(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月10日23時30分
福井県鋸埼西方沖合
(北緯35度32.8分 東経135度39.3分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
モーターボート清和 |
全長 |
9.97メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
91キロワット |
(2)設備及び性能等
清和は,昭和55年8月に第1回定期検査を受けた,船体中央に操舵室を設けたFRP製モーターボートで,操舵室には中央に舵輪があって,その前に操舵用マグネットコンパス,魚群探知機などが装備され,ポータブル型のGPSプロッターを持ち込んでいた。
3 事実の経過
清和は,A指定海難関係人が無資格のまま乗り組み,友人4人を同乗させ,魚釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成16年10月10日14時30分福井県内浦港音海地区を発し,成生岬北方沖合の釣場に向かった。
ところで,今回の魚釣りに当たって,A指定海難関係人は,友人4人のうち1人が小型船舶操縦免許証を受有していることを知っていたが,A指定海難関係人は自身が清和の実質的な船長であると考えて,その有資格者に清和の運航に関する決定や操縦を委ねることはなく,その有資格者も自分が船長として乗船しているとは考えていなかった。
同日15時ごろ,A指定海難関係人は,舞鶴市冠島の北東方の釣場に至って,トローリングによる魚釣りを開始し,その後錨泊して魚釣りを続け,21時ごろ錨を揚げて帰港することとして,内浦港に向けて手動操舵で,機関回転数毎分2,500として20.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)をもって南下を開始した。
A指定海難関係人は,しばらく南下を続けたが,付近の灯台の灯質により灯台を区別して海図で灯台の方位から自船の概位を推定することなどができなかったので,自船の推定船位に不安を覚えて,途中で操業中の漁船に現在位置を問い合わせようと接近を試みたものの果たせず,付近を周回しているうちに自船の船位を完全に見失ってしまった。
23時20分A指定海難関係人は,鋸埼灯台から274度(真方位,以下同じ。)3.15海里の地点に達したとき,前方に見えた鋸埼灯台の灯光を押廻埼灯台のものと思い,船首をその灯光に向けて針路を094度に定め,20.0ノットの速力のまま進行した。
23時28分A指定海難関係人は,鋸埼灯台から274度1,180メートルの地点に至って,目指してきた灯光が,その高さなどから押廻埼の灯光と違うことに気付き,機関回転数を毎分2,000の10.0ノットの速力に減じたものの,慌てていてポータブル型のGPSプロッターを適切に使用するなど,船位の確認を十分に行うことなく続航した。
23時30分少し前A指定海難関係人は,陸側の関西電力株式会社大飯発電所の陸上灯火の方向に港があるものと思い,右転したところ,23時30分清和は,鋸埼灯台から268度550メートルの浅瀬に10.0ノットの速力のまま船首を153度に向けて乗り揚げた。
当時,天候は曇で,風力3の西風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果,清和は,船底に損傷を生じて浸水して浅瀬に擱坐したのち,風浪により大破した。
また,乗揚時にA指定海難関係人が,2日間の入院加療を要する顔面打撲等を負ったが,同人及び同乗者全員は近くの岩場に避難して,のち海上保安署の巡視艇により救助された。
(本件発生の事由)
1 A指定海難関係人が,小型船舶操縦免許証を受有していなかったこと
2 A指定海難関係人が,同乗の有資格者に運航に関する決定や操縦を委ねなかったこと
3 船位の確認を十分に行わなかったこと
4 鋸埼西方の浅瀬に向かって進行したこと
(原因の考察)
A指定海難関係人が,ポータブル型のGPSプロッターを適正に使用するなど船位の確認を十分に行い,浅瀬に向かって進行しなければ,本件は発生していなかったと認められる。
したがって,A指定海難関係人が,船位の確認を十分に行わないまま浅瀬に向かって進行したことは,本件発生の原因となる。
A指定海難関係人は,同乗者に有資格者がいることを知っていたが,無資格のまま清和を操縦し,その有資格者に運航に関する決定や操縦を委ねなかった。これらのことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
しかしながら,法令遵守の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,釣りを終えて福井県内浦港に向けて南下する際,船位の確認が不十分で,鋸埼西方の浅瀬に向かって進行したことによって発生したものである。
(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が,夜間,釣りを終えて福井県内浦港に向けて南下する際,ポータブル型のGPSプロッターを適正に使用するなどして船位の確認を十分に行わず,鋸埼西方の浅瀬に向かって進行したことは,本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては,同人がこれまでの自身の無資格操縦を深く反省し,今後二度と操縦しない旨を約していることに徴し,勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
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