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平成17年門審第71号
件名

貨物船第五和丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年11月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第五和丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
バルバスバウ圧壊,船体中央部船底外板に凹損及び右舷ビルジキールに曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月1日03時30分
 福岡県倉良瀬戸
 (北緯33度54.4分 東経130度29.5分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五和丸
総トン数 199トン
全長 56.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット

3 事実の経過
 第五和丸(以下「和丸」という。)は,平成2年3月に進水し,主として九州及び瀬戸内海諸港間の鋼材輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,船長B及びA受審人ほか2人が乗り組み,空倉のまま海水バラスト100トンを漲水し,船首0.70メートル船尾2.35メートルの喫水をもって,平成17年5月31日17時40分長崎港を発し,関門港小倉区に向かった。
 これより先,和丸は,同月30日20時00分長崎港沖に錨泊し,翌31日09時20分同港に入港着岸して鋼材の揚荷役を行い,関門港に翌6月1日05時30分ごろ入港予定で発航したものであった。
 A受審人は,長崎港沖に錨泊後から31日08時に入港準備で起床するまで連続して7時間ばかりの睡眠をとり,着岸後,荷役作業は担当しておらず,荷役の進捗状況などを見ながら発航に備えて船内で過ごした。
 ところで,B船長は,船橋当直を00時から04時及び12時から16時までを次席一等航海士,04時から08時及び16時から20時までをA受審人,08時から12時及び20時から24時までを自らによる単独4時間3直制を基本とし,航海ごとに状況に応じて当直時間の割振りを定めていた。また,同船長は,平素,船橋当直者に対し,眠気を催したときにはいつでも呼ぶように指示していた。
 発航前,B船長は,A受審人及び次席一等航海士と打合せを行い,船橋当直を平戸瀬戸通航に合わせて20時から翌日01時までを自らが,01時から04時までをA受審人がそれぞれ入直する体制とし,和丸に乗船して2回目の航海であり,同瀬戸通航経験の少ない次席一等航海士から,船長と共に当直に就いて同瀬戸通航時の操船などを学びたい旨の要望を受け,同航海士と合入直することとした。
 18時30分A受審人は,出港操船に当たったB船長と交代して単独の船橋当直に就き,20時過ぎ当直を終えて自室に戻り,ベッドに横になったが,発航前に打合せを行っていたものの,その後,次の当直を04時からとばかり思い込んでいたこともあって,自室の照明灯を点灯したまま,眠りに至らずにいたところ,翌6月1日01時00分次席一等航海士から当直交代の連絡を受けて昇橋し,01時02分福岡県仏埼北方約3海里の地点で,同船長と当直を交代して単独の船橋当直に就き,睡眠不足の状態で,舵輪後方のいすに腰を掛け,自動操舵により東行した。
 01時45分A受審人は,玄界島灯台から005度(真方位,以下同じ。)0.9海里の地点に至り,針路を倉良瀬戸中央部に向く047度に定め,引き続き機関を全速力前進にかけ,10.0ノットの対地速力で,時折,レーダーで同瀬戸中央部に向首していることを確認しながら進行した。
 02時20分A受審人は,筑前相ノ島灯台から288度2.1海里の地点に差し掛かり,眠気を催すようになったので,ウイングに移動し,周囲の見張りを行いながら外気に当たっていたところ,ある程度眠気を払拭できたように感じ,同時25分操舵室に戻り,再びいすに腰を掛けて続航した。 
 02時30分A受審人は,筑前相ノ島灯台から340度2.0海里の地点に達したとき,睡眠不足の状態であり,また,いつもなら就寝中の時間帯であったことや,周囲には注意を要する他船が見当たらない安堵感もあって気が緩み,再び眠気を催すようになったが,ウイングに出て外気に当たったりしているうち,ある程度眠気を払拭できたことから,居眠りに陥ることはあるまいと思い,船長に報告して昇橋を求めるなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,いすに腰を掛けたまま当直を続けるうち,いつしか居眠りに陥った。
 こうして,和丸は,居眠り運航となり,03時23分少し前倉良瀬灯台から187度1.6海里の,針路を倉良瀬と福岡県地ノ島北西端との間に向ける転針予定地点に達したが,転針が行われないまま進行し,03時30分倉良瀬灯台から140度2,000メートルの地点において,原針路,原速力のまま,地ノ島西岸の岩場に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力1の東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 B船長は,自室で就寝中,船底に衝撃を感じて昇橋し,乗揚の事実を知り,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,バルバスバウの圧壊,船体中央部船底外板に凹損及び右舷ビルジキールに曲損を生じたが,高潮時に自力で離礁し,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,玄界灘東部を倉良瀬戸に向けて東行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,福岡県地ノ島に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独の船橋当直に就き,玄界灘東部を倉良瀬戸に向けて東行中,眠気を催した場合,睡眠不足の状態であったから,居眠り運航とならないよう,船長に報告して昇橋を求めるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,ウイングに出て外気に当たったりしているうち,ある程度眠気を払拭できたことから,居眠りに陥ることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,予定の転針が行われず,福岡県地ノ島に向首進行して同島西岸の岩場への乗揚を招き,バルバスバウの圧壊,船体中央部船底外板に凹損及び右舷ビルジキールに曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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