(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月20日21時50分
岡山県虫明漁港
(北緯34度41.1分 東経134度12.8分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船正清丸 |
総トン数 |
4.16トン |
全長 |
11.35メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
15 |
3 事実の経過
正清丸は,昭和52年6月に進水した,底引き網漁業に従事するFRP製漁船で,主機として,B社製造の3L15型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
船体は,1層甲板型で,甲板下には船首から倉庫,空所,魚倉,機関室,倉庫及び操舵機室が配置され,機関室上に幅1.13メートル長さ1.6メートルの操舵室囲壁が取り付けられ,同囲壁の両舷側には網を巻くワーピングドラムが設けられていた。
ワーピングドラムは,甲板から30センチメートルの高さに回転中心を置く駆動軸が,操舵室囲壁を左右に貫通しており,同囲壁の内側でプーリとベルトを介して主機によって駆動されるようになっていた。
正清丸は,平成4年に主機が故障して操業できなくなり,まもなく後継船が新造されたので修理されないまま虫明漁港に係船されていた。
A受審人(昭和49年9月一級小型船舶操縦士免許取得)は,平成17年5月リサイクル業者が中古機関を買い集めていることを聞き,正清丸の主機を売却することとしたが,機関室囲壁を貫通するワーピングドラム駆動軸が主機の上方に位置して,陸揚げ作業に邪魔になるので,予め同駆動軸を取り外すこととした。
A受審人は,鉄工所に駆動軸の取外しを依頼し,同月20日夕刻作業員にガスと酸素ボンベ,ガス切断器などを係留場所の正清丸に運び込ませたのち,自ら作業の監督に当たった。
鉄工所の作業員は,同日18時30分ごろガス切断器を使って作業に取りかかり,操舵室囲壁外側の部分で両舷のワーピングドラム駆動軸を溶断し,同ドラムと囲壁内の軸を取り外した。
A受審人は,溶断作業が行なわれていた間,同作業で飛散する溶鉄で甲板が焼け焦げることのないよう甲板上に海水を流し続けた。
正清丸は,19時ごろ操舵室囲壁を貫通していた軸が取り外され,まもなく鉄工所の作業員が甲板上を見回したのち,道具を片づけて退船したが,操舵室囲壁の隅の甲板が溶鉄でわずかにくすぶり始めた。
A受審人は,甲板周辺を見回したが,操舵室囲壁の隅に溶鉄など火気が残っていないか十分に点検することなく,海水を甲板に流す際に使ったホースを巻き取り,倉庫に格納したのち,19時07分ごろ正清丸を無人として係留場所から2分ほどの自宅に帰った。
こうして,正清丸は,無人となって係船されていたところ,操舵室囲壁の隅でくすぶり続けていた甲板のFRP材が発火し,虫明港1号防波堤灯台から真方位308度150メートルの地点で,火災となり,21時50分A受審人の自宅2階にいた家人と,虫明漁港を見下ろす高台の住民が甲板上の煙を発見した。
当時,天候は晴で風はなく,海上は穏やかであった。
A受審人は,火災の発生を知って係留場所に急ぎ,付近の住民の手助けを得てバケツで海水を掛けて消火した。
火災の結果,操舵室囲壁の後半部と,後部甲板が焼損したが,のち焼損部がカバーされ,主機が同月24日に陸揚げされ,船体が網保管用として使用されることとなった。
(原因)
本件火災は,岡山県虫明漁港に係留中,操舵室囲壁を貫通するワーピングドラムの駆動軸を取り外すためにガス切断器による溶断作業を行った際,火気の点検が不十分で,無人となったのち同囲壁の隅の甲板でくすぶっていたFRP材が発火したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,主機の陸揚げに備えてワーピングドラムの駆動軸を溶断させて取り外したのち,無人にして帰宅する場合,間近に溶断作業を行った操舵室囲壁の隅に火気が残っていないか,十分に点検すべき注意義務があった。しかるに,同人は,甲板周辺を見回しただけで,海水を流していたので火気が残ることはあるまいと思い,操舵室囲壁の隅に火気が残っていないか,十分に点検しなかった職務上の過失により,無人となったのち同囲壁の隅の甲板でくすぶっていたFRP材が発火する事態を招き,同囲壁後半部と後部甲板が焼損するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。