(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月9日03時37分
京都府丹後半島沖合
(北緯35度43.8分 東経135度17.8分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船大日丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
59.21メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
大日丸は,平成13年6月に進水した,航海速力11.75ノットの船尾船橋型鋼製貨物船で,航海計器として,レーダー,GPS装置及び測深機等を装備していた。
3 損傷した定置網が設置されていた概略位置等
同定置網は,京都府与謝郡伊根町本庄浜沖合にある鯛釣島の中心部から079度(真方位,以下同じ。)750メートル地点を起点として,同地点から151度500メートル,218度1,100メートル及び255度700メートルの各地点を順次結んだ線で囲まれた「京定第26号」と呼ばれる定置漁業漁場内に設置されており,複数の太陽電池式及び乾電池式小型灯浮標が要所に配置されていたことから,夜間においても,目視にて所在位置の確認が可能な状況であった。
4 事実の経過
大日丸は,A受審人,B受審人及びC指定海難関係人の3人が乗り組み,空倉で,船首1.4メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成17年4月8日11時37分島根県江津港を発し,京都府舞鶴港へ向かった。
ところで,江津港から舞鶴港に至る途中,丹後半島の経ケ岬から新井埼沖合にかけては,陸岸近くに多数の定置網が設置されており,当該海域を航行する船舶は,それらに乗り入れないよう,陸岸から十分に離れた安全な海域を航行することが求められていた。
また,大日丸は,平素,山口県岩国港から江津港への木材チップ輸送に従事していたのであるが,同港での揚荷を終えた後,急きょ,鋼材を積むこととなり,積地が舞鶴港に変更されたのであった。
B受審人は,出港に先立ってGPSに針路を入力する際,丹後半島沖合を航行するのは約10年ぶりであり,同海域における定置網の設置位置等を正確に把握していなかったが,陸岸から0.5海里以上離せば十分に安全であろうと思い,関係する漁業協同組合に定置網の現状について問い合わせるなりして水路調査を十分に行わず,前示本庄浜地先の定置網に向首する針路を入力したばかりか,入直予定のC指定海難関係人に対し,前路の見張りを十分に行い,定置網に注意して当直に当たるように指示しなかった。
出港後,A受審人は,定められた当直時間割に従って,同日20時00分から24時00分まで船橋当直を行い,翌9日00時10分兵庫県香住港沖合で,次直のC指定海難関係人と当直を交替したが,船長としての十分な技量を有しているB受審人がGPSの針路を入力したのであるから,当然,安全な針路が入力されているものと思い,同指定海難関係人に対し,平素どおり,GPSの針路線上を注意して航行するように引き継いで降橋した。
C指定海難関係人は,A受審人から船橋当直を引き継いで単独で当直に当たり,03時12分経ケ岬灯台から022度1.0海里の地点に達したとき,GPSに入力されていた針路と同じ139度の針路に定め,機関を全速力前進にかけ,11.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,法定灯火を表示して,自動操舵によって進行した。
そして,03時31分半C指定海難関係人は,本庄港北防波堤灯台から110度1.3海里の地点に至ったとき,本庄浜地先の前示定置網が正船首方1海里付近に位置することとなり,そのまま進行すると同定置網に乗り入れる状況となったが,指示されたとおり,GPS画面に入力された針路線上を航行すれば大丈夫と思い,作動させていたレーダーを監視するなりして見張りを十分に行わなかったので,その存在に気付くことなく続航した。
こうして,C指定海難関係人は,その後も,依然として,見張りを十分に行うことなく進行中,03時37分本庄港北防波堤灯台から122度2.2海里の地点において,大日丸は,原針路,原速力で,その船首部が本庄浜地先の定置網に乗り入れた。
当時,天候は晴で風力2の東風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
乗り入れの結果,定置網の二重網及び箱網を損傷した。
(本件発生に至る事由)
1 B受審人が,水路調査を十分に行わなかったこと
2 B受審人が,定置網に向首する針路をGPSに入力したこと
3 B受審人が,C指定海難関係人に対し,前路の見張りを十分に行い,定置網に注意して当直に当たるように指示しなかったこと
4 A受審人が,GPSには定置網を避けた安全な針路が入力されていると思ったこと
5 A受審人が,C指定海難関係人に対し,GPSの針路線上を注意して航行するように引き継いで降橋したこと
6 C指定海難関係人が,見張りを十分に行わなかったこと
7 C指定海難関係人が,定置網を避けることなく進行したこと
(原因の考察)
大日丸は,江津港から舞鶴港へ向かう際,丹後半島沖合の水路調査を十分に行っていたならば,同半島経ケ岬から新井埼沖合にかけて存在する定置網の位置などを正確に把握でき,それらを避けた針路線をGPSに入力できたと推認できることから,これに乗り入れることはなかったものと認められるうえ,当時,海上も穏やかであったので,船橋当直者がレーダーを監視するなりして見張りを十分に行っていたならば,容易に定置網の存在に気付き,これを避けることは十分に可能であったものと認められる。
したがって,B受審人が,江津港から舞鶴港に至る針路をGPSに入力する際,丹後半島沖合海域の水路調査を十分に行わなかったこと,及びC指定海難関係人に対し,見張りを十分に行い,定置網に注意して当直に当たるように指示しなかったこと,並びに同指定海難関係人が見張りを十分に行わず,船首方に存在した定置網に気付かないまま,これを避けることなく進行したことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,当直を交替する際,GPSには定置網を避けた安全な針路が入力されているものと思い,C指定海難関係人に対し,針路線上を注意して航行するように指示したことは,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件定置網損傷は,夜間,京都府丹後半島沖合において,水路調査及び見張りが不十分で,同半島本庄浜地先に設置されていた定置網に向首して進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長の実務を執っていた機関長がGPSに針路線を入力する際,水路調査を十分に行わなかったこと,及び無資格の船橋当直者に対し,見張りを十分に行い,定置網に注意して当直に当たるように指示しなかったこと,並びに船橋当直者が見張りを十分に行わなかったことによるものである。
(受審人等の所為)
B受審人は,京都府丹後半島沖合を舞鶴港へ向けて航行する場合,同半島沖を航行するのは約10年ぶりであったうえ,当該海域における定置網の設置場所等を正確に把握していなかったのであるから,それら定置網に乗り入れないよう,関係漁業協同組合に現状を問い合わせるなりして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,これを十分に行わなかった職務上の過失により,本庄浜地先の定置網に向首する針路線をGPSに入力した結果,船橋当直者が,指示されたとおり,同針路線上を進行して定置網への乗り入れを招き,当該定置網の二重網及び箱網を損傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
C指定海難関係人が,単独で船橋当直中,見張りを十分に行わず,船首方に存在した定置網に気付かないまま,これを避けることなく進行したことは,本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては,その後,航海の海技免許を取得し,見張りを十分に行うように努めていることに徴し,勧告しない。
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
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