(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年1月9日12時45分
福岡県玄界島西方沖合
(北緯33度41.4分 東経130度09.4分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
押船第二十五若栄丸 |
バージ第27若栄丸 |
総トン数 |
135トン |
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全長 |
33.66メートル |
90.07メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
2,942キロワット |
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(2)設備及び性能等
第二十五若栄丸(以下「若栄丸」という。)は,平成10年10月に進水した限定沿海区域を航行区域とする,2機2軸の全通2層甲板中央機関型の鋼製押船で,船体中央やや前部には5層からなる甲板上の高さ約14メートルの船橋が設けられ,船橋中央に舵輪を,同前面の左舷側から右舷側にかけて,GPS,レーダー2台,ジャイロコンパスレピーター及び主機遠隔操縦台を,右舷後部に海図台をそれぞれ備えていた。また,船体中央やや前部の両舷及び船首端には,はしけに嵌合して結合する油圧式のピンを設備していた。
第27若栄丸(以下「バージ」という。)は,平成10年に建造された3,674トン積み非自航式の砂利石材等採取運搬業に従事する鋼製バージで,船尾部甲板上に居住区を,船体中央部に長さ26.65メートル,幅16.00メートルの船倉1個を,船底及び船倉の左舷側にバラストタンクを有する構造で,船首部甲板上にクレーン1基が,船首部にサイドスラスターがそれぞれ装備され,船尾に押船の船首が嵌合できるように,船尾端から前方に縦13.8メートル幅9.9メートルの凹部が設けられ,若栄丸に押されて稼働しており,佐賀県唐津湾沖合で海砂を採取,積載して広島県福山港に運搬していた。
3 事実の経過
若栄丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,船倉に約3,000トンの海水バラストを積載して船首3.6メートル船尾5.6メートルの喫水となったバージの船尾凹部に船首部を嵌合させ,全長約110メートルの押船列(以下「若栄丸押船列」という。)を構成し,海砂採取及び運搬の目的で,船首3.2メートル船尾3.9メートルの喫水をもって,平成17年1月8日17時50分福山港を発し,唐津湾沖合に向かった。
A受審人は,翌9日10時00分福岡県妙見埼北方沖合で一等航海士から船橋当直を引き継ぎ,単独で同当直に就いて西行し,11時00分倉良瀬灯台から212度(真方位,以下同じ。)2.1海里の地点で,針路を227度に定め,引き続き機関を全速力前進に掛け,11.0ノットの対地速力で自動操舵により進行し,同時30分ごろ海砂採取中の先船から,予定の採取区域及びその北方3.5海里ばかりのところの同区域(以下,北方の採取区域を「北区域」という。)でそれぞれ2隻の船が採取中で,いずれの区域にも入域できないとの情報を得た。そして,同時55分ごろ再度両区域の状況を確認したところ,北区域で採取中の同業船の1隻が早く終わりそうだとの情報を得たことから,自船の運航者と連絡を取ったのち,12時20分ごろ北区域に向かうこととした。
ところで,A受審人は,玄界灘の通航経験が数限りなくあったので,長間礁灯標の南南東方1,400メートルばかりのところに中之瀬の浅礁が存在することを知っていた。
12時28分A受審人は,玄界島灯台から307度1.1海里の地点に達したとき,北区域の中央付近に向く針路をGPSプロッタで読み取り,右舷前方3.5海里ばかりのところの長間礁灯標を目視し,同灯標の南方1海里ばかりのところを通航すれば中之瀬を無難に航過できると考え,このころ風力5の北西の風が吹いていたことから,風浪による左方への圧流を見込んで,針路を5度ばかり右に偏した259度に転じた。
A受審人は,北区域での採取作業を初めて行うことになり,同区域での採取状況を記入する詳細な区域図を作成する必要があったので,海図台に向かって同区域図の作成作業に取り掛かり,自動操舵のまま同じ速力で続航した。
その後,A受審人は,風浪の影響が見込みより少なく,左方に2度圧流されるのみであり,そのまま進行すれば中之瀬に向かう状況であったが,詳細な区域図を作成することに熱中し,レーダーを有効に活用するなどして船位の確認を十分に行わなかったので,この状況に気付かなかった。
若栄丸押船列は,同じ針路及び速力で続航中,12時45分長間礁灯標から154度1,400メートルの中之瀬に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力5の北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,若栄丸は連結装置を損傷し,バージは船底外板全般にわたり亀裂をともなう凹損を生じたが,海水バラストを排出して自力離礁し,のち,いずれも修理された。
(本件発生に至る事由)
1 海砂採取区域が変更になったこと
2 風力5の北西風が吹いていたこと
3 風力5の北西の風が吹いていたことから,風浪による左方への圧流を見込んで,5度ばかり右に偏した針路に転じたこと
4 海図台に向かって海砂採取区域のデータを記入する詳細な区域図を作成する作業に熱中していたこと
5 船位の確認を十分に行わなかったこと
(原因の考察)
本件は,船位の確認を十分に行っていれば,圧流状況が分かり中之瀬を無難に航過でき,乗揚を回避できたものと認められる。
A受審人は,左方への圧流を見込んで右偏した針路をとっており,圧流量が少なければ中之瀬に向かうおそれがあったのであるから,船位の確認を十分に行っていれば,圧流量が少ないことが分かり,転針して予定通り長間礁灯標の南方1海里ばかりを通航でき,同瀬への乗揚を未然に防げた。
従って,A受審人が,海図台に向かって海砂採取区域のデータを記入する詳細な区域図を作成する作業に熱中していて,船位の確認を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
海砂採取区域が変更になったこと,風力5の北西風が吹いていたこと,及びA受審人が風力5の北西の風が吹いていたことから,風浪による左方への圧流を見込んで,5度ばかり右に偏した針路に転じたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件乗揚は,福岡県玄界島西方の玄界灘において,唐津湾沖合の海砂採取区域に向けて航行する際,船位の確認が不十分で,中之瀬に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,福岡県玄界島西方の玄界灘において,唐津湾沖合の海砂採取区域に向かう目的で,右舷前方に中之瀬を望む予定針路で西行する場合,左方への圧流を見込んで右偏した針路をとっており,圧流量が少なければ同瀬に向かうおそれがあったのであるから,レーダーを有効に活用するなどして,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,海図台に向かって海砂採取区域のデータを記入する詳細な区域図を作成する作業に熱中していて,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,圧流量が少なく同瀬に向かっていることに気付かず進行して乗揚を招き,若栄丸の連結装置を損傷させ,バージ船底外板全般にわたり亀裂をともなう凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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