(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月19日04時00分
宮城県金華山南西方沖合
(北緯38度16.28分 東経141度33.42分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八十一天王丸 |
総トン数 |
135トン |
全長 |
43.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
860キロワット |
3 事実の経過
第八十一天王丸(以下「天王丸」という。)は,大中型まき網漁業に網船として従事する鋼製漁船で,A受審人ほか23人が乗り組み,あじ,さば漁の目的で,船首2.20メートル船尾4.00メートルの喫水をもって,平成16年10月17日14時00分灯船1隻と運搬船2隻とで船団を組み,宮城県仙台塩釜港を発し,同日18時00分同県金華山南西方沖合の漁場に至り,夜間操業を繰り返したのち,翌々19日02時28分金華山灯台から119度(真方位,以下同じ。)13.7海里の地点を発進し,投錨仮泊予定の金華山瀬戸に向かった。
発進する際,A受審人は,針路を286度に定め,機関を全速力前進にかけて10.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,自動操舵により進行した。
ところで,A受審人は,過去に他の漁船に乗船していたとき,金華山瀬戸に錨泊した経験が数回あり,金華山の南西側に数カ所の定置網が設置されていることは知っていたが,定置網の詳細については把握していなかった。
03時33分少し前A受審人は,金華山灯台から156度4.2海里の地点に達したとき,金華山に接航する針路をとると定置網に侵入するおそれがあったが,金華山灯台の西南西方で,金華山の沖合0.5海里ばかりのところに,灯火を煌々(こうこう)と点灯して定置網の網起こしをしている漁船1隻を認めたので,同船を陸側に離して航行すれば大丈夫と思い,定置網を十分に離す安全な針路を選定することなく,針路を319度に転じて続航した。
こうして,天王丸は,A受審人が原針路,原速力を保って進行中,04時00分少し前右舷船首至近に定置網の浮子列(あばれつ)を認め,機関を中立運転としたが,効なく,04時00分金華山灯台から256度1.33海里の地点において,原針路,原速力のまま,定置網に乗り入れた。
当時,天候は曇で,風力1の西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
この結果,航行が不能となり,その後,スキフボートによって引き出されたものの,スキャニングソナー送受波部に損傷を生じ,定置網の碇綱及び浮子綱などを切断したが,のち,いずれも修理された。
(海難の原因)
本件定置網損傷は,夜間,宮城県金華山南東方沖合において,金華山瀬戸の錨地に向け定針する際,針路の選定が不適切で,定置網に向首進行し,同網に乗り入れたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,宮城県金華山南東方沖合において,金華山瀬戸の錨地に向けて定針する場合,金華山の南西方沖合には定置網が設置されているのを知っていたのであるから,同網に向首進行しないよう,定置網を十分に離す安全な針路の選定を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,金華山灯台の西南西方沖合で,灯火を煌々と点灯して定置網の網起こしをしている漁船を認め,同船を陸岸に離して航行すれば大丈夫と思い,定置網を十分に離す安全な針路を選定しなかった職務上の過失により,同網に向首する針路のまま進行して乗り入れを招き,自船はスキフボートによって引き出されたものの,スキャニングソナーの送受波部に損傷を,定置網の碇綱及び浮子綱などに切断をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。