日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成17年門審第64号
件名

漁船勢栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年11月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年,織戸孝治,片山哲三)

理事官
勝又三郎

受審人
A 職名:勢栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
バルバスバウ欠落並びに水線下及び水線上の両舷側外板に破口

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年2月13日03時00分
 長崎県厳原港入口南部虎埼
 (北緯34度11.1分 東経129度17.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船勢栄丸
総トン数 8.5トン
全長 15.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
(2)設備及び性能等
 勢栄丸は,平成8年2月に進水したFRP製漁船で,いか一本釣り漁に従事し,船体のほぼ中央部に位置する操舵室には中央部に舵輪を備えるほか,自動操舵装置,レーダー,GPSなどが設置され,同室内後部には,床からの高さ約60センチメートルのところに板が船横方向に設けられており,同板の下に寝床が設けられ,また,同板に腰掛けた姿勢で舵輪に手が届くようになっていた。

3 事実の経過
 勢栄丸は,A受審人が1人で乗り組み,平成17年2月12日17時ごろ長崎県厳原港を発し,同港南東方沖合の漁場に至って,いか一本釣り漁を行い,いか約40キログラムを漁獲したのち,翌13日02時00分船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,耶良埼灯台から123度(真方位,以下同じ。)10.1海里の地点を発進し,同港に向け帰途についた。
 ところで,A受審人は,1年のうち約10箇月は厳原港を基地として夕刻に出漁して翌早朝には帰港する一夜操業を続けており,しけや月夜間などに休漁して自宅に帰って休息をとるときを除いて,睡眠は入港後水揚げなどを終えたのちに操舵室後部の寝床でとっていたものの,同床が狭く十分な睡眠がとれないことから,夏場は,給油所にある宿泊施設に泊まって睡眠不足とならないようにしていた。
 ところが,本件発生前の6日間は海上が平穏な日が続いて連日出漁していたことや,冬場であって船内で宿泊しており,十分な睡眠がとれなかったことから,慢性的な睡眠不足となっていたうえ,疲労が蓄積する状況になっていた。
 漁場発進時,A受審人は,機関を全速力前進にかけ,操舵室後部の板に腰掛けた姿勢で見張りにあたり,その後,操業中の漁船を替わしながら進行し,02時42分耶良埼灯台から127度3.2海里の地点に達し,厳原港まで3.0海里となったとき,針路を302度に定め,10.0ノットの対地速力で,自動操舵により続航した。
 A受審人は,それまで,操業中の漁船を替わすことで緊張していたものの,付近に漁船がいなくなったことや,海上が平穏であったことから,緊張がゆるみ,疲労感を覚える状況となった。
 このような状況のもと,A受審人は,板に腰掛けた姿勢をとり続けていれば覚醒度が急激に低下し,居眠りに陥るおそれがあったが,眠気を覚えていなかったので居眠りすることはないだろうと思い,板から立ち上がり手動操舵とするなどして居眠り防止の措置をとることなく,板に腰掛けた姿勢のまま進行中,いつしか居眠りに陥った。
 こうして,勢栄丸は,居眠り運航となり,対馬海流の反流の影響によって左方に4度圧流されながら厳原港入口南部の虎埼に向かっていたものの,針路修正がなされないまま続航中,03時00分耶良埼灯台から186度1,020メートルの地点において,原針路,原速力のまま,虎埼の岩場に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で,風力1の北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は,衝撃で目覚めて乗り揚げたことを知り,事後の措置にあたった。
 乗揚の結果,バルバスバウが欠落し,水線下及び水線上の両舷側外板に破口を生じたが,引船によって引きおろされ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 本件発生前の6日間,自宅に帰って休息をとることができなかったこと
2 慢性的な睡眠不足になっていたこと
3 疲労が蓄積した状態であったこと
4 眠気を覚えていなかったので居眠りすることはないだろうと思ったこと
5 居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
6 腰掛けた姿勢をとり続けたこと
7 居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件乗揚は,夜間,厳原港南東方沖合の漁場から同港に向けて帰航中,居眠り運航となり,同港入口南部の虎埼に向かって進行したことによって発生したものであり,船橋当直者が,緊張がゆるみ疲労感を覚える状況となったとき,居眠り運航の防止措置をとっていれば,居眠り運航となることはなく,虎埼に向けて圧流されていることに気付き,修正針路をとることができ,本件発生に至らなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,緊張がゆるみ疲労感を覚える状況となったとき,眠気を覚えていなかったので居眠りすることはないだろうと思い,居眠り運航の防止措置をとらず,腰掛けた姿勢をとり続け,居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,慢性的な睡眠不足となっていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,居眠りを誘発する要因となるものであり,単独の乗り組みで居眠りに陥れば,直ちに居眠り運航となるものであるから,本件発生当時は冬場であったものの,今後は,夏場に利用していた給油所の宿泊施設を利用するなどして十分な休息がとれるよう,睡眠不足の解消に努めるべきである。
 A受審人が,本件発生前の6日間,自宅に帰って休息をとることができなかったこと,及び疲労が蓄積した状態であったことは,自宅から遠く離れた厳原港を基地として,単独の乗り組みでいか一本釣り漁の一夜操業に従事する就業形態ではあり得ることであり,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,いずれも本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,厳原港南東方沖合の漁場から同港に向けて帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同港入口南部の虎埼に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独の船橋当直に就いて厳原港南東方沖合の漁場から同港に向けて帰航中,それまで前方にいた操業中の漁船がいなくなり緊張がゆるみ,疲労感を覚えるようになった場合,慢性的な睡眠不足のうえ,連日の出漁で疲労が蓄積した状態であり,板に腰掛けた姿勢をとり続けると,覚醒度が急激に低下して,居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,立ち上がって手動操舵とするなどの居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,眠気を覚えていなかったので居眠りすることはないだろうと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,同港入口南部の虎埼に向かって進行して乗揚を招き,勢栄丸のバルバスバウに欠落を,水線下及び水線上の両舷側外板に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION