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平成17年那審第19号
件名

作業船新竜丸同乗者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年11月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平,平野研一,坂爪 靖)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:新竜丸船長 海技免許:二級海技士(航海)

損害
同乗者が腰椎ヘルニア,腰部及び右膝に捻挫症

原因
乗降用ワーフラダーの保守点検不十分

主文

 本件同乗者負傷は,乗降用ワーフラダーの保守点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月5日14時15分
 沖縄県那覇港(新港ふ頭3号岸壁)
 (北緯26度14.3分 東経127度40.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 作業船新竜丸
総トン数 698トン
全長 60.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット
(2)設備及び性能等
 新竜丸は,平成12年11月に竣工し,2機2軸の可変ピッチロペラを備えた,最大搭載人員50人の一層甲板型鋼製作業船で,主として,海洋土木工事及び海難救助作業等に従事し,稀に,洋上で作業を行う船舶の乗組員交代時の移送用として使用されることがあり,上甲板前部に,3層の乗船者居住区及び同最上部に操舵室を配し,各甲板は,上甲板から上方に向けて順に,A甲板,船首楼甲板及び船橋甲板とされ,船首楼甲板後部の暴露部に,乗降用ワーフラダー(以下「ワーフラダー」という。)を備えていた。
(3)ワーフラダー
 ワーフラダーは,B社製造の,センターフレーム(以下「踏み板」という。)とその両側のサイドフレーム(以下「側板」という。)により構成され,幅50センチメートル(以下「センチ」という。)高さ8.5センチ長さ7.0メートルのアルミニウム合金(以下「アルミ」という。)製で,一端に,舷側にかけるためのアイプレートを(以下「プレート端」という。),他端に,岸壁上を移動させることができるようにローラーを装備し(以下「ローラー端」という。),側板には,左右各々5個のアルミ製ソケットを設け,同じくアルミ製のスタンションを差し込むようになっており,スタンション取り付け時の総重量は,66.3キログラム(以下「キロ」という。)であった。
 また,ワーフラダーには,安全率として2が適用され,制限荷重は150キロ(1,470ニュートン)で,船員災害防止協会の認定を受け,同制限荷重を表示した縦7センチ横12センチの銘板を側板に取り付けてこれを表示し,耐荷重は290キロであった。
 B社が,同ワーフラダー製造時に計算した強度計算書写によると,実際の強度は,適用安全率2に対して十分な余裕を持った3.53倍となる529キロであった。
 そして,同ワーフラダーは,新竜丸の竣工時から使用されていたところ,平成15年ごろ,プレート端から2.1メートルのところに設けられた2番目のソケットを損傷したので修繕が実施され,その際,材質がアルミ製から鉄製に変えられていた(以下「鉄製ソケット」という。)。

3 事実の経過
 新竜丸は,A受審人ほか7人が乗り組み,沖縄県沖縄島北西方200海里ばかりの東シナ海洋上において,海底地質調査に従事中の調査船C号(ノルウェー王国国籍,総トン数10,297トン)の交代要員35人を同乗させ,洋上で交代させる目的で,船首3.22メートル船尾4.70メートルの喫水をもって,平成16年9月30日12時30分鹿児島県鹿児島港を発し,翌月2日17時30分沖縄県那覇港に至り,那覇新港船だまり防波堤灯台から真方位007度780メートルとなる同港新港ふ頭3号岸壁に左舷付けで係留し,船首楼甲板後部から岸壁上にワーフラダーをかけてC号交代要員の到着を待った。
 A受審人は,鹿児島港発航に先立ち,9月30日同港において船用品等の積み込み作業を行い,ワーフラダーの制限荷重が150キロのところ,同荷重を超えて3ないし4人を同時にワーフラダーに乗せて手渡しで作業を行わせ,同日以前にも,複数の人間が同時にワーフラダー上を移動することがあった。
 ところで,D社は,平成13年12月に国際安全管理規則に基づく適合書類を取得して自社船の船舶管理を始め,同12年12月に自社から新竜丸をE社に裸用船に出し,同社が船員の配乗を行ったのち,定期用船を開始していた同船の船舶管理を自社で行うこととして,同16年6月に同船の船舶安全管理証書を取得し,安全管理マニュアル及び同マニュアルに定める各種手順書を同船に備え,保守点検に関しては,船舶保守業務の手順書により,各設備の点検を含む保守管理基準及び担当者等を定めて実施していた。
 A受審人は,新竜丸乗船後,一等航海士及びワーフラダーの管理責任者である船長としてワーフラダーの使用・管理を行っていたので,鉄製ソケットが著しく発錆しているのを認めており,同ソケット付近で電食作用が進行して側板が衰耗し,局部的な強度不足を生じて折損に至るおそれがあることを認め得る状況であったが,それまで,ワーフラダーの折損事故を経験したことも,そのような事例を聞いたこともないことから,ワーフラダーが折損することはないものと思い,保守点検を十分に行わなかったので,このことに気付かないままワーフラダーの使用を続けていた。
 越えて同月5日14時10分A受審人は,前示岸壁上にC号交代要員が到着したので,それまで同様,舷側での岸壁上高さが1.8メートル,勾配が15度となったワーフラダーの点検を行うことなく乗船を開始させ,最初の同乗者がワーフラダーを渡り終えたのち,体重90キロの2人目の同乗者が,10キロの手荷物を持ってワーフラダーを渡り始め,鉄製ソケット付近に達したとき,14時15分前示係留地点において,同ソケット付近でワーフラダーが折損し,同同乗者が,約1.2メートルの高さから,ワーフラダーとともに岸壁上に落下した。
 当時,天候は曇で風力5の北風が吹いていたが,港内は静穏で船体の動揺はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期であった。
 その結果,転落した同乗者は,腰椎ヘルニア並びに腰部及び右膝に捻挫症を負った。
 A受審人は,新竜丸甲板上で,前示同乗者がワーフラダーとともに岸壁上に落下するのを視認し,同人をただちに付近の病院に搬送するなどの事後処理に当たった。
 D社は,A受審人から本件の報告を受けたのち,安全管理マニュアルに定める手順により,ワーフラダーを新替えするとともに,縦30センチ横50センチで制限荷重について記載した注意銘板を作成する一方,全管理船舶に対して,制限荷重についての注意喚起を図り,乗船者に対する注意事項中に,制限荷重等に関する項目を明文化するなどの是正措置をとった。

(本件発生に至る事由)
1 制限荷重を超えてワーフラダーを使用していたこと
2 ワーフラダーが暴露部に保管されていたこ
3 鉄製ソケットが使用されていたこと
4 鉄製ソケットが使用されていることについての記録及び引継ぎが行われていなかったと
5 ワーフラダーが折損することはないものと思い,保守点検を十分に行わずに使用していたこと
6 ワーフラダー側板に,電食作用が進行していたこと

(原因の考察)
 本件同乗者負傷は,アルミ製ワーフラダーのスタンション用ソケットとして,鉄製のソケットが取り付けられたまま長期間使用されるうちに,同ソケット付近で,電食作用が進行して側板が衰耗し,局部的な強度不足を生じてワーフラダーが折損したことによって発生したもので,保守点検が十分に行われていれば,鉄製ソケット付近の衰耗を認めることができ,修理あるいは補強などの措置をとることによって,本件発生は防ぐことができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,ワーフラダーが折損することはないものと思い,保守点検を十分に行わずに使用していたことは,電食作用の進行を招き,側板が衰耗して局部的な強度不足を生じさせることとなったものであり,本件発生の原因となる。
 制限荷重を超えてワーフラダーを使用していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,安全率として2を採用し,実際の強度が制限荷重の3.53倍となる529キロであることからして,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。また,鉄製ソケットが使用されていることについての記録及び引継ぎが行われていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,A受審人が,ワーフラダー設置時に,鉄製ソケットの発錆を確認していたと認められ,同ソケット付近で電食作用が進行するのを予見することを妨げるものではないから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,いずれも,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 ワーフラダーが暴露部に保管されていたことは,その経年劣化を助長するものであるが,前示のように安全率を考慮して製造されており,いくらかの経年劣化がワーフラダー全体に進行していたとしても,本件折損箇所のみに局部的な衰耗を生じさせるとは認められないから,原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件同乗者負傷は,アルミ製乗降用ワーフラダーを使用・管理するにあたり,保守点検が不十分で,ワーフラダー側板に,鉄製のスタンション用ソケットが取り付けられたまま長期間使用を続けるうちに,同ソケット付近で,電食作用が進行して側板が衰耗し,局部的な強度不足を生じ,同乗者がワーフラダーを渡っている途中で折損したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,アルミ製乗降用ワーフラダーを使用・管理するにあたり,ワーフラダー側板に取り付けた鉄製ソケットが著しく発錆していたから,同ソケット付近で,電食作用が進行して側板が衰耗し,局部的な強度不足を生じてワーフラダーが折損することのないよう,保守点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,それまで,ワーフラダーの折損事故を経験したことも,そのような事例を聞いたこともなかったことから,ワーフラダーが折損することはないものと思い,保守点検を十分に行わなかった職務上の過失により,側板の衰耗に気付かないまま長期間使用を続けるうちに,局部的な強度不足を生じてワーフラダーを折損させ,折から,同ワーフラダーを渡っていた同乗者を,ワーフラダーとともに岸壁上に落下させ,腰椎ヘルニア並びに腰部及び右膝に捻挫症を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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