日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成17年長審第60号
件名

漁船拓海301乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年12月15日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:拓海301船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船体中央部から後方の船底に亀裂を伴う擦過傷,プロペラ,プロペラ軸及び舵柱に曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月19日06時00分
 長崎県太郎ヶ浦漁港西方沖合地ノ六瀬
 (北緯33度14.8分 東経129度32.9分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船拓海301
総トン数 18トン
登録長 20.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 180

3 事実の経過
 拓海301(以下「拓海号」という。)は,B社が所有・運航する,網船1隻と灯船3隻及び運搬船4隻で構成された中型まき網漁業船団付属のFRP製灯船で,A受審人(平成元年4月一級小型船舶操縦士免許取得,同16年3月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み,操業の目的で,平成17年1月12日船団とともに係留地の長崎県太郎ヶ浦漁港を発して漁場に向かい,その後,同県生月島沖合で13時ごろから翌日未明まで操業に従事したのち,錨泊もしくは漂泊して休息する就労形態を繰り返した。そして,同月18日未明に生月島付近の海域で当日の操業を終え,同島にある生月漁港に入港して休息したのち,同日15時00分船首0.80メートル船尾2.15メートルの喫水をもって,同漁港を発して沖合に向かい,17時ごろ生月島北西方沖合約7海里の漁場に到着して操業に従事した。
 翌19日04時30分A受審人は,天候が悪化したので,操業を打ち切って船団とともに帰航することにし,機関を全速力前進にかけて大碆鼻灯台から294度(真方位,以下同じ。)6.8海里の地点に当たる漁場を発進し,係留地に向けて帰途に就いた。
 発航後,A受審人は,操舵室の窓を閉め,暖房をかけて室温を20度に設定し,同室前部右舷側にある舵輪の後方に備え付けた乗用車の運転シートに座って操舵操船に当たり,船団に先航して白岳瀬戸から平戸瀬戸を航行した。
 A受審人は,05時41分半青砂埼灯台から296度0.2海里の地点を通過したのち,自動操舵として長崎県平戸島東岸沖合を南下するうち,約1週間に及ぶ操業の疲れと単調な航海当直から眠気を催すようになったが,太郎ヶ浦漁港まで近いので,まさかそれまでの間に居眠りすることはあるまいと思い,手動で操舵に当たるとか,操舵室の窓を開けて外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとらないまま,平素のように,同県下忠六島に並航したのち同漁港に向けて針路を転じるつもりで進行した。
 05時53分少し前A受審人は,大観山山頂(374メートル)から314度3.2海里の地点に達したとき,下忠六島を左舷側に約0.1海里離すよう針路を180度に定め,機関を全速力前進にかけたまま,17.0ノットの速力で,依然として,居眠り運航の防止措置をとることなく,自動操舵として運転シートに座ったまま当直に当たっているうち,いつしか居眠りに陥った。
 こうして,A受審人は,05時57分少し過ぎ下忠六島に並航して転針予定地点に達したものの居眠りしていたのでこのことに気付かず,転針する措置をとらないで続航中,拓海号は,06時00分大観山山頂から275度2.4海里の地点に存在する,地ノ六瀬と称する険礁に,原針路,原速力のまま乗り揚げ,これを擦過した。
 当時,天候は晴で風力3の北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,拓海号は,船体中央部から後方の船底に亀裂を伴う擦過傷を,プロペラ,プロペラ軸及び舵柱にそれぞれ曲損を生じたが,後続の僚船に横抱きされて太郎ヶ浦漁港に入港し,のち損傷部は修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,漁場から長崎県太郎ヶ浦漁港に向けて同県平戸島東岸沖合を南下中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同漁港西方沖合の険礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,漁場から長崎県太郎ヶ浦漁港に向けて同県平戸島東岸沖合を南下中,約1週間に及ぶ操業の疲れと単調な航海当直から眠気を催すようになった場合,手動で操舵に当たるとか,操舵室の窓を開けて外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし,同人は,太郎ヶ浦漁港まで近いので,まさかそれまでの間に居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠り運航となり,転針する措置をとらないまま,同漁港西方沖合に存在する地ノ六瀬と称する険礁に向首進行して乗揚を招き,拓海号の船体中央部から後方の船底に亀裂を伴う擦過傷を,プロペラ,プロペラ軸及び舵柱にそれぞれ曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION