(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年1月6日09時30分
青森県むつ小川原港東方沖合
(北緯40度54.0分 東経141度42.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七みなと丸 |
総トン数 |
160トン |
登録長 |
33.45メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
1,765キロワット |
回転数毎分750 |
3 事実の経過
第七みなと丸(以下「みなと丸」という。)は,平成2年4月に進水した,沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で,可変ピッチプロペラを有し,主機としてB社が製造した6MG28HX型と称する清水2次冷却方式のディーゼル機関を装備し,八戸港東方及び千島列島の沖合を漁場として,5月中旬から7月末までの休漁期間を除いた周年操業に従事し,主機の運転時間が年間約4,000時間であった。
主機は,各シリンダが船首側を1番として船尾側へ順番号で呼ばれ,シリンダヘッドに吸気弁と排気弁をそれぞれ2弁配置していた。そして,主機の冷却海水系統は,船体付海水吸入弁から電動の冷却海水ポンプによって吸引加圧された海水が,空気,潤滑油及び清水の各冷却器を順に経て船外へ放出されるようになっていた。
また,主機給気の温度管理は,給気主管付温度計を見ながら空気冷却器の海水入口管に設けられた手動三方弁を操作し,同冷却器の冷却海水流量を調整するなどして行うもので,同冷却器の注意銘板に給気温度の適正値が40度(摂氏,以下同じ。)ないし60度と示されていた。
A受審人は,昭和53年4月乙種一等機関士(内燃)免許を取得後漁船に機関長として乗り組み,平成13年7月以降みなと丸に機関長として乗り組んで機関の運転保守に当たっていたもので,主機の吸排気弁については,同15年7月定期検査工事を施工した際,機関整備業者が全数摺り合わせするなどの整備を行い,翌8月1日から操業に従事していたところ,主機の給気温度が夏場の海水温度の高いときには40度ないし50度の範囲におさまっていたものの,海水温度の低下とともに次第に低下し,低負荷時には30度以下となっているのを認めたが,温度が低くても大事に至ることはあるまいと思い,空気冷却器の冷却海水流量を調整するなどして,給気温度の管理を十分に行うことなく,同温度を低い状態で運転していた。
このため過給機で圧縮高温化された給気は,空気冷却器で過冷却状態となって,多量のドレンが発生してシリンダ内に送り込まれることとなり,吸気弁は,燃焼ガスと給気とに交互に曝(さら)されているところへ,更にドレンの付着により表面温度が低下することから大きな熱応力を繰り返し受けるとともに,未燃焼ガス中の硫黄成分がドレンの介在で硫酸化して腐食が進行し,3番シリンダ左舷側吸気弁の弁傘部に亀裂を生じるようになった。
こうして,みなと丸は,A受審人ほか13人が乗り組み,船首2.9メートル船尾4.9メートルの喫水をもって,操業の目的で,同16年1月6日04時05分青森県八戸漁港を発し,06時05分同漁港東方沖合の漁場に至って操業を開始し,主機を回転数毎分670にかけ,プロペラ翼角を前進7度として3.0ノットの速力で曳網中,09時30分むつ小川原港新納屋南防波堤灯台から真方位097度14.6海里の地点において,前示吸気弁の亀裂が進展して弁傘部周縁が4分の1にわたって欠損し,破損片が過給機に入って異音を発した。
当時,天候は雨で風力2の西風が吹き,海上は穏やかであった。
機関監視室で当直中のA受審人は,給気主管の発熱及び過給機からの異音を認めて主機の運転不能と判断し,みなと丸は,付近で操業中の僚船に曳航されて八戸漁港に引き付けられ,修理業者が点検した結果,当該シリンダの吸排気弁に打痕や曲損を生じ,過給機のノズルリング,タービンブレード,排気入口及び出口ケーシング等に損傷を生じていることが判明し,のち損傷部品を新替えするなどして修理し,また,手動三方弁を自動温調弁と交換した。
(海難の原因)
本件機関損傷は,主機給気の温度管理が不十分で,給気が過冷却されてドレンが多量にシリンダ内に送り込まれ,吸気弁の熱疲労と腐食が進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,主機給気の温度低下を認めた場合,給気中のドレンの発生を抑止するよう,空気冷却器の冷却海水流量を調整するなどして,給気の温度管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,給気温度が低くても大事に至ることはあるまいと思い,給気の温度管理を十分に行わなかった職務上の過失により,給気が過冷却されて多量に発生したドレンがシリンダ内に送り込まれ,吸気弁の熱疲労と腐食が進行して同弁の欠損を招き,破損片により吸排気弁,過給機のノズルリング,タービンブレード,排気入口及び出口ケーシング等に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。