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平成17年広審第111号
件名

貨物船美咲丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年12月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:美咲丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
船首部船底外板に亀裂を伴う凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月19日23時15分
 香川県男木島西岸
 (北緯34度25.2分 東経134度03.2分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船美咲丸
総トン数 199トン
登録長 52.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット

3 事実の経過
 美咲丸は,主としてパルプの運送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人が船長と2人で乗り組み,パルプ350トンを積載し,船首2.40メートル船尾3.75メートルの喫水をもって,平成16年9月19日18時30分愛媛県三島川之江港を発し,静岡県田子の浦港に向かった。
 A受審人は,実質の船長職を執っており,発航操船に当たったのち弟と船橋当直を交替して夕食を摂り,19時30分単独の同当直に就いて備讃瀬戸東航路を東行し,22時29分小槌島灯台から042度(真方位,以下同じ。)900メートルの地点において,針路を同航路に沿う077度に定め,機関を全速力前進にかけたところ,折からの潮流の影響で右方に3度圧流されて080度の進路となり,8.2ノットの対地速力で,所定の灯火を表示し,自動操舵により進行した。
 ところで,A受審人は,自らと船長のほか一等航海士を含めた3人で3時間ずつの船橋当直に当たっていたところ,同航海士が所用のため下船したので,同当直を船長と6時間交替で行うことに変更し,自らは,午前午後とも6時から12時までを受け持つこととしていた。また,同人は,荷役作業が陸上の作業員によって行われていたので,荷役中は休息することができ,疲労や睡眠不足を感じるような状況ではなかった。
 22時57分半A受審人は,単独で船橋当直に当たり,付近に航行の妨げとなる船舶を見かけなかったことから,舵輪後方に置いた背もたれと肘掛け付きのいすに腰掛けて周囲を見張っていたところ,気の緩みから眠気を催すようになり,そのまま続航すれば居眠り運航になるおそれがあったが,まさか居眠りすることはないものと思い,立った姿勢で手動操舵に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,いすに腰掛けたまま続航した。
 A受審人は,間もなく居眠りに陥り,23時ごろ備讃瀬戸東航路に沿うよう転針することができず,香川県男木島西岸に向首したまま進行し,23時15分男木港一文字防波堤灯台から115度180メートルの地点において,美咲丸は,原針路原速力のまま,同西岸に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,付近には2.0ノットの南西流があった。
 乗揚の結果,船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが,引船によって引き降ろされ,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,備讃瀬戸を東行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,香川県男木島西岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,備讃瀬戸において,単独で操舵と見張りに当たり,背もたれと肘掛け付きのいすに腰掛けて東行中,気の緩みから眠気を催すようになり,そのまま続航すれば居眠り運航になるおそれがあった場合,立った姿勢で手動操舵に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはないものと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,いつしか居眠りに陥り,香川県男木島西岸に向首したまま進行して同西岸への乗揚を招き,船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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