(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年1月26日11時10分
千葉港千葉区
(北緯35度34.1分 東経140度07.5分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船ニューなんせい |
総トン数 |
499トン |
全長 |
74.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
(2)設備及び性能等
ニューなんせいは,平成15年11月に進水した限定近海区域を航行区域とする船尾船橋型の鋼製貨物船で,国内各港間の鋼材,飼料及び雑貨などの輸送に従事していた。
荷役設備として,船首部及び船橋楼前面に上甲板上の高さ約20メートルのデリックポストを配し,同甲板上の高さ約6メートルのところにグーズネックブラケットを設け,長さ22メートルのデリックブームをそれぞれ備えていた。
3 送電線の架設状況
千葉港千葉区第2区にあるB社の南方岸壁Qバース(以下「Qバース」という。)は,ほぼ東西方向に設けられた長さ約3,500メートル幅約400メートルの水路(以下「蘇我水路」という。)の奥に位置しており,幅約200メートルに狭められた同バース前面水域には最下垂部の高さが略最高高潮面上28メートルの送電線が架設され,B社とC社間の電力相互供給の用に供されていた。
4 事実の経過
ニューなんせいは,A受審人ほか4人が乗り組み,鋼板約1,500トンを積載し,船首3.6メートル船尾4.5メートルの喫水をもって,平成16年1月23日09時30分広島県福山港を発し,翌24日19時10分揚荷の目的でQバースに着岸した。
A受審人は荷役作業に先立って,同作業の支障になる船首部デリックブーム(以下「前部デリックブーム」という。)及び船橋楼前面デリックブーム(以下「後部デリックブーム」という。)を,左舷側に振り出して約70度の仰角で立てたため,前部デリックブームの先端部が船体最高部となった。
ところで,A受審人は,Qバースに着岸するのは初めてであったが,蘇我水路内に送電線などの障害物はないものと思い,送電線の存在を知らないまま千葉港に入港し,着岸が夜間であったため,その存在にも気付かなかった。
26日11時00分A受審人は,鋼板約1,500トンの揚荷を終了し,その後も前部及び後部の各デリックブームを立てたままとしていたため,前部デリックブームの先端部と送電線とが接触するおそれのある状況となっていたが,無難に入航していたことから,蘇我水路内に送電線などの障害物はないものと思い,Qバースからの出航に先立ち,千葉港の大縮尺海図W1086で送電線の存在や水面上の高さを確認するなり,同港の代理店に問い合わせるなりして,水路調査を十分に行わず,揚荷終了と同時に,空倉のまま,船首2.1メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,同バースを発し,同港千葉区第3区に向かったが,次の目的地が港内移動で約30分と近いことから,2本のデリックブームは立てた状態で進行した。
11時08分少し前A受審人は,千葉港千葉中央ふ頭にあるポートタワー(以下「千葉ポートタワー」という。)から145度(真方位,以下同じ。)2.33海里の地点で,針路を270度に定め,機関を極微速力前進にかけ,依然,前方至近に架設されている送電線の存在を知らないまま,手動操舵により続航中,11時10分千葉ポートタワーから146度2.32海里の地点において,1.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)になったとき,ニューなんせいの水面上の高さ約31.5メートルとなった前部デリックブーム先端部が,水面上の高さ約31メートルの送電線に接触した。
当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
接触の結果,ニューなんせいの前部デリックブーム先端部に放電による接触痕を,放電状態となった送電線に損傷をそれぞれ生じ,B社内の各工場の操業が一時停止するなどの事態に陥った。
(本件発生に至る事由)
1 水路内に送電線などの障害物はないものと思い,水路調査を十分に行わなかったこと
2 デリックブームを立てたままであったこと
3 揚荷をして空船状態となり,船首尾喫水が減少したこと
(原因の考察)
本件は,千葉港千葉区第2区を発航して同港千葉区第3区に向かって出航中,蘇我水路内にある送電線の存在を知らずに,デリックブームを立てたまま,同送電線下を通航したことによって発生したものである。
したがって,A受審人が,発航に先立って,千葉港の大縮尺海図にあたって送電線の存在と水面上高さを確認するなり,同港の代理店に問い合わせるなりしていれば,送電線の存在などを認識し,デリックブームを格納してから出航し,送電線に接触することはなかったものと認められるので,蘇我水路内に送電線などの障害物はないものと思い,水路調査を十分に行わなかったこと及びデリックブームを立てたままであったことは,本件発生の原因となる。
揚荷をして空船状態となり,船首尾喫水が減少したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,原因とならない。
(海難の原因)
本件送電線損傷は,千葉港千葉区第2区を発航するにあたり,水路調査が不十分で,同港千葉区第3区に向かって出航中,デリックブームを立てたまま,送電線下を通航したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,千葉港千葉区第2区にあるB社のQバースを発航する場合,同バースは初めてであったから,発航に先立って,千葉港の大縮尺海図で送電線の存在や水面上の高さを確認するなり,同港の代理店に問い合わせるなりして,水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,蘇我水路内に送電線などの障害物はないものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,デリックブームを立てたまま同港千葉区第3区に向かって出航中,前方至近に送電線が架設されていることを知らず,送電線下を通航して,同送電線との接触を招き,前部デリックブーム先端部に放電による接触痕及び放電状態となった送電線に損傷を,並びにB社内各工場の操業一時停止をそれぞれ生じさせた。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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