(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年2月8日19時46分
香川県男木島西方沖合
(北緯34度25.1分 東経134度01.9分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八やわた丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
60.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
3 事実の経過
第八やわた丸(以下「やわた丸」という。)は,平成2年3月に進水した全通二層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で,船長A(二級海技士(航海)(旧就業範囲)の海技免状を所有し,受審人に指定されていたところ,死亡したことにより,これが取り消された。)ほか2人が乗り組み,袋詰めのポリプロピレン479トンを積載し,船首3.5メートル船尾4.0メートルの喫水をもって,平成17年2月8日17時30分岡山県水島港を発し,京浜港川崎区に向かった。
ところで,A船長は,やわた丸に乗り組んで1週間ばかりで,乗船後は適宜,休息をとっており,疲労が蓄積した状態ではなかったものの,同船の運航形態に慣れていなかったので,安眠できず,睡眠不足の状態であった。
A船長は,すべての窓を閉め暖房を効かせた操舵室で,同室中央の舵輪後方に置いたパイロットチェアーに腰を掛け,出港操船に続いて単独の船橋当直にあたり,香川県柏島南方沖合約1海里の地点に達したとき転針し備讃瀬戸東航路をこれに沿って航行する予定で,水島航路及び下津井瀬戸を通過したのち,航行中の動力船の灯火を表示して備讃瀬戸東航路北方沖合を東行した。
19時14分半A船長は,小槌島灯台から000度(真方位,以下同じ。)1.8海里の地点で,針路を備讃瀬戸東航路南側の香川県男木島西方沖合に向首する096度に定め,機関を8.5ノットの全速力前進にかけて自動操舵とし,折からの潮流に乗じて10.5ノットの対地速力で進行した。
男木島の西方沖合には,県知事が許可した区画漁業免許に基づくのり養殖漁場が,毎年10月1日から翌年3月31日までの間,男木島灯台から228度1.85海里の,236度1.70海里の,221度0.9海里及び210度1.20海里の各地点を順次結ぶ線によって囲まれた区域に設定され,その区域内に縦30メートル横75メートルなどののり養殖施設が90メートルないし120メートルの間隔で40箇所に設置され,同漁場の周囲にその区域を示す灯浮標14個が200メートルないし240メートルの間隔で設置されていた。
19時26分少し前A船長は,男木島灯台から263度5.0海里の地点に達し,備讃瀬戸東航路北側境界線まで1,000メートルとなったとき,睡眠不足であったうえ,操舵室が暖かく,周囲に航行の妨げとなる他船が見えなかったことから気が緩み,眠気を催したが,操舵室の窓を開けて冷気を取り入れたり,パイロットチェアーから立ち上がって同室内を移動するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとらないで続航した。
A船長は,間もなく備讃瀬戸東航路に入って同航路の左側を斜航中,居眠りに陥り,19時38分少し過ぎ男木島灯台から253度2.9海里の地点に差し掛かり,同航路をこれに沿って航行する転針予定地点に達したが,転針しないまま,19時42分少し前同航路南側境界線に至り,その後男木島西方沖合ののり養殖漁場に向首して進行し,19時46分男木島灯台から236度1.70海里の地点において,やわた丸は,原針路,原速力のまま,同漁場に乗り入れた。
当時,天候は曇で風力2の西南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,備讃瀬戸東部には2.0ノットの西方に流れる潮流があった。
その後,やわた丸は,前示のり養殖漁場内を700メートルばかり航行し,プロペラ軸にのり網を絡網させるなどして停止し,来援した引船に引き出されて高松港に引き付けられた。
その結果,やわた丸は,損傷がなかったが,のり養殖施設は,のり網,のり網枠ロープ,同ロープ固定用アンカーロープなどに切断等の損傷を生じた。
(海難の原因)
本件のり養殖施設損傷は,夜間,備讃瀬戸東航路北方沖合の備讃瀬戸を,同航路に向けて東行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同航路を横切り,香川県男木島西方沖合に設置されたのり養殖漁場に向け進行し,同漁場に乗り入れたことによって発生したものである。