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(3)遠洋海鳥調査結果報告 小城春雄
はじめに
 北方四島周辺海域における6月の外洋性海鳥類の分布については、2002年に国後島南部海域と択捉島周辺海域で詳細に調査した。その結果択捉島周辺海域は、南半球から飛来するハシボソミズナギドリ(Puffinus tenuirostris)の大群が観察され、そのほとんどが換羽個体で占められていた。このことは亜成鳥や成鳥の滞在場所であることが判明した。この海鳥の濃密分布域はフルカマップより国後水道に至る国後島南東部沿岸域でも観察された。また、国後水道海域はフルマカモメ(Fulmarus glacialis)が特異的に優占して分布する海域であることが判明した。
 今回の調査で最も注目したのは、水晶島より色丹島に至る歯舞群島と三角水域を含む離島周辺の浅浅海域における海鳥類の分布である。
 
調査方法
 船橋甲板(海面より 5.5m)または最上船橋甲板(海面より 6.5m)より、通常は8倍の双眼鏡により船首より片舷180度の範囲を距離にして1,000mまでに出現する海鳥の種と個体数を録音機に記録した。遠方で種の判別が困難な場合には、スタビライザー付きの20倍の双眼鏡により種の査定を行った。目視の継続時間は一単位を原則として10分間とした。体力に余裕のある場合には時間と位置(GPSによる)を記録し継続して観察した。目視単位は直線距離を航行する時だけに限り、船が変針する場合には変針点で一目視単位を終了し、新たな目視単位を開始した。
 目視記録は、1km当たりで遭遇する海鳥の羽数を求めた。この値は同時に1km2における分布密度とみなせる便利さがある。北方四島周辺海域の海鳥類の分布密度は極めて高く、また、種類も多いため、船速と海鳥の飛翔速度を考慮した記録が不可能であるため、この方法が有効である。それはほとんどの海鳥類がこの海域では海面上で索餌している場面に遭遇することが多いのが大きな理由である。ただし、4〜5月や8〜9月のミズナギドリ類の活発な移動期には、船速と海鳥の飛翔速度を考慮する必要がある。
 
結果
目視結果の概要
 総目視時間は1,854分、総目視距離は589,937km、総目視単位は174単位、総観察羽数7,200羽であった。総目視単位数が少ないのは、濃霧のため6月9日は10単位、10日は5単位、11日は5目視単位しか有効な記録が無かったからである。全体として見ると総観察羽数がこれまでの調査経験から見て少ない。
 種別に見た観察数の多い上位8位までの海鳥種の羽数と全体に占める割合は以下のごとくである。ウトウ4,862羽(67.5%)、ビロードキンクロ547羽(7.6%)、フルマカモメ(暗色型)284羽(3.9%)、オオセグロカモメ247羽(3.4%)、ハシボソミズナギドリ239羽(3.3%)、ケイマフリ198羽(2.8%)、アビ類145羽(2.0%)、ヒメウ143羽(1.98%)。
種別の観察羽数から見た海域の海鳥分布の特性
 表1に調査期間中に出現した海鳥類をグループ別に、各種の観察数と全体に占める割合を示した。
 最も出現数が多かったのはウミスズメ科の海鳥類であった。そのなかでもウトウが最も多く、全体で67.5%を占めた。ついでケイマフリ、ウミスズメ、ウミガラス、エトピリカの順であった。注目すべきは沿岸性の強いケイマフリが198羽も観察されたことである。本種は色丹島の崖錘斜面で多数繁殖しているが、索餌域は浅海域であれば、営巣地からかなり離れた海面まで飛翔するらしい。歯舞群島でもかなり繁殖数が期待されると考えられる。調査航海中にハルカリモシリ島に上陸したロシアの研究者の観察によると、この年の春の到来は通常の年より2〜3週間遅れていることが植生の繁茂状態から推測された。海洋環境としては、宗谷暖流系水は例年通りであるものの、親潮系水は早春時にも優勢で歯舞群島から色丹島周辺海域の昇温が遅れているようであった。また、ハルカリモシリ島では、ウトウはいまだ抱卵中であった。このことは観察したウトウが餌となる魚を咥えている場面の観察されなかったことからも判断できた。ウミスズメも観察されたが子連れの親が出現しなかったことから、今だ抱卵中と判断した。
 海がモ類ではビロードキンクロの大群が多楽水道の浅海域で観察されたため、二番目に多く出現したグループとなった。北方四島周辺海域における海ガモ類の分布や生態についてはほとんど未知である。特に歯舞群島の浅海域は冬季も結氷しないことから、重要な越冬域になっている可能性があるとともに、渡りの経路としても重要と考えられ、今後の調査が望まれる。
 ミズナギドリ類では北半球の亜寒帯域以北に生息するフルマカモメが284羽(3.9%)と優占した。ほとんどが暗色型であった。興味深いことは、南半球から飛来する高度な渡り性のハシボソミズナギドリが239羽(3.3%)と少なかったことである。この歯舞群島周辺の浅海域ではハシボソミズナギドリやハイイロミズナギドリの大群が7月に飛来する時期でも生息数が少ないことが判明している。これらミズナギドリ類は浅海の海洋環境には馴染めない性質を有していると考えられた。ハイイロミズナギドリ(6羽、0.08%)が少ないのは、調査期間中にはサンマ、マイワシ、カタクチイワシ等の多獲性浮き魚類の来週が今だ無いためと考えられた。
 アホウドリ類では、コアホウドリが少数出現したが、魚食性の強いクロアシアホウドリの出現が無かった。このことは多獲性浮き魚類の来遊が遅れている間接的な証拠でもある。この調査時期は、鳥島で繁殖を終了したアホウドリの北上渡りの時期で、千島列島の太平洋側を通過するが、残念ながら観察できなかった。
 カモメ科海鳥ではオオセグロカモメが優占した。ウミネコとセグロカモメが少数出現した。外洋性の強いミツユビカモメは出現しなかったが、7月2〜3日の沖合い域の調査では出現したことから、歯舞諸島周辺の浅海域には飛来しないのであろう。
 ウ類は、ヒメウが多く観察された。岩礁や海崖などで休息している個体ではウミウの方が生息数が多い可能性がある。海上にいない場合には観察の対象としなかったためにヒメウが多くなってしまったのかもしれない。しかし、歯舞群島周辺の浅海域はヒメウにとって好適な索餌域になっていることには間違いないようである。チシマウガラスの生息も知られているが、観察されなかった。
 アビ類海鳥は、シロエリオオハム、アビ、ハシジロアビの3種が同定された。アビ類は生殖羽となっていない個体が多く、種の査定が困難であった。大部分はアビ類として判断せざるを得なかった。但し、シロエリオオハムがほとんどであると考えられた。このアビ科海鳥類も浅海域で索餌する習性が優れているようである。
 
表1 科別に見た海鳥数の観察羽数と割合
種名 羽数 割合(%)
ウミスズメ科 ウトウ
ケイマフリ
ウミスズメ
ウミガラス
エトピリカ
小型ウミスズメ科
エトロフウミスズメ
マダラウミスズメ
ハシブトウミガラス
ウミバト
小計
4862
198
145
111
74
47
9
3
1
1
5451
67.5
2.7
2.0
1.5
1.0
0.7
0.1
0.04
0.01
0.01
75.7
海がモ類 ビロードキンクロ
海ガモ類
クロガモ
小計
547
51
6
604
7.6
0.7
0.08
8.4
ミズナギドリ類 フルマカモメ(暗色型)
ハシボソミズナギドリ
ハイイロミズナギドリ
コアホウドリ
コシジロウミツバメ
フルマカモメ(明色型)
小計
284
239
6
3
3
2
537
3.9
3.3
0.08
0.04
0.04
0.03
7.5
カモメ科 オオセグロカモメ
ウミネコ
セグロカモメ
小計
247
8
2
257
3.4
0.1
0.03
3.6
ウ科 ヒメウ
ウミウ
小計
143
26
169
2.0
0.4
2.3
アビ科 アビ類
シリエリオオハム
アビ
ハシジロアビ
小計
145
10
8
3
166
2.0
0.1
0.1
0.04
2.3
シギ科 アカエリヒレアシシギ 16 0.2
 
主要6種の海鳥分布
フルマカモメ
 親潮系水や海峡や水道の寒冷な水温帯に多く分布する種で、9月以降になると北方四島周辺では、分布域が限定される傾向がある。カモメという種名がつけられているが、ミズナギドリ科の管鼻類である。外洋性が強い亜寒帯種である。明色型と暗色型があるが、北方四島周辺海域では99%が暗色型である。
 分布密度を図1に示した。三角水域や歯舞群島周辺の浅海域では少なく、色丹島周辺の親潮系水の卓越する海域で多くの分布する傾向が見られた。
 
ハシボソミズナギドリ
 本種は南半球のタスマニアで繁殖を終了し3〜4月に北半球に向けて飛び立ち4〜5月に北方四島周辺海域に達したものである。分布密度を図2に示した。6月7〜8日の根室からフルカマップを経て色丹島のアナマ湾までの航程では本種の出現は無かった。6月13日のフルカマップより根室までの航程でも僅か39羽が観察されただけであった。この調査期間においては、ハシボソミズナギドリは調査海域には本格的に飛来していない様相が見て取れた。特に歯舞諸島周辺の浅海海域で本種の観察が無いことから、国後島南部への飛来経路はゴヨウマイ水道から色丹水道までの間では、色丹島周辺から大部分が侵入する傾向があるのではないだろうか。同属種のハイイロミズナギドリは魚色性が強いため多獲性浮き魚類の北上回遊に同調しているため、出現数が少なかったものと考えられる。
 2002年6月7日の調査航海では根室よりフルカマップまでの間に、ハイイロミズナギドリ136羽、ハhシボドミズナギドリ2289羽、種不明ミズナギドリ40羽が観察された。
 本種はこれまでの北方四島周辺の海鳥調査では6〜9月においては、全観察羽数の60〜70%を占めるのが常であったが、今回の調査結果では僅か3.3%を占めているだけであった。
 以上のことから、今航海でのハシボソミズナギドリの北方四島周辺海域の飛来は、かなり遅れていることが明らかである。理由は、第一には冬季が例年に無く寒冷であったため、春になっても水温の上昇が遅れたこと。第二には親潮系水が例年に無く優勢であったために水温上昇が遅れていること。これら二つが考えられた。
 
オオセグロカモメ
 北方四島周辺海域で最も頻繁に観察される大型カモメ類である。分布密度を図3に占した。ウミネコよりはるかに海洋環境に適しているため、海岸より12海里外の沖合いでも普通に観察される。ほとんどすべての目視単位で出現していた。ただし、全域に分布した海上分布を示していた。歯舞群島周辺海域でも分散した分布が見られた。本種は強力な高次捕食者であり、ウミツバメ類や小型ウミスズメ類は丸ごと呑み込んでしまう。また繁殖地では、ウミネコをはじめとして他の海鳥類の卵や雛も捕食してしまう。北方四島に同属種のウミネコが少ないのは、オオセグロカモメが卓越しているためであろう。近年は、本種が北方四島で増加傾向にあるように感じられるが、詳細な生息調査が無い。恐らく水産工場から排出される廃棄物や生活ゴミの処理が杜撰なのであろう。北方四島はウミスズメ科海鳥類の貴重な繁殖域であることから、ロシア側の環境整備が望まれる。
 
ウトウ
 北方四島周辺海域で最も卓越する海鳥種である。沿岸性海鳥種であるためか北方四島の太平洋側で距離12海里害になると急激に分布数が少なくなる。それに替わってフルマカモメ、コシジロウミツバメ、コアホウドリが増加する。ただし、国後島と歯舞群島の間の海域では何処でも観察できる。分布密度を図4に示した。歯舞群島の太平洋側の目視単位で本種が出現しなかったケースがあった。調査期間は丁度本種の抱卵期に当たっていたため、つがいの片方は巣穴に滞在しているのと、雛への餌採りの必要が無いため分散はしているが一様な分布が見られた。この一様な分布も抱卵木であることを裏付けている。すなわち、雛が生まれると親鳥は雛への餌となる獲物を咥えたまま、午後になると繁殖地周辺の海面に集結する。このような場所を集結場所(Staging Area)という。このような場所で日没を待つ。また、両親の餌を取る海面は営巣場所より100km以上に及ぶことがある。雛が生まれるとウトウの海上分布は広範囲になるとともに、観察数は増加する。このため、洋上での観察結果から繁殖地を特定できないという不便さが生じる。8月以降になり雛が巣立った後は親鳥は北方四島周辺海域を離れてしまう。繁殖後の成鳥の行方が現在では不明である。2004年9月の調査結果を見ると、合計269目視単位で30654羽が観察されたが、ウトウは902羽観察されただけであった。これは全観察羽数中で僅か2.94%を占めているだけであった。巣立ったばかりの幼鳥も一部が北方四島周辺海域で観察されるが、これら幼鳥の行方も不明である。
 
ケイマフリ
 ケイマフリの密度分布を図5に示した。本種はウトウよりさらに沿岸性で営巣地より遠方までは索餌に出かけない。したがった、本種が観察されればその近辺に繁殖地のあることになる。大型船が接近できる水深の深い岩井海域では生息数を確認できるが、水深の浅い沿岸海域を持つ島の周辺海域の調査では生息数を確認できない。図5から、色丹島はケイマフリの一大繁殖地である。恐らく、北方四島で最も繁殖数が多いと考えられる。ただし、同属種のウミバトの観察例がこれまでに無いが、今後確認するべき課題である。歯舞群島周辺海域でもケイマフリが出現していることから、小型船で沿岸域を周航すればかなり正確に生息数を推定できるであろう。興味深いことは、根室とフルカマップの間で必ずといって良いほど本種が観察される。これらの個体が何処で繁殖しているのか知りたいものである。この間での観察で同属種のウミバトが1羽観察された。
 
ヒメウ
 本種は同属種のウミウとともに北方四島で卓越するウ類であるが、ウミウよりも寒冷な気候に適応しているらしく、今回の調査時のような初夏になっても水温の上昇が遅れた年には、ウミウよりも多く観察された。索餌域は沿岸域に限定されている傾向が図6の密度分布図から窺える。歯舞群島周辺の浅海域、色丹島の沿岸域、根室よりフルカマップまでの間で多く観察された。沖合い域では全く出現しなくなった。
 その他のウ類であるチシマウガラスの分布も十分予測できるものの、生殖羽の個体であれば種査定は簡単であるが、未成熟鳥ではヒメウと区別が船上からの観察では極めて困難であり、今回の調査は確認できなかった。
 
まとめ
1. 南半球起源のミズナギドリ類の北方四島周辺海域への到着が遅れていた。特にハシボソミズナギドリやハイイロミズバギドリの分布がほとんど見られず、僅かに先行群が疎らに出現しただけであった。太平洋側では親潮系水が優勢であり表面水温が2〜4度(℃)であったため、主要な餌生物であるツノナシオキアミEuphausia pacificaの海表面への出現が遅れていたためと考えられる。
2. 親潮系水の優勢のため、ウトウ等のウミスズメ科海鳥類の繁殖時期が若干例年より遅れている様相が見て取れた。観察羽数が少なかったのは、調査時期がウトウの抱卵期に当たり、繁殖個体の半数は巣穴内に滞在していたためと考えられる。
3. 歯舞諸島周辺の浅海域は、特にウミスズメ科海鳥類にとって重要な索餌海域である可能性が示唆された。特に大集団で索餌するウトウのような海鳥類よりも、小集団で索餌する沿岸性のケイマフリ、ヒメウ、小型ウミスズメ類、アビ類等の種にとって重要と考えられた。また、海ガモ類にとっても好適な生息環境を提供している可能性が示唆された。


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