7.5 サプライチェーンに関わる主要な保険の概要
ここでは保険の主な種類(種目)ごとにどのようなリスクをカバーするか、保険の支払われない場合はどのような場合か等につき説明します。
我が国と外国相互間の貿易にともなう貨物の輸送中に発生する様々なリスク(「海上危険(Marine Risk)」 「戦争・ストライキ危険(War & Strikes Riots and Civil Commotions Risks)」)をカバーする保険です。
「海上危険」とは、船舶の沈没・座礁・火災などの海固有のリスクと破損、盗難、解凍などのその他リスクです。
「戦争・ストライキ危険」とは、戦争、革命、内乱、水雷・機雷、海賊等のリスク<戦争危険>と労働者のストライキ・騒擾、その他暴動に加わっている者による損害等のリスク<ストライキ危険>であり、別途特約を付帯することによりカバーされますが、通常は海上危険とセットで付保される場合が一般的です。
自動車保険や火災保険のような1年更新の保険ではなく、あらかじめ条件等を設定した包括契約を締結しておき、個々の輸送ごとにその輸送行程中を保険期間としてカバーします。「海上危険」と「ストライキ危険」の保険期間は原則として、貨物が、仕出地の倉庫を搬出されたときに始まり、仕向地の倉庫に搬入されたとき(ただし荷卸後60日限度)に終わります。一方「戦争危険」の保険期間は、外航本船積み込みから荷卸しまで(ただし本船到着後15日限度)の間に制限されます。
輸送行程だけでなく、別途特約を付帯することにより、輸送に付随した保管、組み立て、加工等のリスクをカバーすることも可能で、サプライチェーンに対応した保険設計ができる柔軟な保険です。
保険金支払の対象とならない主な損害は、次のとおりです。
・被保険者の故意または不法行為による損害
・貨物固有の瑕疵または性質による損害
・通常の漏損、通常の重量または容積の自然消耗による損害
・梱包もしくは荷支度の不十分または不適切による損害
・運送の遅延による損害
・原子力危険、生化学兵器、電磁兵器、化学兵器、生物兵器による損害
・通常の輸送行程以外の期間(保管、加工中等)におけるテロ損害 等
<包括タイプの運送保険>
契約者(荷主等)が製造、販売する製品・半製品の日本国内での輸送中・保管中・加工中のリスクを切れ目なく一貫してカバーする保険(“物流総合保険”等の名称で販売される財物に関する保険)です。火災・爆発・落雷・雨濡れ・風災・水災・破損・盗難等ほとんど全ての事故によって生じた損害をカバーし、加工中・製造中の損害は、国内であれば自家工場はもちろん、委託加工工場での加工中もカバ−する総合的な保険です。
<運送業者貨物賠償責任保険>
国土交通大臣から許可を取得した正規の運送業者が、輸送中・仮置中の受託貨物に生じた偶発的な事故による損害に関し、荷主・元請運送人に対して負担する法律上・契約上の賠償責任をカバーする保険です。こちらも、物流業者包括賠償保険といった商品名で、輸送中だけでなく保管中、一定の物流加工中なども含め、受託貨物に関して物流業者が被る賠償責任を包括的にカバーする保険も提供されております。
上記の運送保険において、保険金支払の対象とならない主な損害は、次のとおりです。
・保険契約者、被保険者またはこれら代理人・使用人の故意・重過失
・貨物の自然の消耗、性質・欠陥
・荷造りの不完全、運送の遅延
・戦争、暴動、ストライキ、騒擾、その他群衆・集団によってなされた暴力的、騒動的な行動、テロ行為
・捕獲、だ捕、抑留または押収
・地震、噴火、津波、原子力危険、生化学兵器あるいは電磁兵器に起因して貨物に生じた損害
・保管中・加工中の紛失、その他原因不明の数量不足 等
<普通期間保険>
船舶が運航、作業など本来の目的に供されている期間の海難事故による下記の損害をカバーする保険です。
・全損
・修繕費(保険条件により異なる。)
・共同海損分担金(保険条件により異なる。)
・損害防止費用
・(船対船の衝突に限った)衝突損害賠償金(保険条件により異なる。) 等
<戦争保険>
上記の普通期間保険などで対象外となる、戦争、爆発物との接触等により被った損害をカバーする保険です。
・戦争、内乱、その他変乱
・兵器の爆発またはこれらの物との接触
・だ捕、捕獲、抑留、押収、または没収
・テロ
・海賊行為、強盗
・ストライキ等の労働争議、暴動、社会的騒擾 等
<不稼動損失保険>
船舶が海難事故に遭遇して稼働できなくなった修繕期間中の運賃や、用船料の損失による費用損害をカバーする保険です。
<船主責任保険(PI保険)>
船舶の運航、使用、または管理に伴って発生した法律上の賠償責任や下記費用を負担することによって被る損害をカバーする保険です。
Protection(船舶所有者又は船舶運航者としての第三者に対する責任と、雇用主としての船舶乗組員に対する責任を担保するもの)と、Indemnity(積荷の運送人としての荷主に対する責任を担保するもの)の両面の損害をカバーする保険です。
なお、当保険の引受は、通常、PIクラブと呼ばれる船主の相互保険組合(日本では、日本船主責任相互保険組合(Japan P&I))が行なっていますが、一部損害保険会社でも行っています。
・人の死傷または疾病に対する賠償
・本船外に存在する財物(港湾設備、海産物等)に与えた損害に対する賠償
・汚染損害に対する賠償
・本船の船骸および残骸撤去費用
・人命救助および船長、船舶乗組員の送還費用 等
船舶保険において、保険金支払の対象とならない主な損害は、次のとおりです。
・保険契約者、被保険者またはこれら代理人などの故意または重過失による損害
・被保険船舶の摩滅、腐食、さび、劣化その他自然の消耗
・被保険船舶が発航の当時安全に航海を行うのに適した状態になかった場合の損害
・被保険船舶が安全に航海を行うために必要な検査を受けなかった場合の損害 等
<海外PL(製造物責任)保険>
輸出製品に関するPL(製造物責任)をカバーすることに特化した賠償責任保険です。輸出製品の欠陥に起因して第三者の身体障害または物的損壊事故が発生した場合に、被保険者が法律上の賠償責任を負担することによって被る次の損害をカバーします。また、被保険者に対して提起された訴訟の防御を保険会社がおこなうことも当保険の特色です。
(第三者に対する損害賠償金)
・身体障害(治療費用、葬儀費用、休業損失、逸失利益、慰謝料等)
・財物損壊(当該財物の修理費用等)(財物の物理的損壊を伴わない使用不能損害)
(防御費用)
・クレーム費用(訴訟費用、弁護士費用等)
・ボンド(保証証券)の保険料(上訴ボンド、差押さえボンド) 等
(応急手当費用)
海外PL保険において、保険金支払の対象とならない主な損害は、次のとおりです。
・被保険者が契約または合意により負担する賠償責任(契約により加重された賠償責任等)
・被保険者の従業員が業務中に被った身体障害に対する賠償責任
・生産物それ自体の損壊に対する賠償責任
・罰金、違約金、または懲罰賠償金
・原子力事故を原因とする賠償責任
・地震を原因とする賠償責任
・アスベスト(石綿)を原因とする賠償責任 等
<受託物賠償責任保険>
他人から借りたり預かったりした物(受託物)を特定の施設内で保管している間、あるいは保管目的に従い施設外で管理している間に、火災や取扱上の不注意等により損壊し、もしくは盗取されたことによって、被保険者が貸主や預け主等に対して負担する賠償責任をカバーする保険です。負担する相手方は、当該受託物について正当な権利を有する者に限定(受託物の損壊に付随して派生した第三者の身体障害、財物損壊にかかる賠償損害は当保険の対象外)されます。
受託物賠償責任保険において、保険金支払の対象とならない主な損害は、次のとおりです。
・被保険者が契約の故意により生じた賠償責任
・被保険者、従業員が行いまたは加担した盗難
・受託物の自然の消耗、瑕疵等による損害
・受託物が寄託者に引渡された日から30日以後に発見された損害
・原子力事故を原因とする賠償責任
・地震を原因とする賠償責任 等
取引先(日本国内)の倒産等により、継続的な売買契約の売掛金、手形等が回収できない場合の損害をカバーする保険です。保険金の支払の対象とならない主な場合は次のとおりです。
・契約者の故意、重大な過失による損害
・未成年者、無能力者との契約
・商品の瑕疵、争議等で債権債務額が確定しないもの
・債務不履行であること、倒産状況を知りながらの契約による損害
・地震、噴火、津波等による社会的、経済的混乱によって生じた損害
・原子力危険に起因する社会的、経済的混乱によって生じた損害
・戦争、変乱、暴動等による社会的、経済的混乱によって生じた損害 等
従業員の「業務上の事故」を補償する政府労災に加入している全ての企業向けの保険です。企業の従業員が、業務中、あるいは通勤途上で死亡した場合や後遺障害を被った場合、または休業した場合に、政府労災の上乗せ補償として企業が従業員または遺族に給付する補償金を保険金として企業に支払うものです。保険金支払の対象とならない主な場合は、従業員(被用者)の故意、重過失による身体障害、戦争・暴動・地震・噴火・津波・原子力・風土病等に起因する被用者の身体障害(テロは対象となる)などです。
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