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平成17年横審第55号
件名

漁船第二寿和丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年11月22日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(浜本 宏,西田克史,古城達也)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:第二寿和丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
減速機入力軸船尾側軸受等の損傷

原因
減速機潤滑油こし器の開放点検不十分

主文

 本件機関損傷は,減速機潤滑油こし器の開放点検が不十分で,同機軸受類の経年劣化による損耗が進行するまま,運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月6日03時00分
 千葉県犬吠埼東北東方沖合
 (北緯37度40分 東経147度30分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第二寿和丸
総トン数 99トン
全長 40.71メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
回転数 毎分1,000
(2)設備及び性能等
ア 第二寿和丸
 第二寿和丸(以下「寿和丸」という。)は,昭和62年2月に進水した,まき網漁業船団の鋼製探索船で,可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を有し,主機としてB社が製造した6PA5L型と呼称するディーゼル機関及び同機船尾側にC社が製造したMGR1844VC型と呼称する減速機が連結されて,船体中央部の甲板下に据付けられており,CPP給油ユニットからの油圧での翼角変更による前後進の切替え及び主機の増減速等が行える主機遠隔操縦装置が操舵室に設置されていた。なお,主機は,受検後,最大燃料噴射量制限装置の封印が解かれていた。
イ 減速機
 減速機は,クロムモリブデン鋼(SCM415)製の1段減速歯車と湿式油圧多板クラッチを内蔵しており,入力軸は,軸径115ミリメートル(以下「ミリ」という。)の機械構造用炭素鋼(S45C)製で,主機の運転開始により同軸が回転し,操縦レバーの操作により,クラッチに油圧がかかって嵌合(かんごう)され,入力軸小歯車が回転を始め,出力軸大歯車を介して,軸径236.3ミリの機械構造用炭素鋼(S45C)製の出力軸からプロペラ軸に出力されるようになっていた。また,同機は,入力軸船首側が単列円筒ころ軸受,同軸船尾側が複列自動調心ころ軸受,出力軸船首側が単列スラスト自動調心ころ軸受及び複列自動調心ころ軸受,同軸船尾側が単列円筒ころ軸受で,それぞれ支えられていた。
ウ 減速機潤滑油系統
 減速機潤滑油系統は,総量100リットルの潤滑油が同機油だめから60メッシュの同機潤滑油こし器(以下「こし器」という。)を経て,2台付設されている直結潤滑油ポンプ(以下「油圧ポンプ」という。)の一方に吸引・加圧されたのち,150メッシュのこし器を経由して,クラッチ油圧調整弁で23ないし25キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調節されて,クラッチ作動油として働き,同油圧調整弁で分岐された潤滑油が,同油冷却器及び150メッシュのこし器を経て,潤滑油圧調整弁にて2ないし4キロに調節されて減速機各部の潤滑及び冷却に使用されるようになっており,潤滑油圧が0.5キロ以下に低下した場合には警報を発する警報装置が設置されていた。また,もう一方の油圧ポンプに吸引・加圧されて,CPP給油ユニットに送油される潤滑油も含めて,いずれも減速機油だめに戻るようになっていた。

3 事実の経過
 寿和丸は,主に福島県小名浜港を基地として,1航海1ないし2週間で,毎年4月初旬から9月末まではかつお・まぐろ漁を行い,10月初めから翌年2月末まではいわし・さば漁を行うなど,主に三陸沖合で周年操業を繰り返し,月間360時間ばかりの運転が行われ,魚群を追尾する際には,主機回転数1,000(毎分,以下同じ。)にかけるなど高出力領域にかかる運転が繰り返されていたが,休漁期の3月には,船体及び機関の整備が実施されていた。
 A受審人は,機関長として機関の運転保守にあたり,減速機取扱説明書には軸受類の4年ごとの交換及び1,000時間ごとのこし器の開放掃除などが記載されていたところ,毎年の入渠時期に減速機の潤滑油を交換するのに併せてこし器の開放点検を行うなどしていた。
 ところで,寿和丸は,平成16年3月定期検査時に,減速機が開放点検され,摩耗があった油圧ポンプの軸受が新替えされたものの,減速機軸受類は目立った異状がなかったことから,交換されずに推奨交換時期を超えて継続使用され,操業が再開されていた。
 しかし,A受審人は,これまで無難に運転されているから大丈夫と思い,こし器の開放点検を十分に行っていなかったので,減速機軸受類の経年劣化による損耗が進行し,こし器に金属粉が付着し始めていることに気付かないまま,運転を続けていた。
 こうして,寿和丸は,A受審人ほか7人が乗り組み,操業の目的で,船首尾とも2.7メートルの等喫水をもって,同年9月1日16時30分宮城県塩釜港を発し,金華山東方沖合の漁場に至って操業中,同月6日03時00分北緯37度40分東経147度30分の地点において,減速機油圧低下警報装置が作動した。
 当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,海上は穏やかであった。
 その結果,寿和丸は,主機を停止して,減速機を点検したところ,こし器が多量の金属粉で目詰まりしていたことから,以後の操業を断念し,僚船に曳航を依頼して宮城県石巻港に引き付けられた。その後,業者により減速機が精査された結果,油圧ポンプに異常はなかったが,入力軸船尾側軸受が破損していたほか,出力軸船尾側軸受にも損傷が判明し,のち損傷部品等が取り替えられた。

(本件発生に至る事由)
1 高出力領域にかかる主機の運転が繰り返されていたこと
2 減速機軸受類を定期検査時に交換しなかったこと
3 減速機軸受類が経年劣化していたこと
4 こし器の開放点検を十分に行っていなかったこと

(原因の考察)
 機関長が,こし器の開放点検を十分に行っていたなら,こし器に金属粉の付着があった際,減速機油圧ポンプの軸受摩耗粉の可能性は少なく,推奨交換時期を超えて継続使用されていて,経年劣化による損耗が懸念される減速機軸受類に生じた摩耗粉であると思量され,同機軸受類を交換するなどの判断がなされ,本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,こし器の開放点検を十分に行っていなかったこと及び減速機軸受類が経年劣化していたことは,本件発生の原因となる。
 高出力領域にかかる主機の運転が繰り返されていたこと,A受審人が,減速機軸受類を定期検査時に交換しなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,減速機軸受類が推奨交換時期を超えて継続使用されていた際,こし器の開放点検が不十分で,同機軸受類の経年劣化による損耗が進行するまま,運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,減速機軸受類が推奨交換時期を超えて継続使用されていた場合,同機軸受類が経年劣化により損耗するおそれがあるから,こし器への金属粉の付着を見落とさないよう,こし器の開放点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,これまで無難に運転されているから大丈夫と思い,こし器の開放点検を十分に行わなかった職務上の過失により,こし器に金属粉が付着し始めていることに気付かないまま運転を続け,同機軸受類の経年劣化による損耗を著しく進展させる事態を招き,同機の入力軸船尾側軸受等を破損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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