(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月25日10時27分
神奈川県佐島漁港西方沖合
(北緯35度13.3分 東経139度35.9分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートピチョピチョ丸 |
登録長 |
5.22メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
44キロワット |
3 事実の経過
ピチョピチョ丸(以下「ピ号」という。)は,船体中央部に操縦席を設け,船外機を装備したFRP製プレジャーモーターボートで,船舶修理業者の交通船として使用されており,平成9年12月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,回航要員1人を乗せ,同人を搬送する目的で,船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,同16年8月25日09時30分神奈川県佐島漁港を発し,同漁港北西方約6海里の森戸海岸に向かい,同海岸の入江で回航要員を修理船舶に移乗させたのち,10時03分同海岸を発進して帰途についた。
ところで,A受審人は,佐島漁港西方沖合において,7月から9月までの間,アワビやサザエを対象漁獲物として裸もぐり漁と称する潜水漁業が行われており,森戸海岸へ向かう往路を北上中,国際信号旗のA旗を掲げて同漁業に従事している漁船群や,直下に漁獲物を入れる網を取り付けた赤色のブイを認めていた。
発進後,A受審人は,機関を全速力前進にかけ,30.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵によって三浦半島西岸に沿って南下し,10時19分佐島港口中根灯標(以下「中根灯標」という。)から296度2,300メートルの地点に達したとき,前路の1,300メートル付近に潜水漁業に従事している漁船群を認め,機関を微速力前進として5.0ノットに減速したが,佐島漁港から車で修理船舶の回航地へ向かうため帰航を急いでいたので,針路を同漁港への最短距離となる116度に定めて進行し,沖合を迂回するなど,潜水漁業が行われている海域を十分に避けなかった。
A受審人は,漁船群や潜水者の間を同じ針路,速力で続航中,10時27分中根灯標から296度1,050メートルの地点において,ピ号の船首が,浮上してきた潜水者Bに接触した。
当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
また,B潜水者は,09時00分自船の船縁(ふなべり)から高さ1.5メートルとなるように国際信号旗のA旗を掲げ,本件発生地点付近に投錨したのち,黒色のウエットスーツ,紫色の足ひれ及び赤色の軍手を着用し,直径24センチメートル(以下「センチ」という。)長さ29センチの円筒形プラスチック製ブイに赤色テープを巻き付け,漁獲物を入れる網を取り付けて海面上に横方向に浮かせ,1人で潜水漁業を開始した。
B潜水者は,捕獲した貝類を前示網に入れる作業を繰り返し,10時27分少し前自船の北東方約50メートルのところで,漁獲物によって半没したブイの南側約7メートルのところに浮上したとき,前示のとおりピ号に接触した。
その結果,B潜水者が,ピ号の推進器翼により,左大腿部,右膝及び両前腕に挫創等を負った。
(海難の原因)
本件潜水者負傷は,神奈川県佐島漁港西方沖合において,同漁港に向けて帰航中,前路に潜水漁業に従事している漁船群を認めた際,同漁業が行われている海域を十分に避けず,浮上してきた潜水者に接触したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,神奈川県佐島漁港西方沖合において,同漁港に向けて帰航中,前路に潜水漁業に従事している漁船群を認めた場合,水面下から浮上してくる潜水者の至近を航過することにならないよう,沖合を迂回するなど,同漁業が行われている海域を十分に避けるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,帰航を急いで同漁港への最短針路に定め,同漁業が行われている海域を十分に避けなかった職務上の過失により,浮上してきた潜水者に接触し,左大腿部,右膝及び両前腕に挫創等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。