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平成17年神審第28号
件名

貨物船デ ボ サン定置網損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成17年10月13日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,甲斐賢一郎,橋本 學)

理事官
黒田敏幸 

指定海難関係人
A 職名:デ ボ サン船長

損害
デ ボ サン・・・推進器に定置網ワイヤ等の絡み
定置網・・・破網及びワイヤ等の損傷

原因
水路調査不十分

主文

 本件定置網損傷は,水路調査が不十分であったことによって発生したものである。
 指定海難関係人Aに対して勧告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月15日22時10分
 能登半島東岸飯田湾
 (北緯37度23.3分 東経137度18.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船デ ボ サン
総トン数 2,143トン
全長 87.36メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,472キロワット
(2)設備及び性能等
 デ ボ サン(以下「デ号」という。)は,西暦1969年に北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)で建造された2機2軸の固定ピッチプロペラを有する船尾船橋型の鋼製貨物船で,舞鶴港,小樽港,新潟港,直江津港と同国羅津港間を車両及び古タイヤ等の運搬に従事していた。
 操舵室には,中央に操舵スタンドが設置され,左舷側にレーダー2基及び右舷側にエンジンテレグラフが配置され,操舵室右舷側後方に海図室が設けられ,そこには海図台とともに,船舶自動識別装置,コースレコーダー及びGPSプロッタが装備されていた。
 見張りの位置は,当時の喫水で,眼高が約8メートルとなり,操舵室前面から船首先端まで約44メートルで船首方の見通しは良かった。
 デ号の航海速力は,満載時,機関回転数毎分330で全速力前進10.0ノット,半速力前進8.0ノット,微速力前進5.0ノット,極微速力前進2.0ノットで,全速力前進時の最大旋回直径は左旋回,右旋回ともに555メートルで,また,全速力前進中,全速力後進発令から船体停止までに要する時間及び航走距離はそれぞれ2分50秒及び380メートルであった。
 船橋当直体制は,00時から04時まで及び12時から16時までを二等航海士,04時から08時まで及び16時から20時までを三等航海士,08時から12時まで及び20時から24時までを一等航海士がそれぞれ当たる4時間3直制で,各直に甲板員2人を配して3人当直体制とし,A指定海難関係人は,危険な海域及び出入航時などは昇橋して操船指揮に当たっていた。

3 飯田湾の定置網及び同避泊錨地
 海上保安庁刊行の本州北西岸水路誌には,本州北西岸の距岸2海里(所により5海里)以内に定置網があること,飯田湾は,長手埼とその南西方約7海里の赤埼との間にある東方に開いた湾で,北西方へ約3海里湾入し,長手埼付近から西南西方約5海里に至る間の所々に,南東方向に延びる長さ0.3から1海里の定置網があり,赤埼の北北東方約2海里から東方へ約1海里張り出す定置網が存在するので,航行には注意が必要であること,また,定置網の設置区域については,海上保安庁刊行の漁具定置箇所一覧図を参照することが記載されていた。

4 事実の経過
 デ号は,A指定海難関係人ほか北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)国籍の24人が乗り組み,車両40台,古タイヤ400トンを船倉及び暴露甲板上に積載し,船首3.2メートル船尾5.1メートルの喫水をもって,平成17年1月15日16時40分(日本標準時,以下同じ。)新潟県直江津港を発し,北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)羅津港に向かった。
 発航に先立ち,A指定海難関係人は,海上の時化模様から,日本海にある発達中の低気圧の影響で毎秒10メートルの南西風が吹き,波高も1.5メートルを超えていたことから,天候が更に悪くなると判断して天候の回復を待つために,これまで入湾したことのない能登半島東側の飯田湾で錨泊することを決めたとき,直江津港の代理店などを通して本州北西岸水路誌や漁具定置箇所一覧図を入手することができる状況にあったが,レーダーを作動して錨地に向かえば定置網の位置を把握できるものと思い,設置された定置網の位置を事前に確認するなどの水路調査を十分に行わなかった。
 17時30分頃A指定海難関係人は,VHFでニイガタホアンに飯田湾に錨泊する旨の連絡を取ったところ,北緯37度22分,東経137度18分の地点を推奨されたので,同地点付近を予定錨地と決め,当直航海士に船橋当直を任せて降橋した。
 20時00分船橋当直を引き継いだ一等航海士Bは,レーダー1基を12海里レンジとして作動しながら,周囲を監視するとともに,毎正時にGPSで位置を確認して西進し,21時00分能登赤埼灯台から096度(真方位,以下同じ。)11.6海里の地点に達したとき,針路を予定錨地に向けて280度に定め,機関を両舷全速力前進に掛け,10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 その後,B一等航海士は,船首方の予定錨地方向に錨泊船らしきレーダー映像を認めたので,休息中のA指定海難関係人にその旨を報告したのち,機関長,二等航海士及び甲板長に錨泊準備を行うよう伝えた。
 昇橋したA指定海難関係人は,21時40分能登赤埼灯台から092度5.2海里の地点に達したとき,前示錨泊船まで2.5海里となったので,二等航海士及び甲板長を船首配置に就け,B一等航海士及び甲板員を見張りに,操舵員を手動操舵に当てて操船の指揮を執り,機関を両舷半速力前進として8.0ノットまで減速し,同船との距離を離すため針路を300度に転じたことにより,飯田湾に設置された定置網に向かう態勢となって続航した。
 22時00分A指定海難関係人は,能登赤埼灯台から067度3.0海里の地点に達したとき,暗夜,雨で視界の悪い状況下,定置網の設置区域まで1海里となったが,事前に水路調査を十分に行っていなかったので,前路の定置網に気付かず進行した。
 22時10分少し前A指定海難関係人は,船首配置の二等航海士から前路に浮標らしきものが設置されている旨の報告を受け,慌てて機関を両舷後進に掛けたものの及ばず,22時10分能登赤埼灯台から043度2.5海里の地点において,ほぼ原針路,原速力で,定置網に乗り入れた。
 当時,天候は雨で風力5の南東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,視程は約1,500メートルであった。
 その結果,デ号の推進器に定置網のワイヤ等が絡み,定置網は,破網及びワイヤ等の損傷をそれぞれ生じたがのち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 デ号
(1)入湾したことのない飯田湾に避泊することを決めたこと
(2)能登半島及び付近の海図W120や飯田湾の海図W1170を備えていなかったこと
(3)直江津港の代理店を通して本州北西岸水路誌及び漁具定置箇所一覧図を入手していなかったこと
(4)飯田湾の定置網の位置を事前に確認するなど水路調査を行わなかったこと
(5)錨泊船との距離を離すため針路を300度としたこと

2 その他
(1)夜間,雨で視界が悪かったこと
(2)視界不良時には,設置された定置網の標識を認めにくい状況であったこと

(原因の考察)
 本件定置網損傷は,代理店を通して本州北西岸水路誌及び漁具定置箇所一覧図を入手して飯田湾の定置網の位置を事前に確認するなどの水路調査を十分に行っていれば,その定置網の存在を知ることができ,定置網設置区域に向首進行して定置網に乗り入れることはなかった。
 したがって,A指定海難関係人が,代理店を通して本州北西岸水路誌及び漁具定置箇所一覧図を入手して飯田湾の定置網の位置を事前に確認するなどの水路調査を十分に行っていなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人が,能登半島及び付近の海図W120や飯田湾の海図W1170などは備えていても,飯田湾の定置網設置区域の記載はなく,定置網の設置区域を認識できなかった。
 したがって,これらの海図を備えていなかったことは,本件発生の原因とはならないが,船舶が安全かつ能率的に航海するために必要不可欠なもので,航海の安全及び海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 A指定海難関係人が,入湾したことのない飯田湾に避泊することを決めたこと,錨泊船との距離を離すため針路を300度としたこと,夜間,雨で視界が悪かったこと,設置された定置網の標識を視界不良時に認めにくい状況であったことは,いずれも,事前に水路調査を十分に行っていれば,設置された定置網の位置は確認できたのであるから,定置網設置区域に向首進行したまま定置網に乗り入れることはなかったと考えられる。
 したがって,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,これらを原因としない。

(海難の原因)
 本件定置網損傷は,夜間,雨で視界が悪い状況下,能登半島東側の定置網が設置された飯田湾に荒天避泊する際,水路調査が不十分で定置網に向首進行したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,夜間,雨で視界が悪い状況下,能登半島東側の定置網が多数設置された飯田湾に荒天避泊する際,本州北西岸水路誌及び漁具定置箇所一覧図を入手して設置された定置網の位置を事前に確認するなどの水路調査を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,海難審判法第4条第3項の規定により勧告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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