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平成17年仙審第39号
件名

漁船第八十一金剛丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成17年10月12日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹,原 清澄,半間俊士)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:第八十一金剛丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(履歴限定・機関限定)

損害
作業備品倉庫,船員室等の焼損

原因
切断作業の中止措置がとられなかったこと

主文

 本件火災は,酸素アセチレンガス切断器で切断作業中に切断状況が異状となった際,速やかに同作業の中止措置がとられなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月23日11時00分
 日本海大和堆付近海域
 (北緯39度37分 東経135度10分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八十一金剛丸
総トン数 138トン
全長 37.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第八十一金剛丸
 第八十一金剛丸(以下「金剛丸」という。)は,平成3年2月に進水した,いか一本釣り漁業に従事する長船尾楼型鋼製漁船で,上甲板下には船首から順に船首タンク,1番魚倉ないし3番魚倉及び機関室が,上甲板には船首から順に船首楼,前部甲板,冷凍室,機関室,賄室及び操舵機室がそれぞれ配置され,船尾楼甲板の構造物には船首側から順に操舵室,船員室,作業備品倉庫及び安定器室が設けられ,両舷及び船尾のブルワーク上にはいか釣り機械が設置されていた。
イ いかの計量及び計量器台
 釣れたいかは,船尾楼甲板両舷の樋から海水とともに前部甲板後部に区画されたいか溜まりに流れ落ち,冷凍パンに入れて計量器で計測し,8キログラムまで詰めたのち,冷凍室に運ぶようになっていた。また,計量器は2台あって,いか溜まりの両舷の壁にボルト締めされた計量器台に置かれており,その計量器台は,縦1メートル横75センチメートル(以下「センチ」という。)のL字型をした幅40センチ厚さ3ミリメートルのステンレス鋼製のもので,白のペイントで塗装されていた。
ウ 作業備品倉庫
 作業備品倉庫は,長さ2.8メートル幅3.5メートルで,両舷壁の各中央に船尾楼甲板に通じるドア,前部壁に船員室後部の便所及び階段踊り場に通じるドアをそれぞれ設け,後部にロッカー,前部左舷側に洗濯機を置き,両舷壁に乗組員の雨具類が掛けられるようになっており,前部右舷側に酸素ボンベ,アセチレンガスボンベ等の酸素アセチレンガス溶接切断装置を設置していた。
エ 酸素アセチレンガス溶接切断装置
 酸素及びアセチレンガスの各ボンベは,頂部に開閉弁及び圧力調整器がそれぞれ取り付けられ,酸素側の圧力調整器にはゴムホースが,アセチレンガス側の圧力調整器には逆火防止装置(以下「安全器」という。)を介してゴムホースがそれぞれ接続され,使用目的によって両ゴムホースに溶接器あるいは切断器を接続するようになっていた。

3 事実の経過
 金剛丸は,A受審人ほか8人が乗り組み,船首2.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,操業の目的で,平成16年6月4日12時30分石川県小木港を発し,翌5日12時ごろ日本海の大和堆付近海域に至り,同海域において約1箇月間の予定で操業を開始した。
 A受審人は,小木港発航後,甲板長から両舷に設置している計量器台の下にいかが入り込むと取りにくいので,台の横75センチ部分を10センチばかり切断して,65センチとしてくれるように頼まれており,6月26日午前漁場移動中で手空きになったことから,甲板員1人に手伝わせて計量器台を切断することにした。
 10時30分A受審人は,酸素及びアセチレンガスの各ボンベ付開閉弁を開弁し,ゴムホース取付け部などからの漏洩の有無,圧力調整器付圧力計で酸素及びアセチレンガス圧力を確認し,甲板員がゴムホース,切断器,遮光面等を持って,作業備品倉庫の右舷ドアを出て船尾楼甲板右舷側を通り,階段を降りていか溜まりまで運んだ。
 10時45分A受審人は,左舷側計量器台から切断し始め,間もなく,同台がステンレス鋼材であるのに気付き,同鋼材の切断が初めてで一抹の不安があったものの,切断可能と判断して切断を続けたところ,切断速度が遅いうえに切断箇所が幅広で溶融状態となり,同時50分切断器火口が過熱して逆火により炎が消えのたで,切断器付酸素及びアセチレンガスの各弁を閉めた。
 A受審人は,逆火の知識がなかったものの,これまでの炭素鋼を切断したときと違って切断箇所の溶融状態などから異状であることを認めたが,切断作業が短時間で終わるので大丈夫と思い,異常な状況が他に拡大することのないよう,速やかに切断作業を中止する措置をとることなく,切断器付アセチレンガス弁を開いてライターで着火し,切断器付酸素弁を開いて再度切断作業を始めた。
 こうして,A受審人は,切断作業を続けたところ,数回逆火により炎が消えたが,その都度ライターで着火して切断作業を繰り返しているうちに,逆火のためゴムホース内が燃焼して同ホース内に煤が付着し,10時58分逆火を起こしたとき,煤濃度が可燃限界となって粉じん爆発が発生し,酸素ゴムホースが圧力調整器出口付近から破損して火炎が噴出し,一方,アセチレンガス側は逆火により安全器が作動してアセチレンガスの供給が遮断された。同受審人は,切断器付アセチレンガス弁を開弁してライターで点火を試みたものの着火できないので,不審に思ってボンベを見に行ったところ,11時00分北緯39度37分東経135度10分の地点において,開けていた作業備品倉庫右舷側ドア部分から炎が出ているので,急いで同倉庫内を覗いたところ,酸素ボンベ圧力調整器出口から火炎が噴出して周囲の壁などが燃え始めており,同倉庫の火災を認めた。
 当時,天候は曇で風力1の南風が吹き,海上は穏やかであった。
 金剛丸は,A受審人が火災に気付いた乗組員等とともに持運び式消火器や雑用ポンプによる放水で消火作業を行ったところ,11時40分鎮火することができたが,現状では操業に支障があるため操業を中止して帰途につき,翌24日06時00分小木港に入港した。
 その結果,作業備品倉庫,船員室の便所,階段踊り場等を焼損し,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 ステンレス鋼材をガス切断できると判断したこと
2 逆火の知識が十分でなかったこと
3 切断状況の異状を認めた際,速やかに切断作業の中止措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件火災は,切断状況が異状となった際,切断作業の中止措置をとっていたなら,逆火を起こしてゴムホースが破損し,火炎が噴出することがなく,発生は回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,切断状況が異状となったのを認めた場合,速やかに切断の中止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,ステンレス鋼材をガス切断できると判断したこと及び逆火の知識が十分でなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止上の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件火災は,日本海大和堆付近の海域において,酸素アセチレンガス切断器を用いて切断作業中,切断箇所の溶融状態が広がり,同切断器の炎が消える等の異状となった際,速やかに切断作業の中止措置がとられず,逆火を起こして酸素ゴムホースが破損し,火炎が噴出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,日本海大和堆付近の海域において,酸素アセチレンガス切断器を用いて切断作業中,切断箇所の溶融状態が広がり,同切断器の炎が消える等の異状となったのを認めた場合,切断開始直後ステンレス鋼材であることに気付き,同鋼材の切断が初めてで一抹の不安を抱いたのであるから,異常な状況が他に拡大することのないよう,速やかに切断作業の中止措置をとるべき注意義務があった。ところが,同受審人は,切断作業が短時間で終わるので大丈夫と思い,速やかに同作業の中止措置をとらなかった職務上の過失により,逆火を起こして酸素ゴムホースが破損し,火炎が噴出して火災を招き,作業備品倉庫等を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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