第6章 サプライチェーンを勘案したセキュリティ対策のモデル
2001年9月11日に勃発した米国同時多発テロ以降、サプライチェーン全体に対して、いかにセキュリティを確保するか、セキュリティの確保の為のコスト高にどう対処出来るのか、また技術的にセキュリティと物流効率化によるコスト低減を同時に達成出来るのか等の問題が提起されました。 一方、国際物流は増加の一途を辿っているのに対し、貨物のトラッキングは限定的な為、実際は一部のコンテナしか検査できておらず、貨物の発地の情報やコンテナの中身の情報は瞬時にはわからないのが現状です。また、監視のチェーンを構築するのも困難な状況です。
このような背景の中、当該テロを契機に米国運輸省内で、ドアツードア輸送において情報システムによってサポートされた貨物の可視化の必要性が議論され、「情報交換は手入力(手作業)を増加させる」事が課題として挙がり、また、「情報システムは個々独立的に開発・運用され、容易に接続できない」等の問題が議論されました。この議論の結果として、ボトルネックは、取引者同士は、それぞれの独自の標準を利用し、また個々の国・地域で異なった用語(定義がばらばらで、標準化されていない)を使用していることが挙げられました。 そこで、「手入力をなくして、再入力、データ転送の断絶をなくすため、サプライチェーン全体を通して使用できる標準データおよびメッセージセットの開発」が必要となり、米国運輸省内で取り纏めて、ISO/TC104へ新標準化プロジェクトとして提案され、TC204WG7.2グループにて標準化作業が始まりました。
TC204WG7.2グループにおいての標準化作業は、UML1を活用したデータ交換モデルの記述を採用し、Use Case Diagram(ビジネスプロセスに関する業務手順の標準化)、Class Diagrams(参加主体)、Object Interaction Diagrams(参加主体の情報の授受関係)を活用して、データ交換モデルの作成作業を行いました。
また、既存の成果や法的、技術的視点も考慮し、UN/CEFACTの業務手順分析および世界税関機構(WCO)のデータモデルを活用して、サプライチェーンにおける貨物の移動追跡の為の標準メッセージおよび標準データ辞書の作成を目指しています。
1 UMLとは、Unified Modeling Languageの略で、統一モデル言語(モデリングとは、あるものを簡単に図式化すること)を意味しています。
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ISO TC204 WG7.2グループにおいては、提案された2「サプライチェーンにおける貨物の移動追跡の為の標準メッセージおよび標準データ辞書(Data Dictionary and Message Set to facilitate the movement of freight and its intermodal transfer - Road transfer information exchange)」の標準化作業(標準メッセージおよび標準データセットの開発)を行っております。 本標準化作業は、CD合意の段階で一旦中断致しましたが、米国運輸省は、本標準化の考えを検証する為のプロジェクトを2006年に開始しました。
グローバルサプライチェーンは一つの標準で運用するには複雑すぎ、また、産業、国、輸送モードによる違い、例外が多く存在するので、段階的に標準化を進めております。標準化における当初の対象は、全ての輸送モードを対象として始められましたが、あまりにも対象分野が広く、先ずトラック→航空→トラック間のマルチモーダル輸送に範囲を限定して標準化作業を行いました。
航空機輸送とトラック輸送のマルチモーダル輸送に関する貨物の移動は、(1)輸出国の送り荷主(Supplier)からトラック輸送により、空港へ(混載される場合は、混載業者により1つの貨物に纏められて)、(2)空港より航空貨物キャリヤにより輸入国の目的地空港へ輸送されます。(3)保税地域にて、税関へ輸入申告し貨物の審査・検査を受け、(4)通関後、保税地域からトラック輸送により受け荷主(Consignee)へ届けられます。(混載された貨物は、混載業者によって、輸送を依頼された元の貨物毎にバラされ、通関後、受け荷主(Consignee)へトラック輸送により届けられます)。この間の輸送における貨物の移動追跡(貨物の可視化)に関し、セキュリティメッセージと貨物の可視化のイメージおよび標準セキュリティメッセージと貨物輸送遷移の関係を示すと次の6-3、6-4図のようになります。
2 ISOでは、新規標準の提案後、DIS→CD(Community Draft)→正式標準へと進みますが、CDから3年以内に正式標準化できない場合は、その新規標準は廃棄されます。
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図6-4 貨物輸送とセキュリティメッセージ
図6-3 セキュリティメッセージと輸送遷移
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