(2)平均化時間パラメータ
本研究で使用した海洋短波レーダーシステムは、信号到来方向を「Direction Finding」のアルゴリズムを用いて決めている。この方法で信号到来方向を確定するには、できるだけ長い時間の平均化が望ましい(方向測定精度に影響するノイズレベルの不規則性を除去)とされる。一方、流況変化は、なるべく短い平均化データが、経時変化の把握に適している。解析に使用するラジアルファイルを作成するにあたり、平均化に用いる妥当な時間(データ数)について検討した。図2.2.2.10に、強流速を観測したADCP観測日における、平均化時間を変化させた4種類の比較を示す。比較したデータは、それぞれCSSファイルを1個(7分)、3個(17分)、5個(27分)、7個(37分)を使用し、方向分解能を1度で平均化計算を行い、10分間隔のデータとした。ADCPとの比較方法は前項と同じである。比較結果から、相関係数、標準偏差を求め表2.2.2.1に示す。なお、データ数に違いがあるのは、短波レーダーの計算過程において、平均化時間の違いにより算出できない時間があるためである。
平均化時間を変化させたラジアルファイルとADCP流速値との相関は、7分〜27分までの変化は、平均化時間が長くなるほど相関係数は高く、標準偏差は小さくなる傾向を示す。これが、平均化時間が27分と37分では相関係数、標準偏差ともほとんど変化はみられない。短波レーダーで観測された最大流速は、図2.2.2.10のグラフにも示されるように、平均化時間を変化させたいずれの場合も150cm/s程度の同じ値を示している。すなわち、平均化時間の変化では、観測値の最大流速にあまり大きな影響がないものと考えられる。以上のことから、平均化時間は27分とし、データの出力間隔は観測値の連続性を考慮すると、20分間隔が妥当と考えられる。
表2.2.2.1 
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ラジアルファイル作成の平均化時間とADCP流速の比較
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平均化時間 |
データ数 |
相関係数 |
標準偏差(cm/s) |
7分 |
88 |
0.63 |
72.5 |
17分 |
71 |
0.73 |
63.5 |
27分 |
92 |
0.80 |
58.2 |
37分 |
92 |
0.80 |
58.3 |
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図2.2.2.10 
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ADCPと短波レーダー平均化時間変化による流速値の比較
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(視線方向:「大磯埼」19度、レンジ距離:3.5〜6.5km、観測日:7月27日、8月8日〜8月10日)
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