(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月3日11時30分
宮城県石巻港南方沖合
(北緯38度11.0分 東経141度21.0分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八盛豊丸 |
総トン数 |
18トン |
全長 |
18.50メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
回転数 |
毎分1,850 |
3 事実の経過
第十八盛豊丸(以下「盛豊丸」という。)は,平成6年12月に進水した,まぐろはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で,主な操業海域が北緯35度から40度本州東岸から東経150度までの太平洋近海で,例年7月下旬から翌年の6月中旬までを操業期間としていた。
主機は,B社が製造した6LAH-ST型と称する清水二次冷却方式のディーゼル機関で,各シリンダには船首側を1番として船尾側に6番まで順番号を付していた。また,主機の冷却海水系統は,直結の冷却海水ポンプによって吸引加圧された海水が,空気,清水及び潤滑油の各冷却器を順に通って船外へ放出されるようになっており,操舵室に冷却清水の温度計及び温度上昇警報装置を備えていた。
A受審人は,平成16年7月下旬盛豊丸に機関長として乗り組み,1航海が約20日間,帰港後の停泊期間が3日間の操業に従事し,主機を月間約500時間運転していたところ,いつしか,主機冷却清水温度上昇警報装置の検出端等が老朽化して同装置が作動しない状態となっていたが,停泊中に同検出端を抽出し,加熱して同装置の作動状況をみるなど,同装置を十分に点検しなかったので,この状態に気付かなかった。
盛豊丸は,A受審人ほか6人が乗り組み,操業の目的で,同16年10月3日08時00分宮城県塩釜漁港を発し,三陸東方沖合の漁場に向けて主機を回転数毎分1,400にかけ,仙台塩釜港塩釜区を10ノットの速力で航行中,主機の冷却海水ポンプが港内のごみを吸い込んで同ポンプのゴムインペラが欠損して揚水量が減少し,冷却清水温度が次第に上昇して主機が過熱気味となり,ピストンとシリンダライナとの摺動面の一部に潤滑不良を生じ,08時17分操舵室にいた同人が,主機から微かに異音を発しているのに気付き,機関室に入って主機に触手したところ,通常時より高温であるのを認めた。
ところが,A受審人は,主機の回転を少し下げると異音がしなくなったことから,回転を下げて運転すれば大丈夫と思い,冷却海水の船外放出状況や冷却清水温度計を見るなどして,主機の冷却水系統を十分に点検しなかったので,主機が冷却海水の流量不足のため過熱していることに気付かなかった。
こうして,盛豊丸は,主機を回転数毎分1,200に下げ,6ノットの速力で漁場に向けて航行中,冷却海水ポンプゴムインペラの欠損が進んで冷却清水温度が著しく上昇し,ついにピストンとシリンダライナとの摺動面が焼き付き,11時30分濤波岐埼灯台から真方位243度8.1海里の地点において,異音を発した。
当時,天候は小雨で風力2の北北西風が吹き,海上は穏やかであった。
操舵室で見張り中のA受審人は,主機を停止して機関室へ急行したが,主機が過熱して表面に触手できず,潤滑油量を計測するため検油棒キャップを取り外したところ,白煙が噴出したので各部が焼損しているものと判断し,主機の運転を断念した。
盛豊丸は,付近で操業中の僚船に曳航されて塩釜漁港に引き返し,鉄工所が主機を開放点検した結果,2番及び3番シリンダのピストン及びシリンダライナ,クランク軸,シリンダブロック等が焼損しており,のち損傷部品を新替えし,主機冷却清水温度上昇警報装置の検出端及び温度スイッチを新替えした。
(海難の原因)
本件機関損傷は,主機冷却清水温度上昇警報装置の点検が十分でなかったこと,及び仙台塩釜港塩釜区を漁場に向けて航行中,主機が微かな異音を発し,主機表面が通常時より高温となった際,主機冷却水系統の点検が不十分で,冷却海水ポンプゴムインペラの欠損が進んで冷却海水の流量不足となり,主機が過熱したまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,仙台塩釜港塩釜区を漁場に向けて航行中,主機が微かな異音を発し,主機表面が通常時より高温となっているのを認めた場合,主機が冷却不足となっているおそれがあったから,冷却海水の船外放出状況や冷却清水温度計を見るなどして,主機冷却水系統を十分に点検すべき注意義務があった。ところが,同人は,主機の回転を少し下げると異音が発生しなくなったことから,回転を下げて運転すれば大丈夫と思い,主機の冷却水系統を十分に点検しなかった職務上の過失により,冷却海水ポンプゴムインペラの欠損が進んで,冷却海水が流量不足となって主機が過熱する事態を招き,ピストン,シリンダライナ,クランク軸,シリンダブロック等を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。