(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月27日03時30分
広島県福山港一文字岸壁
(北緯34度28.2分 東経133度24.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
はしけ石306 |
重量トン数 |
400トン |
全長 |
33.4メートル |
3 事実の経過
石306は,昭和45年に建造された鋼製はしけで,B社の引船にえい航され,愛媛県新居浜港等を積み地とし,岡山県水島港及び兵庫県姫路港を揚げ地とする航路で製鋼原料となるスクラップの運搬に従事しており,長さ23.4メートルの船倉の後部に,船員室が配置されていた。
船員室は,長さ3.0メートル幅3.5メートルで,左右舷の船首側に出入口を設け,後面には右舷側から順に船倉への階段室,トイレ及び物入れがそれぞれ仕切って配置され,床全面が畳敷きとなっており,左舷側には船尾隅の流し台と出入口との間にガス冷蔵庫と,ガスコンロを載せたテーブルが置かれ,同冷蔵庫の上にガス炊飯器が置かれていた。
船員室のガス冷蔵庫は,LPガスを熱源とする吸収式冷凍機を内蔵しており,幅52センチメートル奥行き38センチメートル高さ74センチメートルで,右蝶番の全面扉が取り付けられ,扉下部の操作パネルにガス供給ダイヤル,点火ボタン,温度調整ダイヤル及び着火表示器が配置されていた。また,船員室外に置かれたガスボンベから調整器を経て他のガス器具と分岐したゴムホースでLPガスを導入していた。
A指定海難関係人は,昭和28年からいか釣り漁船の甲板員及び機関員として乗船し,同52年ころに小型船舶操縦士の免許を取得して自ら5トン未満の漁船の船長を務めたのち,平成元年から内航貨物船に甲板員として乗船し,同11年からはしけの乗組員として乗船していた。
石306は,平成17年3月までしばらく係留されたのち,同年4月から再び運航を開始していたところ,同月23日にA指定海難関係人が乗船した。
ところで,船員室のガス冷蔵庫は,平成13年に業者から納入されたが,LPガスを供給するゴムホースが取り替えられないまま使用されており,同冷蔵庫の裏に敷設された同ホースが微細な亀裂を生じるなど劣化していた。
A指定海難関係人は,石306に乗船して,既にLPガスボンベの元弁が開放のままで,ガス冷蔵庫に種火が点いて使用中であることを認識していたが,同冷蔵庫の裏が見えず,ゴムホースの状態に気付かなかった。
石306は,A指定海難関係人が1人で乗り組み,空倉のまま引船にえい航され,4月24日早朝水島港を発し,同日10時00分福山港一文字岸壁に着岸していたはしけの沖側に,荷役待ちのため横付け係留された。
A指定海難関係人は,26日夕刻買物のために上陸し,翌27日00時00分帰船してまもなく就寝したところ,ガス冷蔵庫のゴムホースの亀裂からLPガスが漏れて種火で発火し,03時30分JFEスチール福山港新涯導灯から真方位016度1,300メートルの地点において,ゴムホースから噴く炎で船員室の壁が燃え広がり,火災となった。
当時,天候は晴で風力1の北風が吹いていた。
A指定海難関係人は,ふと目が覚めて冷蔵庫裏側からテーブル下の壁が燃え上がっていることに気付いて,隣接する岸壁に係留していた引船の船長を起こし,引船のえい航索を取って石306を離岸させ,沖合100メートルほどの地点に投錨した。
石306は,駆けつけた消防艇で消火が行われ,04時45分ごろ鎮火したが,船員室が全焼し,のち解撤された。
(海難の原因)
本件火災は,福山港の岸壁に係留中,船員室のガス冷蔵庫のゴムホースが劣化してLPガスが漏洩し,同ガスが種火で発火したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。