(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月1日21時43分
宮崎県大島東方沖合
(北緯32度57.9分 東経132度07.9分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第一由航丸 |
総トン数 |
188トン |
全長 |
44.82メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第一由航丸
第一由航丸(以下「由航丸」という。)は,昭和53年1月に進水し,平成2年12月にまき網船団付属運搬船から活魚運搬船として改造された船尾船橋型の鋼製漁船で,船首楼下に船首タンク,1番燃料油タンク及びポンプ室を,船体中央部に1番から4番までの魚倉を,そして船尾部に操舵室,機関室及び居住区などをそれぞれ配置していた。
イ 機関室
機関室は,長さが約7.4メートル(m)の上甲板によって上下2段に分かれた区画で,下段には,中央付近に主機を,その右舷側船首寄りに1号の,左舷側船首寄りに2号の発電機用原動機(以下「補機」という。)をそれぞれ据え付け,1号補機の船尾側に主補機冷却海水ポンプ(以下「冷却海水ポンプ」という。)及び潤滑油冷却器などを,2号補機の左舷側に主ビルジポンプ,補ビルジ兼油圧オイルクーラー冷却水ポンプ(以下「補ビルジポンプ」という。)及び主空気圧縮機などをそれぞれ備え上段には,魚倉ポンプ,清水冷却器及び主配電盤などを設置し,船尾側中央に船員室へ通じる出入口扉が設けられていた。
また,機関室は,船底から高さ約1.3mの位置に床板が敷かれ,主機船尾側の船底両舷にシーチェストを設け,冷却海水ポンプの呼び径80Aの海水吸入弁を右舷シーチェストに取り付けており,船尾船底部がビルジだめとなっていてビルジ高位警報装置が設置されていた。
ウ 冷却海水ポンプ及び冷却海水系統
冷却海水ポンプは,全揚程15mにおける吐出量が毎時65立方メートル(m3/h)の電動横形式渦巻ポンプで,鋳鉄製のケーシング及びインペラ等からなり,建造当初から据え付けられていた。冷却海水系統は,海水吸入弁からこし器を経て冷却海水ポンプにより吸引,加圧された海水が,主機の空気冷却器,潤滑油冷却器及び清水冷却器を冷却して海面上の船外吐出弁から排出されるほか,一部が分岐して逆転減速機用潤滑油冷却器及び両補機の各冷却器にも送水され,それぞれ独立した船外吐出弁から排出されるようになっており,これらの弁には海面下となることから逆止め弁が使用されていた。
エ 機関室ビルジ系統
機関室のビルジ系統は,ビルジだめのビルジが,呼び径80Aのビルジ吸引管を経て,呼び径40Aのビルジ吸入弁から全揚程11mにおける吐出量が10m3/hの主ビルジポンプで吸引,排出されるほか,呼び径65Aのビルジ吸入弁から全揚程25mにおける吐出量が24m3/hの補ビルジポンプでも吸引,排出できるようになっていたものの,専ら主ビルジポンプによりビルジ処理が行われていた。
3 事実の経過
A受審人は,平成15年2月に由航丸の定期検査工事に立ち会い,冷却海水ポンプを開放受検したところ,インペラの先端と肉厚が減耗していたので新替えし,両ビルジポンプの効力試験などを行って異常のないことを確認した。また,常時開弁状態で使用している各冷却海水船外吐出弁については,開閉操作を行ったときに固着気味であったものの,開放整備を行わなかった。
由航丸は,活魚運搬を続けるうち,各冷却海水船外吐出弁が開弁したまま弁棒や弁体が発錆などで固着したため,逆止め機能が失われた状態となり,補ビルジポンプについては定期検査工事以降は全く運転されず,A受審人が定期的な作動確認も行っていなかったので,回転部分が発錆したり塩分が付着する状況となっていた。一方,冷却海水系統では,冷却器類の海水側に貝などが付着して徐々に成長したことから,海水の流れが阻害され,冷却海水ポンプの吐出圧力が上昇し始めた。
A受審人は,同年12月に入ったころから,それまで1.2キログラム毎平方センチメートル(kgf/cm2)であった冷却海水ポンプの吐出圧力が1.6ないし1.8kgf/cm2まで上昇するようになったのを認めたが,翌年の2月末から入渠工事を予定していたことから,そのときに冷却器類を掃除すれば大丈夫と思い,速やかに冷却器類の海水側を開放して汚れの状態を確認するなど,冷却海水系統の点検を行わなかったので,海水の流れが阻害されたことで冷却海水ポンプの吐出口付近に発生する乱水流が増大し,ケーシング内壁が浸食されていることに気付かないまま運転を続けた。
こうして,由航丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,宮崎県福島港において活魚約17トンを積み,船首2.5m船尾3.5mの喫水をもって,平成16年2月1日09時00分同港を発し,宇和島湾に向けて航行中,冷却海水ポンプケーシングの下部吐出口付近に生じていた浸食が著しく進行して破口を生じ,多量の海水が機関室に浸入するようになり,21時43分先ノ瀬灯台から真方位102度1.7海里の地点において,同室のビルジ高位警報が作動した。
当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,海上は穏やかであった。
自室で休息していたA受審人は,機関室当直中の機関員からビルジ高位警報が発したことを知らされ,機関室に急行し,主ビルジポンプを始動して排水に取り掛かるとともに,海水漏洩箇所を探索したところ,冷却海水ポンプのケーシング下部が破口していることを認め,主機を停止して先ノ瀬灯台東方沖に錨泊したのち,冷却海水吸入弁を閉弁して排水作業を続けたものの,補ビルジポンプの回転部が固着して運転できなかったうえ,各冷却海水船外吐出弁が開弁状態で固着していて同弁から海水が逆流し,浸水量が徐々に増加したことから自力排水を断念し,翌2日00時05分ごろ海上保安部に救助を要請した。
由航丸は,逆転減速機の上端付近まで浸水し,来援した巡視船艇により排水作業が行われるとともに,僚船に活魚を積み替えたのち,引船により大分県津久見港の造船所に引きつけられ,冷却海水ポンプのケーシング下部に幅約25ミリメートル(mm)長さ約100mmの破口が生じており,主機,逆転減速機及び1号発電機等に濡損を生じていることが判明したが,のち冷却海水ポンプを新替えするとともに,濡損した機器がいずれも修理された。
(本件発生に至る事由)
1 定期検査工事において,冷却海水船外吐出弁の開放整備を行っていなかったこと
2 定期検査工事で試運転して以降,補ビルジポンプの作動確認を行わなかったこと
3 冷却海水ポンプの吐出圧力が上昇したのを認めた際,冷却海水系統の点検を十分に行わなかったこと
4 3箇月後の入渠工事のときに冷却器類を掃除すれば大丈夫と思っていたこと
5 冷却海水ポンプのケーシング内部が乱水流により著しく浸食したこと
(原因の考察)
本件は,冷却海水ポンプの吐出圧力が上昇した際,速やかに冷却器類の海水側を開放して汚れの状態を確認するなど,冷却海水系統の点検を行っていれば,各冷却器の海水側が貝などの付着で閉塞していることに気付いて掃除を行うことにより,海水の流れが改善され,乱水流増大による同ポンプケーシングの浸食の進行を止めることができ,破口の発生を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,冷却海水ポンプの吐出圧力が上昇したのを認めた際,3箇月後の入渠工事のときに冷却器類を掃除すれば大丈夫と思い,冷却海水系統の点検を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
また,本件は,冷却海水ポンプケーシングに破口を生じて機関室ビルジ高位警報が作動した際,海水吸入弁を閉弁できたのであるから,船外吐出弁が開弁状態で固着していなければ,同弁からの逆流がなく,補ビルジポンプの回転部が固着していなければ,適切に排水も行われ,多量の海水が機関室に浸入することは防止できたものと認められる。
したがって,A受審人が,冷却海水船外吐出弁の整備及び補ビルジポンプの作動確認をいずれも十分に行っていなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件浸水は,冷却海水ポンプの吐出圧力が上昇した際,冷却海水系統の点検が不十分で,冷却器類の海水側に貝などが付着して海水の流れが阻害されたまま運転を続け,航行中,同ポンプケーシングに乱水流浸食による破口を生じたばかりか,冷却海水船外吐出弁の整備及び補ビルジポンプの作動確認がいずれも不十分で,多量の海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,機関の運転管理にあたり,冷却海水ポンプの吐出圧力が上昇しているのを認めた場合,冷却器類の海水側に貝などが付着して海水の流れを阻害する事態が発生していると推認できたから,同ポンプに不具合を生じないよう,速やかに同側を開放して汚れの状態を確認するなど,冷却海水系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,3箇月後に入渠工事を予定していたことから,そのときに冷却器類を掃除すれば大丈夫と思い,冷却海水系統の点検を十分に行わなかった職務上の過失により,冷却海水ポンプの吐出口付近に発生する乱水流が増大してケーシングが浸食されていることに気付かないまま運転を続け,同ケーシングが破口して機関室の浸水を招き,主機,逆転減速機及び1号発電機等に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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