海、周防灘をおそった1999年の台風18号では高潮・高波による大きな被害が発生した。この時に行われた調査では、海上風の推算精度が十分でなく、その精度が高潮や波浪推算の精度に大きな影響を与えていると指摘された。
 これまで台風時の海上風の推算は、気圧分布を同心円上と仮定して算出する簡便な手法が用いられてきたが、その方法には限界があり、過去の災害を再現することはできなかった。観測値は、quick-scatなどの衛星データが存在するが、日本付近での観測時間密度が粗く、波浪や高潮の推算計算に使用することが困難であった。また、その他の海上風として、2005年度からは、気象庁から毎時大気解析GPV(1日24回、格子間隔約5km、日本域)の風データが配信されるようになったが、過去のデータは公開されていない。その一方で、近年の気象理論の進歩と計算機性能の向上により、数値予報モデルを用いた高度な海上風推算も可能になってきた。平成16年度事業「台風時の内湾海上風の研究」では、数値予報モデルを用いた手法により、台風時の海上風をこれまでの推算手法より高い精度で推算できる可能性が示された。
 そこで、本研究では、航行安全や海岸・港湾の背後地の安全のための有益な資料に寄与することを目的に、数値予報モデルを用いた推算手法の検討を行い、過去の台風来襲時における海上風、波浪・高潮の推算精度の向上を図った。
 
1.2 調査項目
(1)数値予報モデルを用いた海上風推算手法の検討
 平成16年度事業「台風時の内湾海上風の研究」で課題として挙げられた(1)台風ボーガス、(2)データ同化手法について問題点を整理し、調査を行う。
 
(2)数値予報モデルを用いた海上風推算手法の評価
 日本近海を通過した台風20事例を対象に、これまでの推算手法と新たな推算手法で海上風の推算計算を行い、精度評価を行う。台風20事例は、八代海・周防灘、播磨灘、伊勢湾において高波浪が観測された事例を選択する。
 
(3)波浪・高潮推算の評価
 海上風の評価を行った台風3事例を対象に、これまでの推算手法と新たな推算手法で算出した海上風を用いて波浪・高潮推算を行い、精度評価を行う。これにより、海上風の推算精度の相違が、波浪・高潮の推算精度にどの程度影響を与えるかを評価する。台風3事例は、八代海・周防灘において高波浪が観測された事例を選択する。
 
1.3 調査手順
 調査は、まず平成16年度事業「台風時の内湾海上風の研究」で課題として挙げられた台風ボーガス、データ同化に焦点をあてた検討を行い、もっとも適切な数値予報モデルの使用方法について調査した。次に、その手法を用いて、日本近海に来襲した20事例の台風を対象に、海上風推算精度を調査した。また、その海上風を用いて波浪・高潮計算を行った場合に、波浪・高潮の推算精度にどのような影響が生じるかについて評価を行った。
 調査手順のフロー図を図1.1に示す。
 
図1.1 調査手順のフロー図
 
1.4 調査対象地域と観測地点
 調査対象地域は、(1)八代海・周防灘、(2)播磨灘、(3)伊勢湾の周辺地域とした。
(1)八代海・周防灘
 図1.2に八代海・周防灘の調査対象地域の地図と、対象地域内で収集した海上風・潮位・波浪の観測地点を示す。(図中●)また、表1.1に各観測地点の緯度・経度・高度を示す。熊本港は八代海・周防灘ではないが、近接していることから検証対象地点とした。
 
図1.2 八代海・周防灘 調査対象領域
(●:観測地点、赤字:対象海域名)
 
表1.1 八代海・周防灘における各観測地点
緯度 経度 要素 高度 収集年 提供者
苅田港1 33.815 131.000 30m 99 福岡県
苅田港2 33.797 131.079 風、波浪、潮位 10m 96-04 第4港湾建設局
宇部空港 33.930 131.289 10m 99 宇部空港
三角港 32.600 130.475 風、潮位 10m 96-04 熊本県水防テレメータ
水俣港 32.198 130.375 10m 97-04 熊本県水防テレメータ
熊本港 32.760 130.592 風、潮位 10m 96-05 九州地方整備局
八代港 32.509 130.568 風、潮位 10m 96-05 九州地方整備局


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