(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月8日12時30分
広島県厳島南東方沖合
(北緯34度13.3分 東経132度20.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートギャラン |
全長 |
7.36メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
103キロワット |
3 事実の経過
ギャランは,限定沿海区域を航行区域とし,船体中央部に操縦区画を有する,最大搭載人員12人のFRP製モーターボートで,A受審人(平成10年12月二級小型船舶操縦士免許(5トン限定)取得)が船長として乗り組み,友人1人とその知人5人を乗せ,広島県厳島南東沖合でマリンレジャーなどを行う目的で,平成16年8月8日11時30分広島市草津漁港を発した。
ところで,A受審人たちが行うマリンレジャーとは,スプリッターと称する,取っ手が付いた幅95センチメートル長さ140センチメートル厚さ30センチメートルのくさび状の浮体の上に,1ないし2人の搭乗者が腹這いの姿勢で上半身を乗せ,取っ手を掴んで身体を保持し,そのスプリッターに結んだ直径12ミリメートル長さ15メートルの合成繊維製のロープを,モーターボート船尾のクリートに係止して曳航し,高速力で旋回や8の字回転を繰り返しながら遊走し,曳航するモーターボートの航走波を乗り越えてスリルを楽しむものであった。平素,A受審人は,跳躍したスプリッターから搭乗者が落水した際に,直ちに発見し減速や転舵などして同搭乗者を避けることができるよう,モーターボート上の同乗者にスプリッターの見張りを依頼したり,自らもときどき後方のスプリッターを見たりして,その監視を行っていた。
A受審人は,12時00分ごろ厳島南東方沖合1海里ばかりの地点に至り,周囲に他船がいなかったのでマリンレジャーを行うこととし,2台のスプリッターのロープを船尾左右各舷のクリートに1本ずつ係止して,2人の同乗者をそれぞれに搭乗させて遊走を開始し,12時24分安芸俎灯標から222度(真方位,以下同じ。)1.9海里の地点で,右舷側のスプリッターの右側に友人のBを,左舷側のスプリッターに同乗者1人を更に搭乗させて,各スプリッターに2人ずつ搭乗した状態で遊走を再開した。
こうして,A受審人は,操縦席に前方を向いて腰を掛け,機関を回転数毎分4,000にかけて時速30キロメートルの対水速力とし,2台のスプリッターを曳航して旋回や8の字回転を行いながら遊走を続けたが,ギャラン上の同乗者と初対面であったことから遠慮して,スプリッターの見張りを依頼せず,また自らも操船や前方を見ることに気をとられて後方の見張りを怠り,その監視を十分に行わなかった。
12時30分わずか前A受審人は,速力を維持しながら直径30メートルの円弧を描くような態勢で左旋回中,Bが取っ手を掴んでいた腕の疲れのため身体を保持できなくなって落水したが,このことに気付かず,同搭乗者に向かう態勢のまま左旋回を続け,12時30分安芸俎灯標から215度2.2海里の地点で,ギャランの船底がBに原速力のまま衝突した。
当時,天候は晴で風力3の南南西風が吹き,海上は平穏であった。
その結果,Bが,6箇月間の入院,通院及び自宅安静加療を要する左腓腹部挫滅創,両足背挫滅創,左第2中足骨骨折及び左第1足趾基節骨骨折等を負った。
(海難の原因)
本件被引スプリッター搭乗者負傷は,広島県厳島南東方沖合において,ギャランを操縦してスプリッターを高速力で曳航しながら遊走する際,スプリッターの監視が不十分で,搭乗者が落水したことに気付かず,同搭乗者に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,広島県厳島南東方沖合において,ギャランを操縦してスプリッターを高速力で曳航しながら遊走する場合,スプリッターから搭乗者が落水することがあることを知っていたから,直ちに落水を認めて減速や転舵などして同搭乗者を避けることができるよう,同乗者にスプリッターの見張りを依頼したり,自らも後方の見張りを行ったりするなどして,スプリッターの監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,A受審人は,同乗者と初対面であったことから遠慮して見張りを依頼せず,また自らも操船や前方を見ることに気をとられて後方の見張りを怠り,スプリッターの監視を十分に行わなかった職務上の過失により,スプリッターの搭乗者が落水したことに気付かず,同搭乗者を避けないで進行して,ギャランがBに衝突する事態を招き,同搭乗者に6箇月間の入院,通院及び自宅安静加療を要する左腓腹部挫滅創,両足背挫滅創,左第2中足骨骨折及び左第1足趾基節骨骨折等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。