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平成17年長審第76号
件名

漁船第八哲丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年12月16日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:第八哲丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機クランクピン軸受及び過給機ロータ軸の焼損,カム軸の偏摩耗

原因
主機潤滑油こし器のパッキンの点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は,主機潤滑油こし器の開放掃除を行った際,パッキンの点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月25日03時15分
 長崎県三重式見港西方沖
 (北緯32度44.7分 東経129度33.8分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八哲丸
総トン数 19トン
全長 24.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 558キロワット
回転数 毎分1,400

3 事実の経過
 第八哲丸(以下「哲丸」という。)は,平成6年5月に進水したFRP製漁船で,長崎県三重式見港を基地とし,九州西岸沖合の漁場で船団の運搬船として大中型まき網漁業に従事しており,操舵室に主機の遠隔操縦装置が備えられていた。
 主機は,B社製の6N160−EN型機関で,各シリンダに船尾側を1番とする順番号が付され,燃料油としてA重油を使用していた。
 主機の潤滑油系統は,容量約200リットルのクランク室底部潤滑油だまりから直結ポンプで吸引された同油が,5ないし6キログラム毎平方センチメートルまで加圧され,同油こし器及び冷却器を経て入口主管に至り,各シリンダ毎に分岐して主軸受,クランクピン軸受及びピストンピン軸受を順に潤滑するとともに,ピストン冷却ノズルから噴射されてピストンを冷却するほか,同冷却器出口で分岐した同油の一部が過給機の軸受に送られ,いずれも潤滑油だまりに戻って循環していた。
 潤滑油こし器は,2連の金網式で,主機クランク室前部右舷側に設置され,両側2箇所に同油の入口及び出口が同心円状に設けられた基盤に,それぞれ下方からこし器エレメント,同エレメント押さえ用スプリング,円筒形ケースの順に取り付け,中心を通る締付けボルトを各ケースの底部から基盤にねじ込んで組み立てられており,基盤と同エレメント頂部の間にパッキン(以下「こし器パッキン」という。)を挿入して潤滑油入口と出口間の油密を保持するようになっていた。
 こし器パッキンは,厚さ1.5ミリメートル(mm)外径及び内径がそれぞれ76mm及び60mmのニトリルゴム製で,パッキン溝は設けられず,こし器エレメントの頂部に接着剤で接着するようになっていたので,確実に接着されていないと,組立て時に中心位置がずれたり,ねじれたりして運転中に切断するおそれがあったから,同エレメント掃除などで潤滑油こし器を開放して復旧する際には,こし器パッキンを点検して劣化によるひび割れの有無などとともに,正規の位置に確実に接着されているか確認する必要があった。
 A受審人(平成6年2月一級小型船舶操縦士免許取得,同15年11月一級小型船舶操縦士と特殊小型船舶操縦士免許に更新)は,哲丸に進水時から船長として甲板員2人と乗り組み,主機の運転管理にも当たっていたが,日常の始動前点検,各こし器の掃除などは,甲板員の1人を機関係に指名して同人に行わせており,潤滑油については,4箇月を目途に新替えし,こし器エレメントを約2箇月に1度掃除していた。
 A受審人は,平成15年8月下旬三重式見港に停泊中,主機潤滑油こし器の両エレメントを掃除することとしたが,いつも行っている作業なので甲板員に任せておいて大丈夫と思い,掃除後同こし器を組み立てる前に,こし器パッキンを十分に点検するよう指示することも,自ら点検することもなく,機関係甲板員に全て任せて同掃除を行わせたところ,同こし器を組み立てる際,片方の同パッキンの位置がずれたまま復旧され,運転中に入口側と出口側の差圧で切断するおそれがある状態になっていることに気付かなかった。
 その後,哲丸は,操業を繰り返すうち,こし器パッキンが切断し,破断片が主機潤滑油入口主管を経て3番主軸受から2番シリンダのクランクピン軸受に至る潤滑油経路のほか過給機潤滑油経路等に進入し,同経路が狭められて各軸受の潤滑が阻害され始めた。
 こうして,哲丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同年9月24日14時00分三重式見港を発し,同港西方沖合の漁場に至って操業を開始し,主機を全速力前進と定めた回転数毎分1,350にかけて魚群探査中,翌25日03時15分伊王島灯台から真方位280度10.3海里の地点において,潤滑油経路がこし器パッキンの破断片で閉塞し,2番シリンダのクランクピン軸受が焼き付いて主機が異音を発した。
 当時,天候は晴で風はなく,海上は穏やかであった。
 A受審人は,操舵室で操船中,機関室からの異状な金属音を聞き,運転を続行するのは危険と判断して主機を停止したうえ,僚船に救援を依頼した。
 哲丸は,僚船に曳航されて,三重式見港に引き付けられ,修理業者の手により,主機を陸揚げして精査したところ,前示クランクピン軸受及び過給機ロータ軸の焼損,カム軸の偏摩耗などのほか,潤滑油入口主管にこし器パッキンの破断片が入り込んでいることが判明し,のち,主機は損傷部品を全て取り替えて修理された。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機潤滑油こし器の開放掃除を行った際,組立て前のこし器パッキンの点検が不十分で,同パッキンの位置がずれたまま復旧されたことから,その後の運転中,同パッキンが切断して破断片が潤滑油経路に進入し,クランクピン軸受等の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機の運転管理に当たり,甲板員に指示して主機潤滑油こし器の開放掃除を行わせる場合,こし器パッキンが劣化したり,位置がずれたりしたまま復旧すると,運転中に同パッキンが切断して破断片が潤滑油経路に進入するおそれがあったから,同経路が閉塞して軸受等の潤滑が阻害されることのないよう,組み立てる前に同パッキンを十分点検するよう指示すべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,いつも行っている作業なので甲板員に任せておいて大丈夫と思い,組み立てる前に同パッキンを十分に点検するよう指示しなかった職務上の過失により,同こし器を掃除のうえ組み立てる際,同パッキンの位置がずれたまま復旧され,その後の運転中,同パッキンが切断して破断片が潤滑油経路に進入し,軸受等の潤滑が阻害される事態を招き,漁場において魚群探査中,2番シリンダのクランクピン軸受及び過給機ロータ軸の焼損,カム軸の偏摩耗等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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