(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月26日13時28分
神奈川県相模川河口
(北緯35度18.8分 東経139度22.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートセルフィッシュ |
全長 |
6.87メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
66キロワット |
3 事実の経過
セルフィッシュ(以下「セ号」という。)は,船体中央の右舷側に,船首方と左右両舷方とを風防で囲った操縦席を有し,船外機を装備した最大搭載人員10人のFRP製プレジャーモーターボートで,平成16年7月一級小型船舶操縦士と特殊小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,知人4人を乗せ,ウエイクボード等のレジャーの目的で,船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって,平成16年8月26日08時30分神奈川県相模川左岸の河口から約2,300メートル上流に定めた係留地を発し,同河口の南方沖合に向かった。
ところで,A受審人は,相模川河口付近で磯波が高起しやすいことや,同河口の右岸に隣接して平塚漁港(新港)(以下「(新港)」を省略する。)が築造され,同漁港が,同河口の右岸から南西方向に築かれ,同方向に開口した防波堤によって磯波を防ぐことができることを知っていた。
A受審人は,発航後約1,800メートル南下し,湘南大橋のところで相模川河口付近の磯波の状態が航行に支障ないことを確かめ,同河口を航過し,南方沖合に至ってレジャーを楽しんだのち,13時25分半平塚波浪観測塔(以下「観測塔」という。)から105度(真方位,以下同じ。)2,100メートルの地点を発進して帰途につき,針路を000度に定め,機関を回転数毎分3,500にかけ20.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
13時27分A受審人は,観測塔から082度2,090メートルの地点に達したとき,沖合では約1.5メートルであったうねりが,船首方約600メートルの相模川河口付近で波高約3メートルまで高起した磯波となって砕けているのを認め,そのまま続航することに多少の不安を感じたものの,これまで,同様の状況で同河口付近を北上した経験があったことから,波に乗って北上すれば同河口を無難に航過できると思い,磯波の危険性に対する配慮を十分に行わず,一時平塚漁港に避難するなど,同河口への進入を中止しなかった。
A受審人は,13時28分少し前約10ノットに減速して波に乗ろうと試みたが乗り切れずに続航中,セ号は,13時28分観測塔から065度2,200メートルの地点において,機関が船尾方で砕けた磯波による海水を被って(かぶって)停止し,操船不能となった。
当時,天候は曇で風力2の南西風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,西湘地域には波浪注意報が発表されていた。
その結果,機関を濡れ損し,相模川河口右岸の消波ブロックに打ち寄せられ,A受審人及び同乗者は陸路避難し,船体はその後の波浪により損壊した。
(海難の原因)
本件遭難は,神奈川県相模川河口の南方沖合において,同川上流の係留地に向けて北上中,同河口付近で高起した磯波が砕けているのを認めた際,同波の危険性に対する配慮が不十分で,同河口への進入を中止しないまま北上し,機関が海水を被って停止し,操船不能となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,神奈川県相模川河口の南方沖合において,同川上流の係留地に向けて北上中,河口付近で高起した磯波が砕けているのを認めた場合,同波による海水を被るおそれがあったから,同川河口右岸に隣接する平塚漁港に一時避難して同河口への進入を中止するなど,同波の危険性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,これまで,同様の状況で同河口付近を北上した経験があったことから,波に乗って北上すれば無難に同河口を航過できると思い,同波の危険性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により,同河口への進入を中止しないまま北上し,機関が海水を被って停止し,操船不能となって同河口右岸の消波ブロックに打ち寄せられる事態を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。