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平成17年門審第88号
件名

貨物船第一エーコープ乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年12月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年)

副理事官
三宅和親

受審人
A 職名:第一エーコープ船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
球状船首の圧壊を含む同周辺外板の損壊,バウスラスター原動機及びプロぺラ翼に損傷

原因
船橋当直の維持措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,正常な船橋当直を維持する措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月6日22時15分
 速吸瀬戸牛島
 (北緯33度17.4分 東経131度56.0分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一エーコープ
総トン数 499トン
全長 76.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第一エーコープは,貨物倉1個を有する全通二層甲板の船尾船橋型貨物船で,操舵室前面中央にレピータコンパスが組み込まれた操舵スタンド,その左舷側にレーダー2台及びGPSプロッタを,同右舷側にジャイロコンパス及び主機遠隔操縦装置を配備したほか,バウスラスターを備えており,A受審人ほか4人が乗り組み,おがくず873トンを積載し,船首3.48メートル船尾4.10メートルの喫水をもって,平成17年6月6日15時15分呉港広区を発し,沖縄県運天港に向かった。
 ところで,A受審人は,船橋当直を4時間交替の単独3直制とし,0時から4時の当直を二等航海士,4時から8時の当直を一等航海士,8時から12時の当直を自らとしていた。
 20時00分A受審人は,伊予灘南東部の,襖鼻灯台から332度(真方位,以下同じ。)5.8海里の地点で,前直の一等航海士と交替して単独の船橋当直に就き,引き続き針路を223度とし,機関を全速力前進にかけ,折りからの潮流の影響で左方に2.5度ばかり圧流されながら9.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
 20時37分A受審人は,見舞埼灯台から006.5度4.0海里の地点に差しかかったとき,夕食時の食べ物に食あたりしたものか,体調不良となり,その後,下痢と嘔吐で度々便所へ行く状態を繰り返し,その度に船橋を無人とすることとなり,同状態では安全運航に支障を来す状況となったが,航海士に迷惑を掛けたくないと思い,休息中の一等航海士を呼んで状況を説明し,代わりの航海士を立直させるなどして正常な船橋当直を維持する措置をとらなかった。
 A受審人は,操舵室へ戻る度にGPSプロッタの画面を眺めて航跡を確認していたものの,体調不良をこらえることに集中し,レーダーを活用して船位を確認することや見張りを行うことなど,安全運航にかかわる注意力が著しく低下し,圧流されて船位が予定針路より佐田岬側に大きく偏位していることに気付かず,同じ針路,同じ速力及び圧流状態のまま続航した。
こうして,A受審人は,21時26分半佐田岬灯台から017度2.7海里の地点に達したとき,便所から操舵室に戻り,舵輪左側の操舵スタンドに前方を向いて寄り掛かり,体調不良をこらえていたところ,脱水症状を引き起こしたものか意識が朦朧(もうろう)となった。
 第一エーコープは,21時42分半佐田岬灯台を左舷側に1.0海里で並航し,やがて速吸瀬戸を南下するための針路に転ずべき頃合いとなったが,A受審人がこのことに気付かず,転針が行われないまま,同瀬戸南西部にある牛島に向かって進行し,22時15分関埼灯台から048.5度2.1海里の地点において,原針路,原速力のまま牛島に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の南風が吹き,視界は良好で,潮候は下げ潮の初期であった。
 A受審人は,乗揚の衝撃で意識が戻り,事後の措置にあたった。
乗揚の結果,球状船首の圧壊を含む同周辺外板の損壊を生じてフォアピークタンクに浸水したほか,バウスラスター原動機及びプロぺラ翼を損傷したが,間もなく自力離礁し,予定を変更して自力で鹿児島港の造船所に向かい,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,伊予灘南東部において,速吸瀬戸を通航する予定で佐田岬北岸沖を南西進中,単独の船橋当直者が体調不良となった際,正常な船橋当直を維持する措置が不十分で,転針予定地点を航過し,同瀬戸南西部にある牛島に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,伊予灘南東部において,単独の船橋当直に就き,速吸瀬戸を通航する予定で佐田岬北岸沖を南西進中,体調不良で船橋を度々無人とする状態となった場合,安全運航に支障を来すことのないよう,休息中の一等航海士を呼んで状況を説明し,代わりの航海士を立直させるなどして正常な船橋当直を維持する措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,航海士に迷惑を掛けたくないと思い,正常な船橋当直を維持する措置を十分にとらなかった職務上の過失により,自らが同当直を続けるうち意識が朦朧となって転針予定地点を航過し,同瀬戸南西部にある牛島に向かっていることに気付かず進行して乗揚を招き,球状船首の圧壊を含む同周辺外板の損壊を生じてフォアピークタンクに浸水させたほか,バウスラスター原動機及びプロぺラ翼に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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