(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月29日13時50分
宮城県仙台塩釜港
(北緯38度18.8分 東経141度07.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船聖朋丸 |
総トン数 |
699トン |
全長 |
73.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
聖朋丸は,重油の輸送に従事する鋼製油タンカーで,A受審人ほか5人が乗り組み,A重油1,920キロリットルを積載し,船首4.10メートル船尾4.60メートルの喫水をもって,平成16年12月29日12時55分宮城県仙台塩釜港仙台区を発し,同港塩釜区の貞山堀に向かった。
13時19分半A受審人は,花淵灯台から161度(真方位,以下同じ。)2.90海里の地点に達したとき,針路を塩釜灯浮標に向く020度に定め,機関を半速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,手動操舵により進行した。
ところで,聖朋丸は,船橋当直体制をA受審人のほか一等航海士と甲板長の3人で,単独の4時間当直とし,出入港時の離着桟作業時には,船橋には船長が在橋して操船し,船首配置には一等航海士と甲板長を,船尾配置には機関長をそれぞれ配置するようにしていた。
13時35分A受審人は,花淵灯台から100度1.86海里の地点に達したとき,折からの降雪のため視程が100メートルばかりまで狭められる状態となったので,速力を7.0ノットの微速力前進に下げて進行し,同時40分同灯台から084度2.06海里の地点で,入港部署を発令した。
13時42分A受審人は,塩釜小浜B防波堤灯台から097度1.99海里の地点に達したとき,レーダーで認めていた右舷方の漁船らしき映像が自船の前路を左方に横切る態勢となったので,機関を中立運転として減速し,同船をやり過ごしたのち,再び機関を微速力前進にかけて続航した。
A受審人は,塩釜灯浮標を左舷50メートルばかりに見て航過し,13時44分塩釜小浜B防波堤灯台から090.5度2.06海里の地点に達したとき,航路に向かうため左舵をとり,徐々に左転を始めることとしたが,同灯浮標を航過したばかりであり,まもなく航路の灯浮標が見えてくるものと思い,レーダーなどを使用して船位を確認することなく,原速力のまま,左転を続けた。
こうして,聖朋丸は,A受審人がレーダーを使用するなどして船位を確認しないまま左回頭中,13時49分半船首至近に養殖施設のボンデンを初めて視認し,急いで機関を全速力後進としたが,間に合わず,13時50分塩釜小浜B防波堤灯台から074度1.93海里の地点で,船首が296度を向いたとき,わずかな残速力をもって同施設に乗り入れた。
当時,天候は雪で,風力2の北北西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視程は約100メートルであった。
その結果,聖朋丸は,損傷がなく,養殖施設は,錨綱などが切断されたが,のち復旧された。
(海難の原因)
本件養殖施設損傷は,宮城県仙台塩釜港において,同港塩釜区の貞山堀に向かう際,船位の確認が不十分で,養殖施設に向首進行し,同施設に乗り入れたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,宮城県仙台塩釜港において,同港塩釜区の貞山堀に向かう場合,降雪のため視程が著しく狭められる状況にあったから,付近に設置された養殖施設に乗り入れることのないよう,レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,塩釜灯浮標を航過したばかりであり,まもなく航路の灯浮標が見えてくるものと思い,船位を確認しなかった職務上の過失により,養殖施設に向首進行して同施設への乗り入れを招き,同施設の錨綱などを切断させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。