(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月28日18時35分
福井県長橋漁港北方沖合
(北緯36度07.7分 東経136度02.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船晴優丸 |
総トン数 |
4.8トン |
全長 |
12.45メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
357キロワット |
3 事実の経過
晴優丸は,平成15年6月に進水し,船体ほぼ中央部に操舵室が設置されたFRP製遊漁船で,平成14年8月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,釣客4人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成16年9月 28日18時25分福井県長橋漁港を発し,同港北方3.4海里ばかりにあるオオクリの瀬と称する釣場に向かった。
A受審人は,釣客2人を前部甲板船首寄りの甲板上に船尾方を向いた姿勢で座らせ,他の2人を操舵室後部甲板のいすに腰掛けさせ,自らは操舵室内で立ったまま手動で操舵に当たり,長橋漁港の北西側にある小島の西側を迂回したのち,同漁港北西方に設置されている定置網と陸岸との間を,GPSプロッターに入力されている同定置網の陸岸側を示す浮標を見ながら北上した。
18時32分半A受審人は,鷹巣港灯台から222度(真方位,以下同じ。)1,450メートルの地点に達したとき,針路を釣場にほぼ向首する347度に定めて機関を半速力前進とし,前方を航行する僚船の灯火を見ながら9.0ノットの対地速力で進行した。
間もなくA受審人は,右舷前方の亀島の西側に出たころ,陸岸に接近し水深の関係で急峻となったうねりを右舷前方から受け始め,船体のピッチングが大きくなったが,ここ数日間好天が続き,当日昼ごろ多少北北西風が強く吹いたものの,すでに無風状態となっており,これ以上激しく船体が動揺することはあるまいと思い,速やかに減速して前部甲板船首寄りの甲板上に座っている2人の釣客を船尾甲板に移動させるなど,釣客に対する安全配慮を十分に行わなかった。
こうして,晴優丸は,原針路,原速力で続航中,18時35分鷹巣港灯台から252度1,230メートルの地点に達したとき,急峻なうねりに船首が突っ込み,船首が大きく上下動して船首部の2人の釣客が跳ね上げられ,次いで甲板に激突した。
当時,天候は晴で風はなく,付近に北からの高さ約1.5メートルのうねりが存在した。
A受審人は,前部甲板の釣客から合図を受けて機関を中立とし,前部甲板に赴いて事態を知り,救急車の手配をして長橋漁港に戻った。
その結果,2人の釣客がそれぞれ腰椎圧迫骨折及び腰椎部挫傷を負った。
(原因)
本件釣客負傷は,夜間,福井県長橋漁港北方沖合の釣場に向けて航行中,高まったうねりにより船体動揺が激しくなった際,前部甲板で座っていた釣客に対する安全配慮が不十分で,船首部がピッチングにより大きく上下動したとき,跳ね上げられた釣客が甲板に激突したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,福井県長橋漁港北方沖合の釣場に向けて航行中,前方からのうねりにより船体のピッチングが大きくなった場合,速やかに減速して前部甲板船首寄りの甲板上に座っている釣客を船尾甲板に移動させるなど,釣客に対する安全配慮を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,当時の気象状況からこれ以上動揺が激しくならないものと思い,減速して船首部の釣客を船尾甲板に移動させるなど,釣客に対する安全配慮を十分に行わなかった職務上の過失により,船首部が大きく上下動したとき,跳ね上げられた2人の釣客が甲板に激突し,それぞれに腰椎圧迫骨折及び腰椎部挫傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。