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平成17年仙審第63号
件名

漁船稲荷丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年12月16日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:稲荷丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
逆転減速機入出力軸の軸受,前後進軸のスラストカラー,作動油ポンプ等の焼損

原因
逆転減速機据付けボルトの点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は,主機付逆転減速機の据付けボルトの点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月9日03時00分
 福島県相馬港南東方沖合
 (北緯37度38.4分 東経141度19.7分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船稲荷丸
総トン数 19トン
登録長 16.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 481キロワット
回転数 毎分1,450

3 事実の経過
 稲荷丸は,昭和54年11月に進水した,沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,主機として,B社が製造したS160−GN型と称するディーゼル機関を装備し,主機後部にたわみ継手を介して,C社が製造したYX−350E型と呼称する油圧多板クラッチ式逆転減速機(以下「逆転機」という。)を連結しており,福島県沖合を漁場として,7月,8月の休漁期間を除いた周年操業に従事していた。
 逆転機は,機関台に両舷を各2本の通しボルト(以下「据付けボルト」という。)及び調整ライナで据え付けてあり,主機動力が前進時には,入力軸歯車,前進軸歯車,前進クラッチ,前進軸小歯車,出力軸大歯車及びプロペラ軸へと伝達され,後進時には,入力軸歯車,後進軸歯車,後進クラッチ,後進軸小歯車,出力軸大歯車及びプロペラ軸へと伝達され,作動油ポンプが前進軸後端に設けられており,入出力軸の軸受が油浴法によって潤滑されていた。
 A受審人は,稲荷丸に就航時甲板員として乗り組み,平成3年8月一級小型船舶操縦士免許を取得し,同14年8月船長として乗り組んで機関の運転保守にもあたり,逆転機については,月に1度潤滑油量を計測して適宜潤滑油を補給し,また,前後進操作する上で格別異状がなかったことから,主機始動時に見回す程度として操業に従事していたところ,いつしか,逆転機の据付けボルトが緩み,同16年11月初め逆転機を前後進操作したとき,振動が以前よりも大きいのを認めたが,プロペラに何かが絡んだことによるもので,後で除去すればよいと思い,同ボルトを点検しなかったので,同ボルトの緩みに気付かなかった。
 その後,逆転機は,据付けボルト4本全ての緩みが進行して振動が大きくなるとともに,前後進軸は,前後進時の衝撃やねじれによる振れが大きくなり,同軸軸受が著しく偏摩耗するようになった。
 こうして,稲荷丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,操業の目的で,船首1.5メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,同16年12月8日02時00分福島県松川浦漁港を発し,04時30分同漁港南東方沖合の漁場に至って操業を繰り返していたところ,主機を回転数毎分1,000にかけ,2.0ノットの前進速力で曳網中,入出力軸軸受が潤滑不良を生じて焼損し,翌9日03時00分鵜ノ尾埼灯台から真方位124度19.8海里の地点において,逆転機が異音を発した。
 当時,天候は雨で風力1の北西風が吹き,海上は穏やかであった。
 A受審人は,逆転機から異臭と発煙を認めて操業不能と判断し,揚網後主機を回転数毎分800として松川浦漁港に入港した。
 その結果,逆転機は,入出力軸軸受,前後進軸のスラストカラー,作動油ポンプ等が焼損し,のち損傷部品及び据付けボルトを新替えした。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機付逆転機の振動が増大した際,逆転機据付けボルトの点検が不十分で,同ボルトの緩みの進行とともに入出力軸の振れが大きくなり,同軸軸受が著しく偏摩耗して潤滑不良を生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機付逆転機の前後進操作時,振動の増大を認めた場合,逆転機の据付けボルトが緩んでいるおそれがあったから,同ボルトを十分に点検すべき注意義務があった。しかるに,同人は,振動がプロペラに何かが絡んだことによるもので,後で除去すればよいと思い,逆転機据付けボルトを十分に点検しなかった職務上の過失により,同ボルトの緩みの進行とともに入出力軸の振れが大きくなり,同軸軸受が著しく偏摩耗して潤滑不良を招き,同軸受,前後進軸のスラストカラー,作動油ポンプ等を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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