(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月14日13時45分
和歌山県紀伊宮崎ノ鼻灯台西方沖合
(北緯34度04.4分 東経135度04.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートブースカ |
全長 |
2.50メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
2.9キロワット |
3 事実の経過
ブースカは,FRP製無甲板型ボートで,A受審人が1人で乗り組み,友人1人を同乗させ,魚釣りの目的で,船首尾とも0.25メートルの喫水をもって,平成17年5月14日09時10分紀伊宮崎ノ鼻灯台から106度(真方位,以下同じ。)740メートルの,和歌山下津港有田区南部に位置する女ノ浦海岸を発し,沖合200メートルから500メートルのところで漂泊しながら釣りを開始した。
ところで,ブースカは3分割できる組立式ボートで,A受審人が自宅から車に乗せて女ノ浦海岸に運び組み立てたもので,その乾舷は約20センチメートルと小さく,装備する船外機も小型で,航海速力は人が早足で歩く程度であった。
A受審人は,平成14年9月に四級小型船舶操縦士の免許を取得し,翌15年4月から2箇月に1度ほどブースカに乗船して釣りを行ってきたが,自船の堪航性を考え,和歌山県宮崎ノ鼻北東側とそれに続く女ノ浦海岸及び箕島漁港の西防波堤に囲まれた東西約600メートル南北約500メートルの,北に開口した小湾内から外に出て釣りをすることはなかった。
11時30分ごろA受審人は,釣果がほとんどないまま帰途につこうとしたところ,同乗の友人から宮崎ノ鼻の岩場で根魚を釣ろうと誘われ,発航前にインターネットで地域の気象状況を確認し,特に荒天の気配もなく,海上も穏やかであったことから,少しぐらい湾外に出ても大丈夫と思い,宮崎ノ鼻の周囲は崖と干出岩に囲まれて避難地がなかったが,ブースカの堪航性を考慮して湾内に留まることなく,紀伊水道に直面した宮崎ノ鼻先端部を迂回して同鼻南側の磯際に釣り場を移動し,12時30分ごろから釣りを開始した。
13時40分ごろA受審人は,北西風が吹き出して海面に白波が立ち始めたので女ノ浦海岸に戻ることとし,船尾左舷側に座り右手で船外機の操縦レバーを操作して紀伊宮崎ノ鼻灯台から183度150メートルの地点を発進して帰途についた。
13時44分少し前A受審人は,紀伊宮崎ノ鼻灯台から242度210メートルの地点に達したとき,針路を004度に定め,左舷前方からの波を避けて機関を微速力前進とし,2.0ノットの対地速力で宮崎ノ鼻先端部を進行中,13時45分紀伊宮崎ノ鼻灯台から264度180メートルの地点において,北西方からの波が船首から船内に打ち込み,乾舷が小さくなったところに2回目の波が打ち込んで水船となり,航行不能となった。
その後船体が空気室の浮力で直立状態となり,A受審人及び同乗者は近くの磯に泳ぎ着いて付近航行中の遊漁船に救助され,船体は箕島漁港に引き付けられた。
当時,天候は曇で風力3の北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,海上には高さ約0.4メートルの波があった。
その結果,船体には異常がなかったが,船外機にぬれ損を生じた。
(海難の原因)
本件遭難は,乾舷が小さい無甲板型組立式ボートで和歌山下津港の女ノ浦海岸を発して沖合で魚釣りをする際,同ボートの堪航性を考慮した釣り場の選定が不適切で,同海岸から離れた宮崎ノ鼻南側の釣り場に移動して釣りを行い,海面に白波が立ち始め女ノ浦海岸に戻ろうとして航行中,船首方からの波が船内に打ち込んで水船となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,和歌山下津港南部に位置する宮崎ノ鼻東方の女ノ浦海岸において,小型船外機を付けた乾舷が小さい無甲板型組立式ボートをおろし,沖合で魚釣りをする場合,同ボートの堪航性を十分に考慮して,海面の状態が悪化したときに速やかに避難できるよう,同海岸から離れていない適切な釣り場を選ぶべき注意義務があった。ところが,同人は,海上が穏やかであったから大丈夫と思い,自船の堪航性を考慮して女ノ浦海岸沖合の小湾内に留まるなど,適切な釣り場を選定しなかった職務上の過失により,海面に白波が立ち始め女ノ浦海岸に戻る途中,宮崎ノ鼻先端部付近において船首方からの波が船内に打ち込み,水船となって航行不能となり,船外機にぬれ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。