(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月29日01時25分
長崎県三重式見港
(北緯32度48.4分 東経129度44.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二惣盛丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
24.43メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
3 事実の経過
第二惣盛丸(以下「惣盛丸」という。)は,はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和57年4月一級小型船舶操縦士免許取得)及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,平成16年11月22日11時30分長崎県三重式見港の係留地を発し,男女群島女島の南方沖合約30海里の漁場に到着して東方に移動しながら操業を繰り返したのち漁を打ち切り,同月28日21時00分樺島灯台から184度(真方位,以下同じ。)21.5海里の地点を発し,水揚げのため係留地に向かった。
ところで,本船の操業は,一航海を7ないし10日間とし,毎日04時ごろに起床して揚錨し,同時30分ごろから操業を開始して約40分掛けて投縄し,約30分間待機したのち,約4時間掛けて揚縄を行い,これを3回繰り返して漁獲物を箱詰めしたうえ,21時ごろ操業を終了し,夜間は,操業海域に投錨して23時ごろには全員休息するものであった。
また,船橋当直について,A受審人は,操業中及び係留地から漁場までが3時間以内のときには,自らが行い,6時間以上となるときには,時間割を決めて乗組員4人に行わせていたが,復航時の航程が今回のように4ないし5時間のときには,自らとB指定海難関係人の2人で受け持ち,同人が,乗組員の中で操船経験が一番豊富だったことから,途中で船橋当直を同人に任せ,三重式見港に入航する前に交代して当直に就いていた。
発航後,A受審人は,乗組員全員を休息させ,単独で操舵操船に当たって天草灘を北上し,やがてB指定海難関係人に船橋当直を委ねることにしたが,他の乗組員と同様に同人も操業の繰り返しで睡眠不足気味であることを承知していたものの,これまで同人が船橋当直中に眠気を催したときにはいつもその旨の報告を受けて船橋当直を交代していたことから,特に指示しなくても大丈夫と思い,眠気を催した際には速やかに報告するよう指示することなく,22時00分樺島灯台から190度14.0海里の地点に達したとき,船橋当直を同人に引き継ぎ,いつものように三重式見港沖合で起こすようにのみ指示して操舵室の後方に退いて休息した。
B指定海難関係人は,単独で船橋当直を引き継ぎ,舵輪後方のいすに座って引き続き天草灘を北上し,23時45分長崎県野母埼の大立神灯台西方約1海里の地点を通過し,翌29日00時14分肥前端島灯台から281度0.6海里の地点において,針路を肥前平瀬灯標の西方0.6海里に向く005度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.0ノットの速力で,肥前平瀬灯標から245度0.6海里の地点に当たる,転針予定地点に向けて自動操舵によって進行した。
定針後,B指定海難関係人は,転針予定地点に達したら船長を起こすつもりで,前方の見張りに当たっていたところ,01時00分ノ瀬灯標から175度3.6海里の地点に達したころ,操業の疲れと単調な船橋当直から眠気を催したが,すぐに転針予定地点に達するので居眠りすることはあるまいと思い,船長に報告するなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,船橋当直を続けているうち,いつしか居眠りに陥った。
こうして,B指定海難関係人は,01時14分少し過ぎ転針予定地点に達したものの居眠りしたまま転針する措置をとらずに続航中,01時25分惣盛丸は,ノ瀬灯標から078度1,300メートルの地点に当たる三重式見港沖防波堤北端の消波ブロックに,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,左舷船底に破口を,右舷船底に擦過傷と凹損を,及び左舷ビルジキールに破損をそれぞれ生じたが,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,長崎県三重式見港に向けて長崎港沖合を帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,三重式見港沖防波堤北端の消波ブロックに向首したまま進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直者に対し,眠気を催した際の報告を指示しなかったことと,船橋当直者が,眠気を催した際,船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,天草灘の漁場から長崎県三重式見港に向けて帰航中,操業の繰り返しで睡眠不足気味の甲板員を単独で船橋当直に就ける場合,居眠り運航とならないよう,同甲板員に対して眠気を催した際には速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,これまで同甲板員が当直中に眠気を催したときにはいつもその旨の報告を受けて船橋当直を交代していたことから,特に指示しなくても大丈夫と思い,同甲板員に対して眠気を催した際には速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により,同甲板員が居眠り運航の防止措置をとらないまま居眠りに陥り,三重式見港沖防波堤北端の消波ブロックに向首進行して乗揚を招き,左舷船底に破口を,右舷船底に擦過傷と凹損を,及び左舷ビルジキールに破損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が,夜間,単独で船橋当直に当たり,三重式見港に向けて長崎港沖合を帰航中,眠気を催した際,船長に報告して交代するなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,本件発生後眠気を催したとき船長に報告すれば良かったと深く反省し,安全運航に心掛けていることに徴し,勧告しない。