(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年1月1日03時15分
瀬戸内海 怒和島水道
(北緯33度59.6分 東経132度31.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船福久丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
58.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
625キロワット |
3 事実の経過
福久丸は,限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型貨物船で,A受審人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,定期検査受検の目的で,船首2.00メートル船尾2.55メートルの喫水をもって,平成16年12月31日12時30分神戸港を発し,長崎県佐世保港に向かった。
A受審人は,佐世保港までの船橋当直を,自らと甲板員の2人による単独6時間制とし,狭水道通航時の操船などは自ら行うほか,当直者の食事交替には機関長を昇橋させることとしていた。
ところで,A受審人は,12月28日夜神戸港に投錨して29日朝に着岸し,30日及び31日の2回に分けて揚荷したのちに発航したもので,その間休息を十分にとることができたことから,睡眠不足の状態ではなかった。
23時00分A受審人は,愛媛県宮ノ窪瀬戸東方4海里ばかりの地点で昇橋して当直に就き,前直の甲板員を引き続き在橋させて同瀬戸を通航し,越えて平成17年1月1日01時00分大下瀬戸南方に達したとき,同甲板員を降橋させて単独で当直に就き,電気ストーブ2台をつけ,操縦スタンド後方に置いたいすに腰を掛け,自動操舵により安芸灘を西行した。
02時23分A受審人は,安居島灯台から211度(真方位,以下同じ。)1.8海里の地点で,クダコ水道北口に向かうため,針路を怒和島の風切鼻灯台に向首する244度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で進行した。
02時46分A受審人は,歌埼灯台から259度1.3海里の地点に達したとき,左舷前方2海里ばかりのクダコ水道を通航する北上船の右舷灯を視認したので,同船と左舷を対して航過するため,自動操舵のまま針路を256度に転じた。
A受審人は,針路を転じたのち,眠気を催すようになったが,発航前の神戸港停泊中に休息を十分とっていたのでまさか居眠りすることはあるまいと思い,いすから立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,いすに腰を掛けて当直を続けているうち,いつしか居眠りに陥った。
こうして福久丸は,A受審人が居眠りに陥ったまま続航し,02時56分風切鼻灯台から051度1.2海里の地点にあたるクダコ水道に向かう転針点に達したが,転針することができず,怒和島水道の流レ児島に向首したまま進行し,03時15分オコゼ岩灯標から285度1,300メートルの地点において,原針路,原速力で,同島東岸に乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力2の西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,球状船首に亀裂を伴う凹損を生じたが,救援船により引き降ろされ,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,安芸灘南部を西行する際,居眠り運航の防止措置が不十分で,怒和島水道の流レ児島に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,安芸灘南部において,単独で船橋当直に就いていすに腰を掛けて西行中に眠気を催した場合,そのままの姿勢でいると居眠りに陥るおそれがあったから,いすから立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,発航前には休息を十分とっていたのでまさか居眠りすることはあるまいと思い,いすから立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,予定の転針ができず,怒和島水道の流レ児島に向首したまま進行して乗揚を招き,球状船首に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。