(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月13日12時27分
沖縄県伊平屋島前泊港
(北緯27度02.2分 東経127度58.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
旅客船フェリーいへや |
総トン数 |
498トン |
全長 |
68.50メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
2,942キロワット |
回転数 |
毎分680 |
(2)設備及び性能等
ア フェリーいへや
フェリーいへや(以下「いへや」という。)は,平成7年11月に竣工し,旅客定員300人及び車両積載能力小型車33台の鋼製旅客船兼自動車渡船で,沖縄県伊平屋島前泊港と同県運天港間の定期航路に就航していた。
船体は,3層の甲板から構成され,上層の船橋甲板に操舵室や客室,中層の遊歩甲板に客室,下層の上甲板に車両積載区画,同甲板下方の船首側に各出力160キロワットの電動機2個によって駆動されるバウスラスタ装置を備えたバウスラスタ室,中央部に機関室及び船尾側に軸室等がそれぞれ配置されていた。また,2機2軸を有し,操舵室から主機の遠隔操縦が行われるようになっていた。
イ 機関室
機関室は,船首側の中央部に機関制御室が設けられ,同室の左右両舷側に定格出力353キロワット回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関の発電機原動機(以下「補機」という。),補機によって駆動される電圧445ボルト容量400キロボルトアンペアの三相交流発電機(以下「発電機」という。),及び船尾側の左右両舷側に主機がそれぞれ据え付けられていた。主機及び補機はB社が製造した6DKM-28型及び6DL-16型と呼称されるもので,補機と発電機には右舷側及び左舷側の各機にそれぞれ1号及び2号が付されていた。補機は,弾性継手を介して発電機と連結され,連結部が取り外しできる軸方向寸法25センチメートル箱形鋼板製のカバー(以下「連結部カバー」という。)で覆われており,その外側から同継手が見えない構造になっていた。
ウ 補機の弾性継手
弾性継手は,外径506ミリメートル(mm)鋼製の入力側フランジと外径440mm鋼製の出力側フランジ間にサンドイッチゴムと呼ばれる最大厚さ36mm天然ゴム製のゴムエレメントが組み込まれ,入力側フランジと補機のフライホイールが,及び出力側フランジと発電機軸がそれぞれボルトで連結されていた。また,補機仕様書には補機メーカー手配のゴムエレメントによる弾性継手であること,同継手の点検及び交換基準に関する説明書にはゴムエレメントが温度等の影響により材料が疲労するもので,半年ごとにその表面の亀裂の有無,ゴム硬度及び円周方向の永久ひずみを点検し,幅30mm深さ5mm以上の亀裂があるものは取り替えることなどがそれぞれ記載されていた。
3 事実の経過
いへやは,毎年9月ごろ入渠して船体塗装ほか,主機や補機等の整備が行われており,入渠の都度,機関部継続検査計画表に基づいて各機を受検していた。また,機関の運転保守について,機関長が主機,一等機関士が補機及び二等機関士が発電機等をそれぞれ担当し,入渠時の点検整備事項は,あらかじめ機関長が各機関士と打ち合せて業者に依頼していた。
ところで,1号発電機及び2号発電機は,平素,船内の動力や照明等の電源用として1日ごと交互に単独運転され,出入港時には並列運転されてバウスラスタに電力を供給しており,年間1,800時間ばかり運転されていた。そして,1号補機及び2号補機は,いずれも竣工当初のゴムエレメントが使用されているうち,その材料が次第に疲労するようになった。
しかし,A受審人は,船内作業で1号補機及び2号補機とも連結部カバーを取り外したことがないまま,平成16年9月入渠時に両補機の開放整備を行う際,いつしか弾性継手はゴムエレメント表面に材料の疲労による亀裂が生じて進展する状況になっていたが,問題ないものと思い込み,同カバーの取り外しを業者に依頼するなどの同継手の点検を行わなかったので,ゴムエレメントの亀裂に気付かず,同月中旬出渠後運転を続けた。
こうして,いへやは,A受審人ほか9人が乗り組み,同年11月13日2号発電機を運転して船内電源用としたまま,初便で09時00分前泊港を発し,運天港に至って次便に就き,旅客169人を乗せ,車両16台等を積載し,船首3.1メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,11時00分運天港を発して前泊港に向かい,主機を回転数毎分670にかけ,12時15分同港港外に達して1号発電機を並列運転とし,入港中にバウスラスタを使用した直後,12時27分前泊港我喜屋地区防波堤灯台から真方位000度480メートルの地点において,2号補機の弾性継手のゴムエレメントが亀裂の著しい進展により破断した。
当時,天候は晴で風力3の北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
A受審人は,遊歩甲板で船尾係留作業中に船内照明がやや暗くなったことに気付いて船内電源の異状を察知し,機関室に急行したところ,1号発電機が単独運転状態となっているのを認め,前示ゴムエレメントの破断によるゴムの焼けた異臭が漂っていたことから2号補機を停止したのち,その旨を船長に報告した。
その後,いへやは,バウスラスタを使用しないで前泊港フェリー発着所岸壁に着岸し,弾性継手等の点検を行った結果,2号補機のゴムエレメント破断ほか,1号補機のゴムエレメントも亀裂による破断のおそれのあることが判明し,のち業者によって両補機のゴムエレメントが取り替えられた。
(本件発生に至る事由)
1 補機の連結部カバーの外側から弾性継手が見えない構造になっていたこと
2 船内作業で補機の連結部カバーを取り外したことがなかったこと
3 弾性継手のゴムエレメントの材料が疲労するものであったこと
4 入渠時に補機の開放整備を行う際,問題ないものと思い込み,連結部カバーの取り外しを業者に依頼するなどの弾性継手の点検を十分に行わなかったこと
(原因の考察)
本件は,補機の連結部カバーの外側から弾性継手が見えない構造になっており,また同継手のゴムエレメントの材料が疲労するものであったから,入渠時に同継手の点検を十分に行っていたなら,ゴムエレメントの破断が避けられたものと認められる。
したがって,A受審人が,入渠時に補機の開放整備を行う際,問題ないものと思い込み,連結部カバーの取り外しを業者に依頼するなどの弾性継手の点検を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
補機の連結部カバーの外側から弾性継手が見えない構造になっていたこと,船内作業で同カバーを取り外したことがなかったこと及び同継手のゴムエレメントの材料が疲労するものであったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件機関損傷は,補機の弾性継手の点検が不十分で,ゴムエレメントに亀裂が生じた状況のまま運転が続けられ,入港時に発電機の並列運転中,同亀裂が著しく進展したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,機関の運転保守にあたり,入渠時に補機の開放整備を行う場合,弾性継手のゴムエレメントの材料が疲労するものであったから,その材料の疲労による亀裂を見落とさないよう,連結部カバーの取り外しを業者に依頼するなどの同継手の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,問題ないものと思い込み,連結部カバーの取り外しを業者に依頼するなどの弾性継手の点検を十分に行わなかった職務上の過失により,ゴムエレメント表面に生じた亀裂に気付かないまま運転を続け,入港時に発電機の並列運転中,同亀裂が著しく進展する事態を招き,ゴムエレメントを破断させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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