日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  転覆事件一覧 >  事件





平成17年横審第29号
件名

漁船第七甚盛丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成17年11月9日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小寺俊秋,黒岩 貢,浜本 宏)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:第七甚盛丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関等を濡損,のち廃船処理,船長が胸部・左肋骨打撲,乗組員が顔面・左肘・左手打撲等

原因
高波に遭遇したこと

主文

 本件転覆は,突然高起した高波に遭遇したことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月18日04時30分
 三重県宿田曽漁港南方沖合
 (北緯34度17.1分 東経136度40.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第七甚盛丸
総トン数 3.67トン
全長 11.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 132キロワット
(2)設備及び性能等
 第七甚盛丸(以下「甚盛丸」という。)は,昭和56年4月に進水し,船体中央部から少し後方にエンジンケーシングと,同ケーシング後部に操縦席を有するFRP製小型遊漁兼用船で,新造時に動力漁船として登録されており,前部甲板に8個及び後部甲板に7個の魚倉が,また,船首部に倉庫1個がそれぞれ設けられ,エンジンケーシングの前方にマストと,同ケーシング上に通風筒が設置され,左舷船首部の舷縁に揚網用ローラが取り付けられていた。
 甚盛丸は,日本小型船舶検査機構鳥羽支部により,平成13年4月に定期検査が,同16年8月に第一種中間検査がそれぞれ実施され,堪航性が確保されていた。

3 事実の経過
 甚盛丸は,A受審人ほか乗組員1人が乗り組み,伊勢えびの刺し網を揚網する目的で,船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年10月18日04時00分三重県宿田曽漁港を発し,同漁港南方約1,000メートル沖合の漁場に向かった。
 A受審人は,宿田曽漁港南側の沖防波堤出入口で海面状態を見定め,そのころ沖縄南方海上を台風23号が西北西進しており,波高約3メートルの南からのうねりがあったが,操業に支障ないものと判断し,04時10分田曽埼灯台から239度(真方位,以下同じ。)900メートル付近の前日刺し網を設置した漁場に至り,機関を中立運転とし,乗組員とともに救命胴衣を着用し,揚網作業を開始した。
 ところで,前示漁場付近の海域は,沖合から海岸に向かって海底が峰状に隆起していて,水深が約25メートルから10メートルまで急激に浅くなっていることから,やや高い波が発生しやすい海域であることが地元の漁業関係者にはよく知られており,A受審人もこのことを知っていたものの,長年,同海域で突然出現した高波による漁船転覆等の事故が発生したことはなく,同人も,乗組員も,同海域で30年ばかり漁業に携わっていたが,転覆の危険を感じるような高波に遭遇したことがなかった。
 A受審人は,月齢が3.9日の暗夜で海面を見通すことができない状況下,周囲10メートルばかりを照らすことができる作業灯と,甲板作業用の照明灯をマストに点灯し,揚網用ローラの横に左舷船首方を向いて立ち,背後で乗組員に網や漁獲物の整理を行わせながら,前日南北方向に設置した40反の刺し網を順次揚網し,04時30分わずか前南東方に向首し,4反目を北から南に向かって揚網していたとき,ふと船首方を見たところ,同方からの突然高起した高波を間近に認めたが,同高波の出現を予期することができなかったので,乗組員に「大波だ。」と叫んだだけで何をする間もなく,甚盛丸は,04時30分田曽埼灯台から239度900メートルの地点において,一瞬のうちに転覆した。
 当時,天候は晴で風力3の南東風が吹き,波高約3メートルの南からのうねりがあり,潮候は上げ潮の中央期であった。
 転覆後A受審人と乗組員は,海面を漂流しながら同受審人が助けを求めて叫んだところ,付近で数隻の僚船が操業しており,その声を聞いた僚船の1隻に救助された。
 転覆の結果,甚盛丸は,機関等に濡損を生じ,僚船によって宿田曽漁港に引き付けられたが,修理費用の都合により,のち廃船処理され,A受審人が胸部・左肋骨打撲を,乗組員が顔面・左肘・左手打撲等をそれぞれ負った。

(本件発生に至る事由)
1 約3メートルの南からのうねりがあったこと
2 操業に支障がない海面状態であると判断して揚網作業を開始したこと
3 海底が峰状に隆起していて水深が急激に浅くなっていたこと
4 高い波が発生しやすい海域であったこと
5 船首方からの突然高起した高波に遭遇したこと
6 遭遇した高波は出現を予期することが困難であったこと

(原因の考察)
 本件は,揚網作業中に船首方からの高波を受けて,一瞬のうちに転覆したものである。
 したがって,出現を予期することが困難である突然高起した高波に遭遇したことは,本件発生の原因となる。
 一般的に,浅海に進入した沖波は,まず波高が低くなり,水深が波長の6分の1のところで波高が最小となるが,そこから海岸に向けて再び高くなり,水深が波高に近づくと波は砕ける。このときの砕波高が沖での波高の2倍以上になる場合もあり,この現象が発生する水深や砕波高は,波の周期や海底の勾配に影響されることが知られている。
 このことから,約3メートルの南からのうねりがあったこと,海底が峰状に隆起していて水深が急激に浅くなり,高い波が発生しやすい海域であったことは,高波出現の要因となったものと推認される。
 A受審人が,操業に支障がない海面状態であると判断して揚網作業を開始したことは,同人が本件発生海域で30年ばかり漁業に従事した過去の操業経験から判断したものであり,僚船数隻も同様に操業していて,本件発生前後に転覆の危険を感じるような高波を認めていないことから,同人の判断を非難することはできず,甚盛丸を転覆に至らしめるほどの高波の出現を予測することは困難であったと認められ,原因とすることはできない。
 また,高波を認めて一瞬のうちに転覆したことから,結果回避の可能性もなかったものと認められるので,A受審人の所為に原因を求めることはできない。

(海難の原因)
 本件転覆は,夜間,三重県宿田曽漁港南方沖合において,伊勢えびの刺し網を揚網中,突然高起した高波に遭遇したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION