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平成17年長審第68号
件名

漁船第十八海盛丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年11月29日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:第十八海盛丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機のピストン,シリンダライナ及びクランク軸ジャーナル部の焼損

原因
主機の燃料噴射弁の点検整備不十分,クランク室内部の掃除不十分

裁決主文

 本件機関損傷は,主機の燃料噴射弁の点検整備が十分でなかったことと,潤滑油を新替えする際,クランク室内部の掃除が十分でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月29日05時00分
 鹿児島県阿久根港西方沖
 (北緯32度01.4分 東経130度05.1分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八海盛丸
総トン数 19トン
登録長 19.63メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 588キロワット
回転数 毎分1,400

3 事実の経過
 第十八海盛丸(以下「海盛丸」という。)は,昭和63年12月に進水したFRP製漁船で,鹿児島県脇本漁港を基地として同県上甑島(かみこしきしま)北方沖合の漁場において,毎月月夜間と称する満月前後の5日ばかりを休業する以外は,午後出漁して翌朝基地に戻る操業形態で,船団の運搬船として中型まき網漁業に周年従事しており,操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 主機は,B社製の6N165-EN型機関で,各シリンダに船尾側を1番とする順番号が付され,燃料油としてA重油を使用し,年間2,200時間ばかり運転されていた。
 主機の潤滑油系統は,容量約200リットルのクランク室底部潤滑油だまりから直結ポンプで吸引された潤滑油が,潤滑油冷却器及び同こし器を経由して入口主管で各シリンダ毎に分岐し,主軸受,クランクピン軸受及びピストンピン軸受の順に送られるほか,シリンダブロックに取り付けたピストン冷却ノズルからピストン内側に向けて噴射され,各部を潤滑及び冷却したのち,いずれも潤滑油だまりに落下して循環しており,ピストンとシリンダライナ間の潤滑ははねかけ注油によっていた。
 また,主機燃料油系統は,燃料油タンクから同供給ポンプで吸引されたA重油が,こし器を 経て燃料噴射ポンプで加圧され,高圧管を通って燃料噴射弁から280キログラム毎平方センチ メートルの高圧で燃焼室内に噴射されるようになっていた。
 A受審人(昭和55年11月一級小型船舶操縦士免許取得)は,海盛丸に竣工時から船長として甲板員2人と乗り組み,主機の運転管理にも当たり,潤滑油については,整備業者に依頼するか甲板員に指示して3箇月を目途にこし器のエレメントとともに新替えしていたが,その際,機付きハンドポンプなどを使用して潤滑油だまりの使用油を抜き取るだけで新油を張り込み,クランク室内のふき取り掃除を行っていなかったことから,長年の間に同油だまり底部にスラッジ等が堆積していた。
 また,A受審人は,主機の燃料噴射弁について,取扱説明書に記載された500時間毎に噴射圧力及び噴霧状態を点検し,1,000時間毎に分解掃除を行う旨の整備基準にもかかわらず,長年の間一度も点検整備を行っていなかったので,ノズルチップの摩耗,高圧管取付け部パッキンからの漏油等によって噴射圧力が低下し,いつしか,ほとんどのシリンダが燃焼不良となり,シリンダライナに付着した未燃焼油がピストンリングにかき落とされてクランク室の潤滑油に混入し始めた。
 A受審人は,平成15年6月3日出漁前の点検で,主機の潤滑油量が異状に増加していることを認め,いつもの整備業者に原因調査を依頼し,燃料噴射弁の不良でクランク室に燃料油が混入していることが判明したので,高圧管取付け部パッキンの新替えを含む燃料噴射弁の整備と潤滑油の交換を依頼したが,同油を新替えさえしておけば大丈夫と思い,クランク室内部のふき取り掃除を行うよう指示しなかった。
 主機は,整備業者の手により,全燃料噴射弁が整備され,移動式電動ポンプによって潤滑油だまりの同油ができるだけ抜き取られただけで,燃料油で希釈された潤滑油堆積物が少量残留した状態のまま新油が張り込まれたことから,その後,運転が繰り返されるうち,同堆積物中のスラッジなど微小異物が新油とともに系統内を循環し,3番シリンダピストン冷却ノズルの噴射口付近に掛かって噴射量が減少し始めた。
 こうして,海盛丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,同年7月28日15時00分脇本漁港を発し,17時00分上甑島北方の漁場に至って操業を開始し,翌29日02時30分ごろ操業を終え,水揚げの目的で鹿児島県阿久根漁港に向かい,主機を回転数毎分1,300にかけて航行中,05時00分阿久根港新港一文字防波堤南灯台から真方位267度5.1海里の地点において,前示冷却ノズルが閉塞したことから,ピストンが過熱膨張してシリンダライナと焼き付き,同ライナ下部のOリングが焼損して冷却清水が漏洩し,操舵室後方の甲板上に導かれたクランク室ガス抜管から多量の白煙が噴き出した。
 当時,天候は晴で風はなく,海上は穏やかであった。
 A受審人は,操船中,同ガス抜管からの白煙に気付き,減速して阿久根漁港に入港した。
 海盛丸は,水揚げをすませたのち,整備業者によって主機を精査したところ,前示ピストン及びシリンダライナの損傷のほか,2番及び7番のクランク軸ジャーナル部の焼損等が判明し,のち,主機は中古の同型機関に換装された。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機の燃料噴射弁の点検整備が不十分で,燃焼不良となって燃料油がクランク室内の潤滑油に混入したことと,潤滑油を新替えする際,同室内部の掃除が不十分で,底部に残留していたスラッジなど微小異物が新油とともに系統内を循環し,ピストン冷却ノズルの噴射口を閉塞させたこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機の運転管理に当たり,燃料油がクランク室内に混入したことが判明し,整備業者に依頼して潤滑油を新替えさせる場合,スラッジなどの微小異物が残留したまま新油を張り込むと,同異物が新油とともに系統内を循環してピストン冷却ノズルを閉塞させたり,軸受間隙に入り込むおそれがあったから,ピストンの冷却が阻害されたり,軸受が焼損することのないよう,クランク室内の掃除を十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,潤滑油を新替えさえしておけば大丈夫と思い,クランク室内の掃除を十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により,潤滑油だまり底部に燃料油で希釈された堆積物が残留したまま新油が張り込まれ,スラッジなど微小異物が新油とともに系統内を循環し,漁場から帰航中,3番シリンダのピストン冷却ノズルが閉塞してピストンが過熱膨張する事態を招き,シリンダライナと焼き付かせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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