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平成17年長審第56号
件名

引船伸洋丸運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成17年10月27日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:伸洋丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
損傷ない

原因
空気圧縮機の保守運転不十分,主機緊急運転方法の確認不十分

裁決主文

 本件運航阻害は,空気圧縮機の保守運転が十分でなかったばかりか,主機の緊急運転方法の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月6日12時00分
 東シナ海

2 船舶の要目
船種船名 引船伸洋丸
総トン数 126.65トン
登録長 31.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 伸洋丸は,昭和54年に進水した鋼製引船で,平成16年6月末から12月末までの契約で,東シナ海において天然ガス調査船の警戒業務に従事しており,主機としてB社が製造した6MG28BX型と呼称する過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を装備し,推進軸系に油圧多板クラッチ式の主機逆転減速機(以下「逆転機」という。)を備え,操舵室に主機の遠隔操縦装置が設けられていた。
 主機遠隔操縦装置は,空気式で1本の操縦ハンドルによって主機の回転数制御及び逆転機の正逆転・中立の切替え操作が行えるようになっており,同操縦装置が故障したときには,機関室の主機警報盤で操縦位置を操舵室から機関室に切り替えたうえ,主機付操縦ハンドル,主機ガバナ付速度調整ねじ及び逆転機付手動操作ハンドルによって主機及び逆転機の手動操作ができるようになっていた。
 圧縮空気系統は,最高使用圧力30キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)容量150リットルの空気槽を2個備え,1個が充填のうえ非常用に封鎖され,他方に充填された圧縮空気が,主機及びディーゼル発電機の始動用のほか,減圧されて主機遠隔操縦装置などの制御用空気や掃除用雑用空気としてそれぞれ使用され,また,主機動力取出軸のエアクラッチに供給されて甲板機器用油圧ポンプを駆動するようになっていた。
 空気圧縮機は,いずれもC社製で,SKC-10型と称する電動機駆動立型二段圧縮式のもの(以下「主空気圧縮機」という。)と,SKH-2M.2Y型と称するディーゼル機関駆動横型一段圧縮式のもの(以下「非常用空気圧縮機」という。)とを備え,平素は専ら主空気圧縮機が使用され,空気槽の圧力が16キロまで低下すると始動し,26キロで停止するよう設定して自動運転されていた。
 A受審人は,平成14年10月に機関長として乗り組み,機関部員1人を指揮して機関の保守管理に当たり,空気圧縮機については,主空気圧縮機の潤滑油を半年ごとに取り替えるぐらいで,同圧縮機が問題なく自動発停を繰り返していたので必要あるまいと思い,定期的に非常用空気圧縮機の保守運転を行って運転状態を確認していなかったので,同圧縮機出口の逆止弁が発錆して固着気味となり,空気槽の充填ができなくなっていることに気付かなかった。
 また,A受審人は,主機遠隔操縦装置が故障したときなどに備え,主機及び逆転機を手動操作してみるなど,平素,主機の具体的な緊急運転方法を確認していなかったので,逆転機の手動操作ハンドルにはストッパーが掛けられ,これを取り外さなければ操作できない構造になっていることを知らなかった。
 主空気圧縮機は,平成12年8月定期検査時にピストンの抜出し整備が行われて運転が繰り返されていたところ,強度疲労によるものか,いつしか,ピストンピン押さえのスナップリングが折損してリング溝から外れ,ピストンがシリンダライナとの間にこれを噛み込み,同ライナに縦傷が発生して徐々に進行する状況となった。
 伸洋丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,燃料などの補給を済ませたうえ,警戒業務に従事する目的で,平成16年7月24日00時00分沖縄県那覇港を発し,同日18時00分同港の北西方約120海里の海域に至って業務を開始した。
 8月6日09時ごろ伸洋丸は,主機を半速力前進に掛けて警戒業務に従事中,主空気圧縮機シリンダライナの縦傷が進行して圧縮機能が著しく低下し,同圧縮機が連続運転となった。
 同日05時から機関室当直に就いていたA受審人は,当直交代前の機関室内巡視を行っていたところ,主空気圧縮機が連続運転となり,空気槽の圧力が約22キロから上昇しないことに気付き,10時30分同圧縮機を停止したうえ非常用空気圧縮機を始動して空気槽の充填を試みたが果たせず,主空気圧縮機を開放してシリンダライナの縦傷を発見し,船内での修理は不可能と判断して空気槽の充填を断念し,主機及び逆転機の手動操作が可能であれば,両空気槽を封鎖して那覇港まで自力航行できると考え,同操作を試みることにした。
 こうして,A受審人は,事情を船長に報告して逆転機のクラッチを切り,漂泊を開始して主機操縦位置を操舵室から機関室に切り替え,主機を停止回転としたうえ,逆転機のクラッチを嵌入しようとしたが,手動操作ハンドルの周辺にペイントが厚く塗布されていたこともあって,ストッパーが掛けられていることに気付かず,12時00分北緯28度22分東経125度13分の地点において,逆転機のクラッチを手動で嵌入することができないまま,自力航行を断念して船長に報告した。
 当時,天候は晴で風力2の東風が吹き,海上はやや波があった。
 その結果,伸洋丸は,両空気槽を封鎖して停止回転のまま主機の運転を続けながら救助を要請したタグボートを待ち,そのままの状態で同日20時30分曳航が開始され,翌7日21時10分那覇港に入港し,空気槽を開放して自力で着岸した。

(原因)
 本件運航阻害は,非常用空気圧縮機の保守運転が不十分で,出口弁が固着気味となっていることに気付かず,主空気圧縮機が損傷したとき,空気槽の充填が不能となり,主機及び逆転機の遠隔操作を続けることができなくなったばかりか,主機緊急運転方法の平素の確認が不十分で,逆転機のクラッチを手動で嵌入できなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,機関の運転管理に当たる場合,圧縮空気の補填ができなくなると主機等が運転不能になるおそれがあったから,主空気圧縮機が損傷したときに備え,定期的に非常用空気圧縮機の保守運転を行うべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,主空気圧縮機が問題なく自動発停を繰り返していたので必要あるまいと思い,定期的に非常用空気圧縮機の保守運転を行わなかった職務上の過失により,非常用空気圧縮機出口の逆止弁が固着気味となって空気槽の充填ができなくなっていることに気付かず,主空気圧縮機が損傷したとき,空気槽の充填が不能となり,圧縮空気が不足して主機の遠隔操作を続けることができなくなる事態を招き,正常運航を不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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