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平成17年那審第7号
件名

押船第八龍美乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年12月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平,平野研一,安藤周二)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第八龍美船長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
船首船底凹損及びビルジキール曲損

原因
走錨防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,走錨防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月5日04時30分
 沖縄県運天港(羽地内海)
 (北緯26度38.0分 東経128度00.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第八龍美
総トン数 194トン
全長 32.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,574キロワット
(2)設備及び性能等
 第八龍美は,平成8年12月に進水した,限定近海区域を航行区域とする二層甲板型の鋼製押船で,上甲板前部に5層の船員居住区及び最上層に操舵室を有し,上甲板下には,船首から順にフォアピークタンク,1番バラストタンク,燃料油タンク,2番バラストタンク,機関室,3番バラストタンク及び舵機室をそれぞれ配置し,機関室底部には総重量100.55トンの固定バラストを保有していた。
 操舵室には,前部の中央に自動操舵装置を設けた操舵スタンド,左舷側にレーダー1台,右舷側に主機遠隔操縦盤及び天井の中央付近にGPSプロッターをそれぞれ設置しており,風向風速計は装備していなかった。
 係船設備として,船首左右両舷にいずれも重量520キログラムのストックレスアンカー及び直径25ミリメートルで全長150メートル,6節の錨鎖を装備した揚錨機を設置し,船首及び両舷にピン式連結装置を備え,平素,同装置により,長さ85メートル幅25メートル深さ5メートルの台船B号の船尾に設けたノッチ部に連結されていた。

3 事実の経過
 第八龍美は,専ら台船B号と連結し,沖縄島や奄美大島などから与論島に向けて工事用砕石の輸送業務に就いていたところ,南東方から南西諸島に接近した台風第17号を避難することとしたが,鹿児島県与論港内には十分な水深を有した水域がないことから,A受審人ほか2人が乗り組み,台船との連結を解いて全バラストタンクに海水バラストを漲水し,船首2.8メートル船尾4.8メートルの喫水をもって,平成16年8月21日09時30分与論港を発し,沖縄県運天港港奥の羽地内海に至ったのち,13時20分左舷錨を投じ,錨鎖を6節まで延出して単錨泊とした。
 ところで,運天港は沖縄島本部半島の東側に位置し,北側を屋我地島,東側を奥武島,西側と南側を沖縄島の陸岸に囲まれる羽地内海と称する港奥水域は,東西の長さ約2海里南北の長さ約1.5海里で,各方向からの風波の影響を和らげるうえ,うねりの侵入を防ぐことができるので,同水域内の長さ約2海里幅約0.4海里の5メートル等深線で囲まれた範囲が,1,000トン以下の船舶や台船等の荒天時及び台風時の避泊地として利用され,同等深線の陸岸側は干出さんご礁が広がる浅礁域となっていた。
 A受審人は,その後さらに台風第16号が沖縄島に接近していることを知り,同月24日台風第17号が同島南方を通過して風が弱まったので,錨地を移動して二錨泊することとし,08時50分揚錨したのち,09時20分,周囲の5メートル等深線からほぼ400メートル離れた,名護市奥武島所在の29メートル頂三角点(以下「奥武島三角点」という。)から255度(真方位,以下同じ。)1,950メートルの地点で,水深7.5メートル,陸岸まで500メートルのところに右舷錨を,同地点から30メートル北西に移動して左舷錨をそれぞれ投入したのち,南西方に後進しながら両舷錨鎖とも6節一杯まで延出して両錨とも効いたことを確認し,最も近い陸岸まで350メートルとなって二錨泊を開始した。
 A受審人は,同月30日台風第16号が沖縄島北東方を通過したのち,新たに同島南東方で発生した台風第18号が接近する可能性があったことから,同台風の様子を見ることとして二錨泊を続けた。
 越えて9月4日A受審人は,台風第18号が沖縄島に接近する状況で,06時11分沖縄本島北部沿岸海域に波浪警報及び強風注意報が発表され,正午ごろから風力6となり,その後更に強まって風力7に達したことから,22時ごろ操舵室で単独の守錨当直に就き,翌5日01時34分暴風,波浪警報が発表されたことを知ったのち,風速が毎秒15メートルを超えるようになったので,02時00分機関用意とした。
 A受審人は,0.25海里レンジとしたレーダーを監視するとともにGPSプロッターを時々作動させて船位を確認する一方,台風第18号の接近に伴って錨泊船が増加し,ほぼ035度に向首した自船の付近には,右舷前方150メートルと200メートル及び左舷前方100メートルと200メートルのところに,4隻の船舶がそれぞれ錨泊していたことから,他船の状況の監視に当たった。
 A受審人は,04時00分に船位を確認したころから風勢が強まり,北北東風が風速毎秒20メートルを超えるようになったのを認め,風浪のみでうねりの侵入はないものの,自船は甲板上の構造物が大きいので,風圧の影響を大きく受けて走錨するおそれがある状況となっていたが,両舷錨鎖をそれぞれ6節一杯まで延出しているので,これぐらいの風なら持ちこたえることができるものと思い,主機を使用して錨鎖にかかる張力を緩和するなどの走錨防止措置を十分にとることなく,守錨当直を続けた。
 こうして,A受審人は,強まった風により他船が走錨して自船に接近することを心配し,他船の状況を監視しながら守錨当直を続けていたところ,自船が走錨し始めたものの,このことを認識しないまま,04時30分奥武島三角点から248度2,250メートルの地点において,第八龍美は,その船首を035度に向けて陸岸近くの浅礁に乗り揚げた。
 当時,天候は雨で風力9の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 乗揚の結果,船底外板に凹損及びビルジキールに曲損を生じたが,救助船により引き下ろされ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 最も近い陸岸まで350メートルとなっていたこと
2 暴風,波浪警報が発表され,風速毎秒20メートルを超える北北東風が吹いていたこと
3 付近に他船が錨泊していたこと
4 甲板上の構造物が大きく,風圧の影響を大きく受けていたこと
5 主機を使用して錨鎖にかかる張力を緩和するなどの走錨防止措置を十分にとらなかったこと
6 走錨を認識しなかったこと

(原因の考察)
 本件は,四方を島と陸岸で囲まれ,台風接近時の避泊地として利用される羽地内海において,台風避難のため二錨泊中,風勢が強まった際,主機を使用して錨鎖にかかる張力を緩和するなどの走錨防止措置を十分にとっていれば,走錨を防止することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,風勢が強まり,北北東風が風速毎秒20メートルを超えるようになったのを認めた際,主機を使用して錨鎖にかかる張力を緩和するなどの走錨防止措置を十分にとらなかったことは本件発生の原因となる。
 暴風,波浪警報が発表され,風速毎秒20メートルを超える北北東風が吹いていたこと,甲板上の構造物が大きく,風圧の影響を大きく受けていたこと,付近に他船が錨泊していたこと及び最も近い陸岸まで350メートルとなっていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,風勢が強まった際には,これらの状況の下で,走錨防止措置をとることが求められるのであり,同措置をとることの妨げとなるものではなかったから,いずれも本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 A受審人が,走錨を認識しなかったことについては,船尾方向に圧流され始めたのちには,船位を保つことも,揚錨して再び投錨することも可能であったとは認められないから,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,台風避難のため,羽地内海において二錨泊中,風勢が強まった際,走錨防止措置が不十分で,走錨して風下の浅礁に圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が,台風避難のため,羽地内海において二錨泊中,風勢が強まり,北北東風が風速毎秒20メートルを超えるようになったのを認めた場合,風下に圧流されないよう,主機を使用して錨鎖にかかる張力を緩和するなどの走錨防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,両舷錨鎖をそれぞれ6節一杯まで延出しているので,これぐらいの風なら持ちこたえることができるものと思い,走錨防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,走錨して風下の浅礁に圧流されて乗揚を招き,船底外板に凹損及びビルジキールに曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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