(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年2月26日05時18分
鹿児島県奄美大島笠利埼東方沖合トンバラ岩
(北緯28度32.8分 東経129度43.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船平和丸 |
総トン数 |
409トン |
全長 |
66.25メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
平和丸は,平成5年5月に進水し,主として奄美大島近海で石材輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,平成2年6月に四級海技士(航海)の免許を取得したA受審人ほか4人が乗り組み,空倉で,海水バラスト210トンを搭載し,船首1.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって,平成17年2月26日03時30分鹿児島県奄美大島名瀬港を発し,同島東岸の山間港に向かった。
ところで,A受審人は,平和丸が,4時間程度の航海を主としていたことから,各航海ごとに船長と交互に船橋当直に就き,奄美大島笠利埼東方沖合を幾度となく航行していたので,同沖合の水路事情を十分に承知し,夜間に通過する際は,同埼東方沖合1.4海里に存在する標高3.4メートルの平瀬及び同沖合2.0海里にある標高26メートルのトンバラ岩をレーダーで確認し,両岩礁の東方沖合を大きく迂回して航行することとしていた。
A受審人は,出港操船を終えた船長から引継ぎを受けたのち,03時40分単独で船橋当直に就き,その後奄美大島北西岸に沿って東行した。
05時00分A受審人は,笠利埼灯台から344度(真方位,以下同じ。)1.6海里の地点で,レーダーを6海里レンジとし,船橋前面の窓にもたれて見張りにあたり,針路を060度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.5ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
05時06分A受審人は,笠利埼灯台から013度2.1海里の地点において,操舵スタンドに肘をついて寄りかかり,自動操舵のまま090度に転針した。
05時10分A受審人は,笠利埼灯台から029度2.4海里の地点に達したとき,手動操舵に切り換えて針路を150度に転じたが,笠利埼灯台の灯火を一瞥して陸岸から十分に離れているものと思い,レーダーでトンバラ岩の位置を確認するなり,GPSプロッターを利用するなど,船位の確認を十分に行わなかったので,同岩に向首していることに気付かないまま自動操舵に戻して続航した。
こうして,05時15分A受審人は,笠利埼灯台から048度2.1海里の地点に達したが,依然船位の確認を十分に行わないまま進行中,05時18分平和丸は,笠利埼灯台から063度2.0海里の地点において,原針路,原速力のまま,トンバラ岩東側の暗岩に乗り揚げ,これを乗り切った。
当時,天候は曇で風力3の北風が吹き,潮侯は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
乗揚の結果,船首部船底外板に破口を伴う凹損などを生じたが,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,鹿児島県奄美大島笠利埼東方沖合において,同島東岸の山間港に向けて南下中,船位の確認が不十分で,トンバラ岩に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,鹿児島県奄美大島笠利埼東方沖合において,同島東岸の山間港に向けて南下する場合,同島東方沖合に存在するトンバラ岩を安全に航過できるよう,レーダーで同岩の位置を確認するなり,GPSプロッターを利用するなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,笠利埼灯台の灯火を一瞥して陸岸から十分に離れているものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,トンバラ岩に向首していることに気付かないまま進行して乗揚を招き,船首部船底外板に破口を伴う凹損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。